戦の足音
俺は城に戻り孤児院が焼かれて子供達がいなくなった事を伝えた。
そして牧師のジジイが殺されていた事も報告したが、白い羽に関しては言わなかった。
あの一件以降、俺は連日休みなしで子供達を見つける為に国中を捜した。
しかし手がかりすら掴めない。
そして同時にエミエルもあの日以来依然行方不明であった。
全員が最初はエミエルと子供達の神隠しくらいに思っていたが、1ヶ月を過ぎた頃に事態は急展開を迎える。
同盟国各国で同じことが起きていた事が分かった。
それによりタイガルドで同盟国の緊急会議が開かれたのである。
俺は剣の腕を買われてタイガルド王の護衛として会議に参加することになった。
タイガルド王に加えて鬼の王、魔人の王、エルフの女王、そして獣の王が参加している。
会議は獣王を中心に進められた。
他の王達もそれについて異論はない。
エミエルに習っていたが、目の前にして改めて獣王中心に世界は動くと言う意味が分かった。
獣王アルア。
尊敬の王と呼ばれるこの連合軍の立案者だ。
彼なしにはこの一癖も二癖もある王達がまとまる事はないと言われている。
そしてその獣王が今回の事件について話し出す。
「同盟の王達、遠路はるばる済まぬな。
今回集まって貰ったのは、各国で起きた誘拐事件についてだ。
どの国も子供達と戦術指南役の悪魔族が姿を消した。」
それを聞いて魔人王は機嫌が悪そうに貧乏ゆすりをしながら話す。
「どの国もということは犯人は分かってるじゃないか。
悪魔族だ。奴らが誘拐したとしか考えられないだろう。」
「いやっ。
状況を見ればそうなんだが、ワシには彼らがそんな事をするようには思えないんだ。
我が獣族の国に来た悪魔族もそれは気の優しいやつだった。」
「悪魔族はそうやって我々の目をごまかしていたのでしょうか。」
エルフの女王は魔人王とは対照的に美しい姿勢で座り、美しい声を発した。
それに対してもの凄い存在感を放つ鬼の王が答える。
「そもそもそんな誘拐なんてする計画ならば何年もの間、国の主力戦士を貸して戦術など伝授するだ必要は無いだろう。
戦術は悪魔族の方が優れているのだからスパイに入る必要などないしな。
だから彼ら悪魔族に指南をお願いしたのだろう。」
「ワシもマダラフと同じ意見だ。
もともとこの誘拐が目的で近づいたのなら、最初から各国に入り込まずに実行する筈だ。
そうすれば目撃でもされない限り悪魔族に疑いの目は向かない。」
会議の中に悪魔族擁護派がいる事はとてもうれしかった。
俺とエライザの育った場所という事で暇があればお土産を持って孤児院に遊びに来てくれていたエミエルが犯人な訳がない。
そして獣王の話は続く。
「ともあれここで話をしていても答えは分からない。
だから先立ってワシの腹心である犬族戦士ガンスの部隊を悪魔王国へ走らせた。
そして今日ここで落ち合うこととなっている。
何か情報を持ってくる筈だ。」
王達は別の議題について話しながらガンスを待っていた。
30分ほど計画した時、城の外がざわめいた事に気づく。
程なくして会議場の扉が開き、犬族の戦士が入ってきた。
彼は全身血まみれで片足を引きずっていた。
「獣王アルア様、ご報告です。
悪魔族の捕虜から人体実験に関する情報有り。
そしてガンス様をはじめとした我が部隊は悪魔族と戦闘になり、私だけを逃して全員捕らえられました。」
涙を流しながら報告する兵士にアルアは手を肩にのせる。
「すまぬな。今日はゆっくり休んでくれ。」
そういうと王達の方へ向き直り、体から怒りを滲ませ手を掲げて宣言する。
「我ら獣族はこれより捕らえられた仲間と誘拐された子供達の救出へ兵を出す。
今回の件が悪魔王の意志ならば国を滅ぼす。
賛同する者は2日で軍備を整えて侵攻だ。」
こうして連合軍は戦争に突入していった。
王達の会議の夜、俺はゾイル将軍に呼び出された。
まだエミエルを信じたかった俺は出兵を断ろうと思っていた。
将軍の部屋に入ると何人かが既に部屋に入っていた。
もちろんみんな見たことがあるタイガルドの主戦力だった。
そして今回の役割が発表されていく。
ライルスという古参の兵士がタイガルド軍を率いる事になる。
魔法師団長にはタイガルド一の魔導師ジャン。
そしてゾイル将軍の発表は続き、
「ユーラル、そしてファルスはアルア様直属の連合軍特別部隊に入ってもらう。
こうしている間にも人体実験の犠牲者が出るかもしれないということで、その特別部隊は尖兵としてすぐに出発してもらう。」
名前が呼ばれたので俺は意を決して話し出す。
「申し訳ございません。将軍。
私は今回の出兵を見送りたい。
もちろん降格で構いません。」
ゾイルは驚いた顔で俺の方を見ると右の口角だけ上げて話し出す。
「確かに我が軍には出兵を拒否する権利があるが、お前はダメだ。
悪魔族とかなり仲良くしていたからな。
多少なりとも嫌疑がかかっているんだよ。
戦ってそれを晴らして貰わねばならぬ。」
そう言いながらゾイルが近づいてきて俺の横に立つと小さな声でささやいた。
「結婚したばかりなんだろ?
綺麗な奥さんに迷惑をかけないように考えて発言しなさい。」
俺はこの脅しに従うしかなかった。
悔しさと憎らしさで殺意が爆発しそうだったが、俺は耐えた。
そして出兵する道を選んだ。
ゾイルの部屋を出てからは前向きに考えられた。
特別部隊なら丁度いい。
俺は他の軍より先にエミエルを見つけ出して、彼の口から真相を聞こう。
こうして俺はあの最悪の戦争の当事者になったのだった。




