守るもの。失ったもの。
悪魔族の兵士達はそれぞれ剣と盾を持っていた。
彼らは盾を突き出して徐々に迫ってくる。
確かにこの輪が小さくなれば俺たちは身動き取れずに突き殺される。
しかし簡単に死ぬわけにはいかない。
俺は剣を強く両手で握って深く息を吐いた。
「うぅがぁあおぉぉぉ!!」
その時、バルガンさんが大声で叫ぶ。
目を赤く光らせて人とは思えないような野獣の声で。
そして全員が見失うほどのスピードで走り出す。
「しまった!雷の王か。全員、堕てッ」
敵の指揮官は指示を出し切る前にバルガンの飛び膝を顔に喰らい壁を突き破って部屋の外まで吹き飛ばされた。
そこでてきた隙をついて、俺は近くにいた敵の一人に斬りかかる。
初撃は防がれたが、すぐに盾の陰になる方へ回り込み、隙間から脇腹を突いた。
敵はあっけなく大量の血を吹き出しながら倒れていった。
敵がもう動かない事を確認して周りを見渡すとユーラルさんが二人相手に耐えていた。
俺は急いで走り出し敵の片方を死角から斬り殺す。
血しぶきを浴びてもう片方の敵がこちらを向いた時にユーラルさんがソイツの首をはねる。
「ファルス殿、助かりましたぞ。」
すぐ次が来ると思い周りを見渡すと、もう俺たち特別部隊の面々しか立っていなかった。
あれだけいた悪魔族は無残にも血を流し全滅していた。
ジェラードとスイーズも敵を斬り殺していたが、殴り殺された死体が多いところを見ると、やはりバルガンさんが圧倒的に強いことが分かる。
が、その時大量の返り血を浴びて立っていたバルガンさんは膝をついて倒れこむ。
それを見てユーラルさんが慌てて駆け寄る。
「鬼化の影響ですね。
肩を貸しましょう。
皆さん、バルガンさんを先導役のスイーズさん以外で交代で担ぎながらテントまで離脱しましょう。
待ち伏せを受けたということは、この作戦はバレていました。
アルア様に報告するべきです。」
ユーラルさんの指示で部屋を出ようとした時だった。
部屋に開いた穴の奥に大きな魔力が溜まっていくのが感じられた。
その方向を見ると最初にバルガンさんにやられた指揮官が魔力を背中に集めているのが見える。
堕天だ。
俺は何回も練習していたので、その異様な魔力の収束を肌で覚えていた。
それを見て咄嗟に自分も堕天を発動した。
大きな6枚の光の羽が背中に生えると敵は立ち上がり、一番近くにいたジェラードに斬りかかる。
俺は6枚の炎の羽を出して敵とジェラードの間に割り込むように猛スピードで斬りかかる。
堕天中はまるで世界が止まっているように感じる。
敵はそんな悪魔だけの世界に人間が入ってくるなど思ってもいなかった。
こちらをマークしていない無防備になっていた体を俺は斜めに斬りつける。
敵は俺に斬られた後、血を流しながら驚きの顔でこちらを向くと、その青い瞳から光を手放した。
そして俺もジェラードが怪我していないことを確認した後、視界が揺らいで真っ暗になり意識を失った。
意識が戻ると俺は国境付近のテントに寝かされていた。
起き上がるとジェラードがそこにいた。
椅子に座って俺の様子を見ていてくれたらしい。
「ファルス殿、ありがとう。
君のおかげで命が助かった。
そして今までの数々の非礼を許して欲しい。すまなかった。」
俺は起き上がりジェラードに気にするなと伝える。
そして面倒を見てくれたことのお礼を言うと、しばらく一人にさせて貰った。
涙は出ないが、他に何も考えられない。
初めて人を殺した自分がとても可哀想に感じられた。




