約束の子供達
目が覚めるとまたテントのベッドだった。
前のテントは燃えたはずなので恐らく違うテントだが。
少し経つと先程見た光景がフラッシュバックのように頭によぎった。
王達を守る為とはいえエライザと同じくらいの年齢の女性を次々と斬り殺したのだ。
一気に吐き気が襲ってきて近くにあったバケツに吐き出した。
それが引き金となり両方の目から流れてくる涙を止める事が出来なかった。
しばらくすると部屋の扉が開いた。
アルア様かと思ったが違った。
そこには鬼の王マダラフが機嫌の悪そうな顔で立っていた。
「いい身分だな。ファルス=ザルバーグ。
敵を斬り殺すだけ斬り殺して部屋で一人で泣いてるなんて。」
なぜ俺がそんな事言われなければいけないのだ。
本当ならばそんな悪態をつかれる覚えはないので言い返してやりたい。
しかし今はそんな力はなく、ただマダラフ王の顔を涙が流れ続ける情けない顔で見ていた。
彼は気にせず話を続ける。
「俺は王だからな。
家臣達や同盟国の目がある。
お前みたいにメソメソ泣くことなど許されない。
、、、しかしなぜみんな平然としているのだ。
我々は護身のためとはいえ、あんな年端もいかない娘達を殺したのだぞ。
なぜお前しか泣いていないのだファルス=ザルバーグ。
教えてくれ。なぜ戦争などしなければいけないのだ。」
そう言って彼は俺の横に座り泣いていた。
しばらく泣くと彼は涙を拭い立ち上がる。
部屋を出て行く直前に彼は言った。
「俺たちは戦友だ。
いつでも頼りなさい。私も頼りにさせて貰う。」
マダラフ王のお陰で少しだけ心が楽になった。
少し休んだ後、何か情報が入っていないかと作戦会議室に入った時だった。
外が少し騒がしくなった後、会議室に血塗れのアルア様が入ってきた。
その顔からはいつもの温厚さは消え去り怒りに包まれていた。
「誰だっ!いったい誰がこんなことをしたのだ!!」
なんのことか分からなかった俺は見守ることしかできなかった。
剣幕に押されて気づかなかったが、アルア様は4人の赤子を両手に抱えている。
「はぁ、そんな事言っても名乗り出ぬか。
くそっ、この子達を敵に渡すかもしれぬのか。」
「アルア様落ち着いて。
その子達はどうしたのですか。」
エルフの女王に言われてやっと説明を始めた。
「詳しくは言えぬが、この子達は約束の子供達だ。
大事に育てよ。
お互いが見張りあってこの子達を守れ。
決して死なせるな。」
そう言うと彼は子供達を机に置いて俺の方を向いた。
「ファルス。1人はお前が育てよ。
今、本当に信用できるのはお前だけだ。
そして彼らが大きくなったら導くのだ。」
そう告げると答えを聞かずにアルア様は外へ向かって歩き出す。
最後に立ち止まりこちらを向かずに語りかけた。
「もう踊らされぬぞ。神は復活しない。」
アルア様の気迫を前に誰もが後を追うことはできなかった。
子供達の元気な泣き声が部屋に響き渡っていた。
「ファルスよ。
アルア様の頼みだ。
子供を1人お願いできるか?」
マダラフ王が真っ直ぐこちらを向いて問いかけてきた。
俺は強く頷くと、4人の子供から1番元気に泣いている女の子を選んだ。
この子を立派に育てよう。
そうすれば失ってしまった何かを取り戻せるはずだ。
そうして赤ちゃんのその小さな手を大事に優しく握りしめた。




