正義VS正義
もしかしたらと予想はしていたが、彼らは背中に羽が生えていた。
悪魔族の羽を見たことが無かった俺は一瞬見とれてしまったが、すぐに気持ちを切り替えて闇魔法を纏う。
「お前ら手を出すな。
これは俺がケジメをつけなきゃいけない問題だ。」
そう言うとファルスは宝剣を抜く。
悪魔族は三人で囲むように展開してジリジリと迫っていく。
斧の男が薙ぎ払うように武器をスウィングする。
ファルスはそれを横に飛び避けるとその先で双剣を持った男が斬りかかる。
双剣から繰り出される乱撃を丁寧に捌くと一瞬の隙をついてしゃがみ込み敵の足を蹴って転ばせる。
倒れた敵に追撃しようとした瞬間、リーダーの男が鋭い突きを繰り出す。
ファルスは剣でなんとか防ぐが、体ごと弾き飛ばされて後ろの木に激突。
そこに斧の男が追撃をして地面が揺らぐ程の衝撃が地面に伝わった。
見ていたシャナは慌てて駆け寄ろうとするが、俺が手で静止する。
「リックス!
男のケジメとか言ってられないぞ。
先生が死んでしまう。」
シャナは俺の手を払いのけようとするが、俺はどけない。
「大丈夫だ。
先生はあれくらいじゃあ死なない。」
土煙が晴れるとそこには敵の斧を片手で軽々と止めているファルスの姿があった。
そしてその背中には炎の翼が2枚生えている。
斧の男は一度仲間の元へ退がった。
そしてリーダーの男がファルスを憎らしげに睨みながら言う。
「悪魔族を虐殺した男が堕天を羽2枚からコントロールするというのか。」
ファルスは悲しい顔で敵を見る。
「あれは戦争だからと言い訳をするつもりは無い。
俺は一生背負っていくつもりだ。」
それを聞いて双剣の男がキレる。
「背負わなくとも良い!!
ここで死ねぇぇぇ!!!」
その背中から6枚の羽が出る。
本気の堕天だ。
俺はメレスとシャナを守るように構える。
しかし次の瞬間、
双剣の男はファルスにより地面に押さえつけられていた。
ファルスの背中には6枚の羽が出て、また2枚に戻った。
「バケモノめ、、、」
そう吐き捨てると双剣の男は意識を手放す。
それを見て斧の男が後ずさりながら言った。
「くそ。
どういう原理だ。
堕天を使って意識を失わないなんて、、、
ましてや途中で止めたりできないだろ。」
「俺が行くしかあるまい。」
リーダーの周りに魔力が集まっていき、
本物の堕天が準備される。
しかしその時、敵のリーダーの目の前に突然現れた男が立ち塞がる。
「やめましょうよ。
こんなところで戦わないで下さい。
ファルス=ザルバーグはリストに入っていないでしょ?」
その男は紫色の籠手を付けていていたが、他はシャツに七分丈のズボンというラフな格好をした茶髪の人間であった。
「さぁ!
こんなところで油売ってないでカイル王の首を貰いにいきましょう。」
それは聞き捨てならない。
俺は茶髪の男の前に立ちはだかる。
「話を戻すが話し合いをしよう。
俺たちも反ヴァリス教だ。
そしてカイル王もそのメンバーだ。
彼は諦めて貰いたい。」
それを聞いて茶髪の男は俺を睨む。
「邪魔するなら君もヴァリス教だ。
カイル王ごと排除するしかありませんね。」
「やってみろよ。」
俺は闇魔法を身に纏う。
敵は一足で一気に間合いを詰めてきた。
指を鉤爪のようにして俺の脇腹に打ち込む。
一瞬その殺気のこもった一撃にヒヤリとした。
慌てて両手で受け止めると、爆発が起きたような衝撃が走り、俺は上半身が仰け反るような形となる。
このままでは追撃が来る。
俺は勢いを逆に利用するように反動を使って回転しながら敵の脇腹に向かい蹴りを入れる。
が、それは籠手で塞がれる。
、、、想定済みだ。
足で闇魔法の爆発を起こして敵は吹き飛ばされる。
茶髪の男がバランスを崩しているところに追撃して闇魔法を最大限に乗せた拳を繰り出す。
これも両手の籠手で受け止められた。
が、敵は後ろの木に激突するまで吹き飛ぶ。
これでも足りないか。
もう一度追撃をする為に踏み込むと敵が少し上を向いた。
魔力が急速に集まっている。
これはまずいっ!
茶髪はなんと口から炎の柱を吐き出した。
俺は何とか横っ飛びで回避した。
敵の攻撃した先を見ると大木に丸い大きな穴が空いていて、その周りが燃え盛っていた。
危ねぇ。
死ぬところだった。
もう鬼化するしかないと思った時、木の上から長身で細身の魔人族の女が降りてきた。
「撤退よ。
何戦ってるのよ。
少しでも作戦に支障をきたした場合は帰還する命令でしょ?
悪魔族の皆さんもジャンデウルを仕留めたなら帰還して下さい。」
茶髪の男は俺の方を見ながら納得のいかない表情をしていた。
「だけど、、、
分かったよ。
おいっ!闇属性の君。
僕の名前はネロ=ドラングス。
覚えといて下さい。」
「リックスだ。
悪いけど二度と君の相手はしたくない。」
さっきの一撃目で腕に激痛が走っている。
こんな強い奴と戦うのは二度とゴメンだ。
「また会いましょう。」
そう言うとネロと悪魔族は去っていった。
魔人族の女は残ってファルスに近づいた。
ファルスは構える。
「私はエミエルの弟子です。
詳しくは教えられませんが、今日の事はエミエルに伝えてカイル王の件を後回しにするように頼んでみます。
ですがあまり期待しないでください。」
ファルスは剣を下ろして女に詰め寄る。
「おいっ。エミエルは生きてるのか!今はどこにいるんだ?」
ファルスが詰め寄ると彼女はなにも言わずに少し笑って去っていった。
結局、俺たちはヴァリス教に繋がる証拠を逃してしまったのだった。




