凍てつく怒り
今回のみカイル目線の話となります。
僕の二度目の戦争は心強い仲間たちと一緒だ。
崖の上に我らの軍、崖の下に霊王の軍が陣取っている。
前回参加した戦争よりも状況はよっぽどましだが、やはり作戦通りにいくほど戦争は優しくなかった。
計画ではもう霊族はコントロール不能になり、人外の騎士のみ討伐する時間だが、霊族達はピンピンしている。
リックス達に何かあったか、、、
いずれにしろ戦わなければいけない。
しかしこのパターンも考えてはいた。
霊王を倒しても霊族は止まらないという可能性もあったからだ。
が、流石にこれは考えてなかった。
巨大な黒い門から出てきたアレは間違えなく人外の王より強い。
霊王軍の一人が近くに来て大きな声で叫ぶ。
「一騎打ちだ。
こちらは人外の帝王を出す。
そちらも選べ!!」
人外の王が出てきたらメレスに任せて、その他を別の人間で対処するつもりだったが、まさか王より強い者を召喚されるとは。
退却を視野に入れた相談をしよう。
そう思った時だった。
崖から一人、あの化け物に向かって飛び降りていった。
リックスとお揃いの黒い鎧を着たメレスだ。
彼女は初めて会った時のように宙から舞い降りて地面にヒビをいれながら着地。
ゆっくりとした足取りで向かっていった。
ユーラルが崖の上から叫ぶ。
「メレス殿!!
私の家族の事は構わない!
ソレは尋常ではない。
一度退却をしましょう。」
それを聞いてメレスは立ち止まる。
言うことを聞くのかと思ったが、振り向かずに話し出した。
「霊族は一度、リックス様に大怪我を負わせています。
任せて下さい。
、、、ぶっ殺します。」
その背中から伝わる気迫に誰も止める事は出来なかった。
「シェリたん。もしもの時はメレたんを回収するよ。」
「ルルのタイミングに合わせるから指示して。」
シェリルとルルもすぐに助けられるように崖の淵で見守った。
メレスの姿を視界に捉えると帝王は叫ぶ。
「ブゥオォオオォ!!」
「叫び声もブサイクですね。」
そう言うとメレスは目を赤く光らせて鬼化に入る。
帝王は4つの剣先を揃えて突きの構えを取り、一気にメレスへ向かっていった。
それは踏み込みなどではなく、何かが発射されたかのようなスピードだ。
誰もがメレスは一撃で殺されたかと思った。
が、メレスはその剣先を両手で抑えていた。
あろうことかその体格差を諸共せず、力負けをしていない。
それどころか押し返してきている。
しかし帝王はここで一度バックステップを入れる。
上手い。メレスは前のめりに倒れそうになる。
そこに帝王は右手の二連撃を上から叩きつける。
メレスは転がって一撃目をよけて、体勢を立て直した後、二撃目を拳で受ける。
受けるというより殴って弾き返した。
拳で刀を殴って問題ないのだろうか。
そこからはエンペラー種特有の4本の腕から繰り出される目にも止まらぬ連撃をメレスが拳で殴り返すという展開になった。
上から横から斜めから。
全ての方向からの斬撃をメレスは拳で肘で、時には足を使って受け続ける。
防戦一方だった。
鬼化をすればキング種には勝てる。
帝王相手でもいい勝負だろうと思っていたが、甘かったのかもしれない。
攻撃の隙が全くなかった。
敵の連撃は3分経過しても止まらない。
地獄の刻のように長く感じる。
生ある者ではない敵は疲れを知らない為、疲弊して止まる事はないのだ。
それに比べてメレスはみるみる疲労が顔に出てきた。
どうにかして助けるべきかと考えたその時、遂にメレスは力無く腕をダラっと下げてしまう。
そこに容赦なく帝王の4本の刀が交差するようにメレスを斬りつけた。
僕がもう少し早く決断しなくてはいけなかった。
メレスの首が宙に舞うのは決定的だ。
しかしその時は訪れなかった。
帝王の剣はメレスに当たると、あろうことか粉々に砕け散った。
メレスは何もしていない。
刀の劣化か?いやっ!それでもあんな砕けかたはしないだろう。
帝王は使い物にならなくなった刀を捨てて今度はメレスを殴りつける。
一呼吸して敵に向き直ったメレスは敵の攻撃にタイミングを合わせて自分の拳を叩きつけた。
すると今度は帝王の腕が粉々に砕け散る。
その一撃が決まった直後、メレスは人外の帝王に背を向ける。
まるっきり背中を見せている相手に一気に襲いかかろうと帝王は足を出そうとするが、その一歩が出ない様子だった。
よく見るとメレスと帝王の足元にある草が枯れていた。
メレスは歩きながら話し始めた。
「あなたに生があればこの寒さや冷たさに気づいたのにね、、、、。
鬼化、モード『氷鬼』。
リックス様との修行の成果です。
霊族よ、、、借りは返したぞ。」
そう言うとメレスは助走をつけた全力の拳を帝王の顔面に見舞った。
人外の帝王は顔を粉々に砕かれる。
残った腕が制御を失いダラっと下に落ちたが、凍った足腰は倒れる事を許さなかった。
そして少しの間を置いてタイガルド陣営は大きな雄叫びに包まれた。
僕もこの大きな勝利に大きな声で叫んだ。




