始動
あのパーティーから7日が経過した。
カイル王がいつものように朝目覚める。
ストレッチをした後に自室の窓の枠に指をかけて懸垂をする。
それが終わると木刀を200回素振り。
そしてシャワーを浴びて朝食へ向かう。
これは彼の日課だ。
朝食の会場へ足を運ぶ。
いつもと違う。
いつも部屋の前で待っている護衛も朝食会場のドアを開けてくれるメイドの女性もいない。
朝食会場のドアノブに初めて自分で手を掛けて扉を開く。
すると中には大勢の倒れている使用人とその傍らに立つ10人ほどの霊族の男達がいた。
「あら。カイルちゃん久しぶりね。」
そいつはいつかの襲撃犯。
処刑されたと聞いていた男だ。
「貴様がなぜここにいる。」
カイル王の問いにオカマ野郎は笑顔で答える。
「カイルちゃん。
あなたには悪いけど死んでもらうことになったわ。
あなたはどう考えても仲間にはならないもの。」
霊族の男がが合図すると脇にいた2人が炎魔法を放った。
カイルは丸腰。
しかしカイルに逃げる様子はない。
カイルに向けられた魔法は人を殺すだけの勢いを持っていた。
霊族は全員が無詠唱の放出型。
ものすごい速さで致命傷を与えられる魔法を飛ばすことができるのだ。
が、その殺人的な魔法はカイルの目の前で突如消滅した。
そしていつの間にかカイルの前に袴を着た坊主頭の男がしゃがんでいる。
「なによあなた。
全員でもう一度撃ちなさい!!」
オカマの掛け声で10発以上の様々な属性の攻撃が飛んでくる。
が、魔法は坊主頭の男の前で消えるか、方向を変えて壁に当たった。
「ソウ。寝坊だな。
いつもは部屋の前で待っててくれてるじゃないか。」
「すまん。
昨日、カイルに貰った酒が美味くて飲みすぎたんだ。」
そんな会話をしていると敵の半分は指を2本立ててそこに風の刃を作って構えている。
「水よ!八岐となり唸り狂え。」
その声のする方から8本の水の柱が飛んできて敵の5人が吹き飛ばされる。
3人は回避、
そのうちの一人が術者である女性に斬りかかる。
驚異的な魔導師を発見したら一気に距離を詰めて迅速に斬り殺すのは戦闘の基本だ。
普通の魔導師は接近戦に弱い。
が、敵の刃は女性魔導師の剣にことごとく防がれる。
敵の霊族が攻めあぐねていると死角からいきなり現れた獣族の女戦士の爪で首元を切りつけられ敵の男は一人地面に転がる。
「シャナ!ありがとう。」
「シェリル。気を抜かないで。」
残りの敵は4人。
周りの状況を見てオカマ以外の3人がフォーメーションを組んだ。
それはよく考えられたフォーメーションなのだろう。
ソウもシャナも隙を見出せないでいた。
ヒュン
風を切るような音がすると突然、敵の一人がまるでスイッチが切れたかのように倒れた。
ヒュン
ヒュン
今度は二人が静かに倒れる。
全員が何が起きたのか分からない様子だが、何もないところから二人の男女が現れる。
「ピー君成功だね。
やっぱり2人の魔法組み合わせると面白いことできたね。」
「やめるのだよ。君はそうやってすぐに種明かししたがるのだよ。
それにまだ姿を見せるべきではないのだよ。
それにしてもお客さんはあの霊族か。
あいつは捕らえて聞き出したいことがあるのだよ。」
「あぁ、このオカマなら連合軍の闇を知ってそうだな。」
霊族の男はあたりを見回すと一言小さい声で言った。
「仕方ない。
あれを使って外で始末するしかないわね。」
そう言って敵は窓ガラスを突き破り中庭へ移動した。
ソウを先頭に敵を追いかけて広場に出ると、霊族の男は人間族の男と鬼族の女に行く手を阻まれていた。
「リックス様。
これでこのオカマを捕らえれば修行から帰ってくるのが遅れた事を許してもらえますね。」
「いやっ。
何してもピーターからは責められるな。
あいつは細かいからな、、、
まぁ、今はそれよりこいつか。」
霊族の男はリックスとメレスの顔を見ると下を向いてうなだれた。
「貴方達がいるってことはファルスのライオンさんも帰ってるじゃない。
カイル王暗殺失敗、、、ね!」
霊族の男は地面に魔石を投げつける。
やはりキング種を召喚した。
「リックス様。私が。」
「いやっ!俺がやるよ。
メレスは下がってて。」
そう言うとリックスの目は徐々に赤くなっていく。
鬼化だ。
次の瞬間、キングの懐に突如としてリックスが現れて風車のように回転をしながらキングの顔を横から殴りつける。
黒い爆発が起きるとキングは城壁まで吹き飛ばされて叩きつけられた。
リックスはここを逃さない。
キングが地面に倒れこむ前に追いつき、城壁ごと殴りつける。
闇爆発と土煙で姿は確認できないが何度も爆発音が鳴り響く。
最後の爆発音が止むと城壁が貫通した為か向こう側から光が漏れる。
そこには強くたくましくなり帰ってきた男の背中と、無惨に横たわる人外の王の姿があった。
「こっ、降参よ、、、」
オカマは無惨なキングの残骸を見て立ちつくしながらボソッとそう言った。




