男たちの決起
カイルの王室は重い空気に包まれていた。
あの先生が大人気ないのは知っていたが、娘のこととなるとここまでか。
仮にも相手は自分の国の王様だぞ。
いつになく暗い顔をしたソウも静かに語り出す。
「カイルと良く話してたんだ。
俺とカイルとリックスが一緒に結婚パーティーできたら楽しいだろうって、、、」
俺も知らないうちに巻き込まれてるじゃないか。
メレスとの結婚は秒読みの軌道に乗ってたのになんて事を。
しかし俺も抜け駆けはできない。
ピーターに提案をする。
「ピーター。何か策はないか?
なんなら預けてある海神の迷宮の魔石は使っていい。」
レヴェン級の魔石がとれていたが、使い道に慎重になっていた俺たちはまだ国宝級の魔石を保有していたのだ。
ピーターは難しい顔で悩みながらも答える。
「リックス君とファルス先生は無詠唱だから魔石のコントロールがきくのだよ。
しかしカイルは詠唱型。
リックス君みたいに魔石内の魔力を繊細にコントロールできないのだよ。
そのコントロール無しには、、、、
あれ?そういえば、、、、」
ピーターは紙に何か書き始めた。
こうなるともう止まらない。
彼の手が止まるのを待っているとやっと説明タイムに入ってくれた。
「そういえば霊族は魔石の動力のみで繊細な動きをしていたのだよ。
これを活用した装備を作ればいけるかもしれないのだよ。」
なんか分からないがピーターが思いついてくれたようだ。
だがそんな時間あるのか?
「ピーター。それはいいんだけど、霊王の水晶の解析と同時進行で大丈夫なのか?」
「それは大丈夫なのだよ。
というより、解析は終わっていて後は映像を見るだけだけど、これがかなり長いのだよ。
複数のモニターを出せるから今もタイガルドの兵士達が人海戦術で確認中なのだよ。」
たしかに何年分を確認しなきゃいけないんだって話だよな。
解析には時間がかかりそうだ。
そういう事で俺たちはカイルを勝たせる為に尽力することにした。
ピーターは霊族を解剖して装備の開発。
俺はファルス先生の代わり。
ソウは剣術の指南をする。
戦ってみて分かるが、カイルはやはり隙がない。
カイルから身の危険を感じるような攻めは見られないが、こちらからもなかなか攻めにくい相手だ。
カイルは一人で行動する立場ではないので本来ならこれでいいのだろう。
カイルが耐えている間に他の者が駆けつけて数的有利を作り出す戦法だ。
しかし今回は一人で勝たなければいけないので、ソウより剣の国に伝わる攻撃特化の型『嵐』を学ぶ。
今日はまだ序盤なので俺は動き回ったりせずに闇魔法を纏ってサンドバッグになるだけだ。
闇魔法を使えばただの木刀は痛くはないが正直つまらない。
しかしみんなの幸せのためだ。
俺は斬られる側からの意見を伝えたりして少しでも役に立てるように頑張った。
2日目、城に行ってカイルに会うと手にはバンテージが巻かれていた。
『擦りきれないように防止策さ。』と言って笑っていたが、手には血が滲んでいた。
きっと夜中も嵐の型を練習していたのだろう。
俺も頑張ろうと気を引き締め直した。
それから一週間経過するとカイルの攻撃は一流の域に達していた。
嵐の型で怒涛の攻撃をして、危なくなったら元から得意な防御。そして隙を突いて嵐の型。
これが完全に身についてきた。
そしてその日、待ちに待ったピーターの自信作が完成した。
それは胸に大きな魔石が埋め込まれた伸縮する厚い樹脂でてきた全身スーツだった。全身に白い血管のような模様が描かれている。
着る前は全身タイツを着たダサいカイルを見なければいけないのかと思ったが、血管の模様が異様であることと鍛えられたカイルの体格が良いことが相まって、ダークヒーローの戦闘服のようで格好良かった。
そして早速試してみることにした。
ピーターが説明をする。
「カイルは詠唱型だから魔法の発動はやはり言葉で行わなければいけない。
だからまずは僕が魔石に対してインプットしておいた詠唱をするのだよ。
『海神の魔石よ。我に敵を滅ぼす力を』と言えば全身に魔力が通るのだよ。
そしてここからはカイルにとって未知の領域である、魔力コントロールをしていくのだよ。」
カイルは勢いよく立ち上がり一回深呼吸をすると詠唱を始める
「海神の魔石よ。我に敵を滅ぼす力を。」
すると魔石が光り、その光が広がるように全身の血管模様が白く輝き出した。
かなりの魔力が全身を伝っている事が分かる。
これはファルス先生に一泡吹かせられそうだ。
しかし現実はそう上手くいかなかった。
スーツが起動した状態ではカイルは一歩動くこともできなかったのだ。
「詠唱型の人間が魔力コントロールをするのはここまで難しいのか。」
カイルは汗をダラダラ流しながら悔しそうに唇を噛み締めていた。
それからは来る日も来る日もスーツを着て動く練習をしたが、一向に進歩は見られない。
カイルの事だ。恐らく夜も一人で挑戦してるのだろう。彼は日に日にやつれていった。
こうして俺たちの挑戦に早くも黄色信号が点滅したのであった。




