王族達の新居祝い
朝起きるとメレスの姿は無く、寝袋は綺麗に畳まれていた。
一階に降りて行くと台所に立つメレスの姿が目に映る。
幸せってこういう事かもしれないな。
「リックス様。おはようございます。
もう少しで朝食の準備ができますよ。
旅に出てる時とあまり変わらないメニューですが。」
テーブルを見ると大量の朝ごはんが盛られていた。
まずクミという芋で作られたマッシュドポテト。
クミはエルフが改良した芋で、とにかく収穫までが早いのが特徴だ。
これが開発されてから飢饉がなくなったと言われている。
次にクッカーという種類の鳥の卵で作った目玉焼きだ。
クッカーはどこにでもいるので、旅の途中で何度も俺は卵料理に挑戦していた。
その中でメレスの一番のお気に入りは目玉焼きだったらしい。
それと野菜のスープだ。
この世界のスープは塩で味付けられた実にシンプルなものが一般的だが、メレスには出汁をとるというテクニックを教えてある。
多分今日何かの魚から取ったな。
これも美味しいが、元日本人としては、いつか味噌を開発したいと思っている。
朝ごはんを食べ終わったので片付けをしようとしたらメレスに腕を掴まれた。
「リックス様。
私がやりますから置いておいてください。」
そうは言っても共同生活なのだから俺も働こう。
彼女にばかり負担がかかってしまう。
「大丈夫。
これくらいやらせてくれよ!
俺も家事の一つや二つ、、、」
徐々に掴まれている手の握りが強くなっているようなきがする。
「王族としての自覚を持ってください。皿洗いなどしてるのを見られたらどうするのですか。」
怒られた、、、
いつかピーターが鬼嫁と言っていたのが思い出されるな。
食休みしたら2人で組手をする。
メレスは本当に強くなったので闇魔法を纏わなければ手足がイカれてしまう。
ところで王族が外で彼女に殴られたりしてるのは別に構わないのだろうか。
そうやって汗を流していると家の目の前に大きな馬車が着いた。
中からカイルとユーラルさん、ピーターとルルも出てくる。
カイルは爽やかな笑顔で俺たちに手を振っていた。
「親友が家を構えたからな、お祝いを持ってきたぞ。」
そう言って馬車の荷台を開けると高価そうな食器や調理器具、タオルなどが出てきた。
ユーラルさんがせっせと運び込む。
「これはお祝いというか各国からの献上品だ。
溜まっていく一方だから使ってやってくれ。」
タダで貰うには高価そうな物ばかりだが、お言葉に甘えて貰うことにした。
メレスも今日買いに行こうと思っていた物ばかりと喜んでいた。
そしてカイルは続ける。
「僕からの本当の贈り物はこれだ。
タイガルドでは昔から家を構えた時に親から子へ剣が送られる。
遠くにいる君たちのご両親に代わって是非僕から贈らせて貰いたい。」
そうしてとても高価そうな剣を手渡された。
装飾が多い訳ではないのだが、一目見ただけで名刀だとわかる一振りであった。
「カイル。ありがとう。
これは家宝にさせて貰うよ。」
「間違ってもこれでメレスに斬られないようにな。」
カイルはニヤリと笑って俺の肩を小突く。
「カイル様、そんなことしませんよ!」
メレスは顔を赤くして反論していた。
ピーターだったら引っ叩くのにカイルには口で言うだけだなんて、やっぱり男は顔なのかもしれないな。
そのピーターも俺にプレゼントをくれた。
ルルと二人で用意した物らしい。
それは大小の2つの水晶のようなものだった。
「これは言ってみれば防犯装置なのだよ。
大きい水晶を家の真ん中に置いて、小さい方は持ち歩く。
そして小さい方に魔力を一度加えると結界が張られて、もう一度魔力を加えると解かれるという仕組みなのだよ。」
「リッ君、メレたん、良かったらすぐに試して見たいんだけどいい?」
俺たちは了承してみんなで家の中に入る。
ユーラルさんはあの汚かった空き家が1日でここまで片付いたことにびっくりしていた。
早速小さい方に魔力を流し込む。
すると『プンッ』という音が家の外からした。
ピーターが魔眼を使って確認する。
「大丈夫。魔力の歪みも消えた。
成功なのだよ。」
ピーターのその声を聞くと俺とメレスはカイルとユーラルさんのいる方へ戦闘姿勢をとる。
すかさずユーラルさんはカイルを守るように前へ出て剣を構える。
「いったいどうしました。
あなた方とはいえカイル様に対してそのような行為は見過ごせませんぞ。」
カイルを守る為、ユーラルさんは老いても凄い気迫だった。
しかしその守られているカイルがユーラルさんの背中から話し出す。
「違うぞユーラル。
僕じゃない。お前だ。」
カイルのその手には剣が握られていた。
「いっ、一体どういうことでしょうか。」
驚きの表情のユーラルさんの問いにピーターが離れた所から答える。
「前から少しおかしいと思っていたのだよ。
城に来てからカイルの周りで微量の魔力の歪みが見えていたのだよ。
調べてみたらそれの歪みはユーラルさんといる時だけ。
だから色々な方法を使ってその歪みを調べてみるとユーラルさんが遠隔で監視されている事が分かったのだよ。」
「そこで私とピー君で開発したこの結界。
これはジャミング機能も付いてるから、自然な流れを作って監視の目を欺いてユーラルさんを問い詰めようとした訳。」
一瞬固まるとユーラルさんはその場で膝をつく。
「カイル様申し訳ございません。
実は家族を人質に取られており、カイル様の監視役をさせられています。」
カイルはユーラルさんが裏切っている予想はしていたが、いざそんな姿を見て悲痛の面持ちをしていた。
ユーラルさんは先程より低い姿勢になり大きな声で叫ぶ。
「私が打ち首になるのは構いません!
いやっ、自ら首を斬り落としましょう。
しかし、怪しい行動をすれば家族が、、、
娘と孫の命が、、、」
ユーラルさんはカイルに向かい頭を下げながら泣いていた。
これが演技とは思えないし、本当に敵ならばユーラルさんが監視されているのはおかしい。
カイルも同じ事を考えているのだろう。
優しくユーラルさんの肩に手を置く。
「辛い思いをさせたな。
安心しろ。
俺たちがユーラルの家族を救い出す。
敵はどいつだ。」
ユーラルさんは泣き崩れながら憎き敵の名前を口に出す。
「霊王、ケント=サルヴァンドン。
奴に家族を奪われました。」
俺たちの敵が分かった。
それは歴史上唯一獣王を退けた男。
霊王、ケント=サルヴァンドン。




