男たちの獅子狩り準備
努力も虚しく、数日経った今もピーターの作ったスーツを着た状態ではカイルは一歩を踏み出すことすらできなかった。
いつもは冷静沈着なカイルもイラつきを表に出すようになってしまった。
最終的にピーターも諦めモードになってしまった。
「カイル、、、
すまぬのだよ。
理論上は動けるはずなのだが、もしかしたら人間には難しいのかも知れぬのだよ。」
それを聞いてカイルは座り込んで床を殴りつける。
「くそっ!
みんなが頑張ってくれたのに僕が結果を出せないなんてなんて情けない王なんだ!!」
珍しくカイルが取り乱している。
ここは友として俺たちが支え合わなくてはいけないな。
俺はカイルの手を掴み起き上がらせようとする。
「他にも強くなる方法はあるはずだ。
ほら、カイルの手から大きな魔力を感じる。
自分の可能性を信じて、また一からみんなで頑張ろう。」
「むむっ?」
俺の話を聞いてピーターはいつかのようにドタドタと音を立てて近づいてくる。
「まさかリックス君は他人の魔力を感じる事ができるのかね?」
いつもより顔が近い。
なんだっていうんだ?
「そうだけど、、、
それが何かあるか?」
「あるのだよ。あるのだよ。
他人の魔力を感じる事ができるなんて、やっぱりリックス君は魔力の感性がずば抜けてるのだよ。」
カイルとソウも何があったのか分からないといった顔だった。
ソウが自分の坊主頭を撫でながら質問をする。
「たしかに人の魔力を感じる事ができるって話を聞いた事はないが、それがなんなんだ?」
ピーターは良く聴いてくれたと言わんばかりに嬉しそうに答える。
「学術的には魔力を感じられるってことは動かせるって事なのだよ。」
カイルが理解をして久しぶりの笑顔を見せる。
「リックスに魔力を動かしてもらって感覚を覚える事ができるんだな。」
「そうなのだよ。
早速やってみるのだよ。
最初はゆっくり動かしてみてくれなのだよ。」
言われた通りカイルの背中に手を当てて魔力を動かしてみる。
自分の魔力と違い抵抗を感じて上手く動かせない。
しかし適当にならば問題なく動かせるので色々な方向に力を動かしてみる。
カイルは集中して目を閉じながら感激していた。
「これが魔力か。
こんなに身近にあったのに気づかなかったなんてな。
この感覚が分からなければ、魔力のコントロールは難しいはずだ。」
こうして感覚を掴んだカイルは少しずつスーツを着た状態で自分で体を動かしていった。
それから2週間が経過した頃、カイルはピーターの作ったスーツを自由に動かせるようになっていた。
全く動けなかった数日間が嘘のように走り回っている。
最初はぎこちなく動いていた剣術の訓練も装備未装着の時と同じかそれ以上に動けるようになっていた。
そういえばこのカイルの装備だが、ヒントとなった霊族の名前を取って、ディールスーツと名付けられた。
確かにあいつは強かったな。
体力に負荷がかかるが、徐々に魔力の放出量を上げていく。
すると一瞬だが俺でも追いつくのが困難なスピードと、木刀ではもう耐えられないようなパワーを出す事ができた。
ピーター曰く、もうすこし効率的に魔力を使えるようになれば長時間戦えるとのことだ。
俺たちがいつものように訓練しているとユーラルさんがやってきてしばらく眺めていた後、話しかけてきた。
「皆さま性が出ますね。
私も体を動かしたくなってきましたよ。
それよりもリックス様。
時間がかかってしまいましたが、例の件は無事に許可がおりました。
これから宜しくお願いします。」
おぉ!やっと俺も無職じゃなくなるのか。
カイルの訓練をして1ヶ月近くなるが、実はその間にも俺の就職活動は続いていたのだった、
ユーラルさんが紹介してくれたのは、タイガルド軍の特別戦闘指南役というポジションだ。
最初はタイガルド軍に入り働く予定だったが、「王子の身分で他国の軍に入るなんて自覚がありません!」とメレスに怒られた。
なのでユーラルさんに相談したら指南役という外部講師のような役職を提案してもらったのだ。
人選は政治と切り離す決まりらしく、軍への人事はカイルの推薦だけでは難しいそうで、面倒な手続きを踏んだ。
軍の上層部の人たちと面談したり、訓練の最中に少し実力を見せたりして結果待ちの状態だったのだ。
基本的には体術の指導をする事になる。
最初この話を聞いた時は体を休める時間がないのではと心配になったが、成果さえ出せば毎日顔を出さなくていいらしいので安心した。
しかし王家の仕事には変わりないので給料はかなりいい。
これで胸を張って一家の大黒柱と名乗れるぞ。
カイルも強くなっているし、俺の就職も決まった。
全てが上手く行っている。
あとはファルス先生を倒すだけだな。




