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鬼の王子の異世界留学物語  作者: 田ノ島夜
番外編 二人の王
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鬼神の森の秘密は目を潰す

先日の戦いも凄惨だった。

両群ともに死力を尽くし、森だったそこは激しい戦いで平原のようになっていた。


しかし驚くべきはその死者数。

風の国、国境警備隊5名

雷の国、魔物使い6名

以上。


戦闘の規模に比べて死者が少なすぎる。

これはひとえに鬼族の体の強さに由来する結果だ。

そしてこの戦争が終わらない理由の一つでもある。


二人の王子は周りが戦いの手を止めるほど、激しくぶつかり合い、最終的には両者ボロボロの状態で両群ともにこれを回収すると引き下がっていった。


これがこの国の日常である。




その数日後の風の国、国境警備隊の青年ザムは森を彷徨っていた。

狩りの最中に方向を見失い自陣が分からなくなってしまったのだ。

深く生い茂るその森は歩けど歩けど同じ景色。

同じところを歩いているのではと木の枝を折ってみたが、その折れた枝には二度と会えなかった。


「まずい、まずい、まずい、まずい!!」


ザムは徐々に焦りから平常心を失っていく。

もしかしたら、雷の国に入ってしまうかもしれない。

いやっ、立ち入りが禁止されている鬼神の森に入ってしまう可能性もある。

そんな事になってしまったらと、焦りから冷や汗と動悸が止まらなかった。



ザムも恐れる鬼神の森とは鬼の国両国に伝わる伝承のその舞台である。



鬼神は荒れ果てた地であった鬼の国を実り豊かにする代わりに人々に条件を出した。

決して私の姿を見てはいけないと。

しかしある青年が青い花が咲き、綺麗な緑色の湖がある森に迷い込んでしまい、鬼神のその美しく輝く姿を目の当たりにしてしまう。

見とれていたが、まずいと思い直し立ち去ろうとすると後ろから鬼神が叫ぶ。

『見たな。見てしまったな』と

森は徐々に枯れていく。そして鬼神は青年の目の前まで迫る。

が、鬼神は青年の姿を見て驚くのだった。

青年は自らの目を潰していた、そして鬼神に言った。

『どなたか存じ上げませんが私は目が見えないので、お姿を見る事はできません』

それを見た鬼神は溜飲を下げ、森はまた青々と生い茂っていった。

という話である。


この伝説から鬼族は決まって親から、(鬼神の森に入れば目が潰れる)と言われて、その言いつけを守るのだ。


ザムはおとぎ話を完全に信じてはいない。

しかし深い茂みを抜けたその先で足元に青い花がたくさん咲いているのを見てゾッとする。

そしてエメラルドに輝く湖までも目に飛び込んできた。

まさにここが鬼神の森だ。


ザムは茂みの中に急いで戻る。

すると鬼神の森の方から足音がした。

ザムは小さく「ヒィッ!」と声を漏らしながら振り返ってしまう。


そこには包帯を巻いた敵国の王子バルガンがいた。

ザムは口を押さえながら茂みの中に潜む。

鬼神より恐ろしい存在に出くわしてしまった。

しかし一体なぜバルガンがそこにいるのだろうか、そんな事を考えていると反対側の茂みから、恐ろしいほどの巨体が姿を現した。


自国の王子マダラフだ。

彼もまた先日の傷が癒えていないのは明らかである。


両者はお互いの姿を見つけると、ゆっくりと近づいていく。

激しい衝突があると感じザムが目をつぶったその時だった。


、、、、


何も起こらない。

ザムが目を開けるとそこには、地面にあぐらをかいて座りながら談笑をしている二人の姿があった。


「ふぇ?」


あまりにも予想しなかった展開にザムの口から情けない声が漏れてしまった。


すると二人の王子は同時にザムの方を鋭い眼光で睨みつける、

そして気づいた時にはザムは大の字の状態に押し倒され、王子たちに腕を片方ずつ踏みつけられ動けない状態となっていた。




ザムは涙ながらに思った。


目を潰しておけば良かったと。

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