裸の忠誠
二人の王子は捕らえた男の顔を覗き込む。
「なんだ、ザムか」
風の王子は面倒くさそうに足を離す。
「国境警備隊の青年ですか。
マダラフ殿から殺すなと言われていたのに残念ですね。ここで殺す事になるとは」
雷の王子は容赦なく踏みつける足に徐々に力を入れていく。
「何も見てません!見てませんっ!!目を潰します!お願いします!!何でもしますっ!!」
軋む骨の痛みに耐えながらザム大きな声で叫ぶが、バルガンは更に踏みつけていく。
見かねたマダラフはバルガンの腕を掴み申し訳なさそうな顔で語りかける。
「バルガン殿、すまないが殺すな。彼のような若い鬼族の為に我々は国を作っていくのだろ?」
二人の王子が数秒視線を交えると、ザムを支配していたその痛みはスッと消え去った。
「あっ、あっ!ありが、ありがとうございます、、、」
ザムは解放された安堵から力なくため息をついて空を見た。
するとそこには空高く足を振り上げて顔面を踏みつけようとするバルガンの姿が、
ドゴォォ!!!と大きな音が響き渡り、近くにいた小動物が一斉に逃げていく。
そして土煙が晴れると
首にしっかりと繋がっているザムの頭と、その横にあるヒビ割れた地面が姿を現した。
「この事は誰にも話さないでくださいね」
氷ついた笑みを浮かべる、その端正な顔を眺めながらザムは盛大に失禁をした。
ザムは解放されたがそのまま帰る訳にもいかず、失禁したズボンを湖で洗い、焚き火で乾かしながら二人の王子の話を聞いていた。
「非戦闘民への虐殺を目論んでいた魔物使い達はその魔物も含めて死亡が確認されました。マダラフ殿にはお手間をおかけしました」
「いやっ。こちらも人攫いに加担していた国境警備隊員を掃除してもらった。一番の重労働だったろう」
ザムはもちろん驚いた。
自分の所属していた警備隊のことだろう。
しかしここまでに色々と経験してしまったことで、騒ぐ気にはなれなかった。
それよりも国内では異常者として有名なあのバルガンが敬語を使っている姿の方が驚いているくらいだ。
「それにしても今回も強く殴ってくれましたねぇ。いくら本気に見せなくてはいけないって言っても組手なのは忘れないでくださいね。」
「何を言っておるのだ。歯が2本も欠けたのだぞ。歯の恨み分くらいは受けて貰わないといけない」
それからも2人はたまにくだらない話を織り交ぜながら、国のあり方について話し合いをした。
数十分話した後に2人は立ち上がり、この不思議な集まりを終えようとしていた。
「バルガン殿、国の膿を出し切るまでもう少しだ。宜しく頼む。」
「えぇ。鬼の国を一つにするまで頑張りましょう。」
そう言って2人は軽く拳を突き合わせてそれぞれの方向に歩いていく。
が、マダラフはザムが視界に入ると思い出したかのように立ち止まる。
「あぁ、そうだったな、、、
ザムよ。明日から俺の側近として働け。悪いが拒否権はないぞ。」
ザムは少しあっけにとられたが、すぐに王子の前に跪いた。
美しい森の中で忠誠を誓うが、下に何も履いていないのがなんとも間抜けな光景であった。
遠くでバルガンが
「死ぬより良かったですねぇ」
と言っているのが聞こえた。




