師を探して
その日、すぐに一度家に帰りエライザに戦争に出る事だけ伝えて家を飛び出した。
エライザはしっかりとこっちを見て『くれぐれも気をつけてね。』と言ってくれたが、最後に家の方へ向き直すと泣き崩れている姿が見えた。
大丈夫だエライザ。俺は死なない。
人間族で特別部隊に参加するのは俺とユーラルという名前の老兵だった。
50歳くらいだから老兵は失礼か。
彼は防御剣術の第一人者で、昔は戦場でかすり傷一つ付かなかったらしい。
今は流石に衰えているというが、たしかに普通の50歳のおっさんの出で立ちではなかった。
俺はこのユーラルさんと一緒に馬車に乗ってドッグポートを目指している。
「ファルス殿。すみませんな。
私がもう少し若ければ君の戦争への不参加も認められたかもしれないのに。」
「いえっ。ユーラルさん、ご心配かけてすみません。
私はこの戦争自体が乗り気ではないのですが、出るからには死なないし足は引っ張りませんよ。」
「何を仰いますか。
何か起きればすぐに戦争のこの時代の方がおかしいのです。
戦争に疑問を持てる心は大切にしなくてはいけませんよ。」
この狂った世の中でこんな立派な考えの人がいて俺は少し救われた。
俺たちは馬と船を使い、そしてまた馬に乗り継ぎ特別部隊が集まる魔人国と悪魔国の国境付近に到着した。
到着すると今回の特別部隊のメンバーが顔を合わせる。
鬼族からは雷の王バルガン
エルフからは女王の盾ジェラード
獣族からは犬族のスイーズと猫族のコールド
そして人間族の俺たち2人だ。
ちなみに魔人族は今回の近距離の戦闘が予想される任務には不向きなので外されたそうだ。
それぞれ我の強いメンバーだが、顔の広いユーラルさんがまとめてくれた。
行きの馬車でもこれが役割と本人が言っていたからな。
しばらくすると獣王アルアが我々のテントへやってきた。
大物の登場に空気がピリついたが、獣王は優しく俺たちに話し掛けてくれる。
「本隊が揃う前に突入させるような危険な役割を担わせてしまって済まない。
そしてありがとう。
だが突入しても死なない実力者を選んだつもりだ。
宜しく頼む。」
獣王の言葉はとても暖かく、この人の為なら頑張ろうと各国の王がなるのも納得できた。
そして作戦が言い渡される。
俺たちの特別部隊は隠密での行動となる。
獣族の戦士たちに自慢の耳と鼻を使って先導してもらい、研究施設を探す。
子供達の救出も可能な場合は行う。
そして研究施設が発見できず戦闘になってしまう場合は捕虜を確保して引き上げる。
施設の場所に関する情報は無い。
実は血だらけでタイガルドまで報告に走って来た犬族の兵士は行方不明らしい。
恐らく責任を感じて1人で先に戻ったようだ。
仲間を想う気持ちは素晴らしいが詳しい情報も置いていってくれないと困る。
戦闘になった場合の戦術も話し合われた。
接近戦ならばユーラルが防御剣術で攻撃を防ぎ、遠距離魔法の場合はジェラードが結界を張り防ぐ。
そしてその間に俺とバルガンで挟撃する。
急造のチームなので決め事はこれだけにしてあとは自由に現場判断とした。
エルフのジェラードは俺たちが入ってきてから明らかに不機嫌で遂に突っかかってきた。
「ユーラルさんは昔お世話になってるし剣の腕も確かだ。
しかしその若造はなんだ?まるで覚悟ができていない顔つきじゃないか。」
覚悟か、、、なんの覚悟なんだろうか、もちろん死ぬ覚悟などするつもりもないし、悪魔族を片っ端から殺そうとも思っていない。
しかしそれはみんな一緒ではないのだろうか。
そう言おうかと思った時だった。
鬼族の男が割って入る。
「いったい何の覚悟だと言うのですか。
正直言って私は真実を見定める為に参加していて戦争にたいする覚悟などできていません。
みんなそうでしょう?
それなのに人間の小僧だからといって彼だけはダメなのですか?それに良く見てみなさい、ファルス君でしたっけ?彼はやりますよ。」
雷の王バルガンと言われる男が助け船をだしてくれたようだ。
彼も俺と一緒の思いだと分かり少し安心した。
しかしジェラードはまだ俺を物凄い睨みつけている。
彼とは友達になれないだろうな。
その後ピリピリした空気はユーラルさんが色々な話をして無くしてくれた。
そして突入の時は来てしまう。
俺たちは慎重にしかし迅速に集めた情報を元に建物を見て回る。
真夜中の明かりが無い中、獣族の戦士たちに先導してもらい物陰に隠れながら街中を走る。
大きな建物を中心に確認するが、建物の周りを兵士が巡回していないところは中まで確認しなかった。
5棟確認したが巡回の兵士やトラップが仕掛けられている建物は無かった。
が、6棟目のドーム状の建物。そこには周りに無数の感知系の魔法陣が隠されていていた。
そしてこの建物唯一の入り口には左右に衛兵が2人。
間違えない。ここには何か隠されている。
しかし入り口に近づくにはどうしてもあの二人が邪魔だ。
俺たちは衛兵から見えない位置で待機しながらどうしたものかと考えているとバルガンさんが手招きでみんなを集める。
「私が行きましょう。
みなさんは物陰で待機しててください。」
そう言うと彼は突起などほとんど無い建物の壁を登り始めた。
良く見ると壁に指の形をした穴が付いている。
雰囲気で感じていたが、やはりこの人が一番強いんだと確信した。
少し時間が経つと犬族のスイーズの耳がピクッと動く。
「終わったようだ。行くぞ。」
みんなで入り口に行くと悪魔族の死体が二つ転がっていて、バルガンさんが立っている。
何も言わずに俺たちに合流したが、俺は彼のことを少し怖く感じてしまった。
入り口に入ると廊下が弧を描くように横に広がっている。
おそらく真ん中に大きい円状の部屋が一つあるだけの建物のようだ。
猫族のコールドを先頭にゆっくりとその部屋に入る。中は松明が焚かれていて眩しかった。
目を細めて辺りを確認してコールドがこちらを向く。
「誰もいないようだ。」
コールドが喋り終わった瞬間、彼の左右から物凄い速さの何かが来る。
そしてコールドは血しぶきを上げて倒れてしまった。
「まさか本当に来たのか貴様ら。
我々を、、、まぁいい。一人だけ残して殺せ!!」
敵の隠蔽魔法が解ると俺たちは10人の悪魔族の戦士に囲まれていた。




