そして獅子となる
エミエルに弟子入りして2年が経った。
俺は今日もエミエルに向かって木刀を振る。
距離を詰めると同時に突きのフェイント。
そして左に重心をズラしながら胴へ打ち込む。
カンッ!と乾いた音がなり、軽く受け止められ流される。
「今のは悪くないぞファルス。
だが目線が悪い。
フェイントするなら最初から突き殺す目をしろ。」
俺は返事をせずに急激に方向転換してエミエルに連撃を喰らわす。
それをひとつひとつ丁寧に捌かれる。
こっちは無呼吸で打ち込んでいるのにエミエルはいつも通り話しながら相手をしてくる。
「おぉ!ここから速くなるのか。
君の成長は目覚ましいな。
そういえば話が変わるがエライザが、、、おっと。」
エライザの名前が出たところで隙を突かれてエミエルの蹴りを喰らった。
「はぁ、はぁ、クソッ。」
「彼女の名前が出るだけで集中が乱れるとは、修行が足りないね。
今日は座禅からやり直そうか。」
この2年間こんな修行が続いており、いつの間にか俺はタイガルドで5本の指に入る戦士となっていた。
ちなみにエライザは俺の孤児院からの幼なじみで1年前に妻になった女だ。
今まで全てに反抗して生きてきたが、エミエルの弟子になり人生観が変わった。
俺は弱い奴から教わる事を拒んでいた結果、常識が身につかなかったのだ。
しかしエミエルは戦いだけでなく常識や道徳も教えてくれた。
文盲だった俺に空いてる時間を使って勉学も教えてくれたのだ。
そのうち大切なものにも気付かされて、小さな頃からずっと側で支えていてくれたエライザと恋に落ちたのだ。
前にエライザは子供を授かったが高熱を出し母子ともに生死の境を彷徨ったことがあった。
それを医療の知識で助けてくれたのもエミエルだ。
エライザの命は助かったが子供は流れてしまい、もう子供を作れない体になってしまった。
その事をエミエルに謝罪されたが、エライザを助けてくれただけで俺の心には感謝しかない。
それ以降になるが、訓練後はいつも一人だったエミエルを俺達夫婦が夕食に誘い、毎日一緒に食べるようになった。
エミエルはいつも俺の苦手な甘い酒を買ってきてエライザと2人で楽しんでいたが、訓練を頑張った日だけは俺の好きな辛い酒を買ってきてくれた。
とても良好な師弟関係だったが、それでもまだ俺はエミエルを倒すために訓練を積んでいる。
彼を倒す事でしか恩返しを思い付かないからだ。
そんなある日の訓練の時にエミエルは珍しく城ではなく誰もいない空き地に俺を呼び出した。
「すまんなファルス。こんな所に呼び出して。
実は君に授けたい力があるんだ。」
「なんだよ急に怪しいな。
なんかあったのか?」
「それがな、そろそろ帰還命令が出そうなんだ。
まだまだこの世界は物騒だろ?
だから帰る前に友である君に我々の技を教えたくてね。」
そうして俺は悪魔族の秘技である『堕天』を学んだ。
堕天は体内にある魔力を全て出し切る代わりに数秒間無敵に感じるほどに身体能力を上げる。
しかしその後で必ず意識を失うリスクの高い技なのだ。
3日に一度通常の訓練に加えて堕天の訓練も始めた。
堕天は強制的に体全体の魔力を使う。
そのためなのか訓練をするだけで以前より体内の魔力を感じやすくなった。
指先まで魔力が通っているのを感じる事が出来る為、通常時の戦闘が目覚ましく成長していった。
こうしてエミエルに師事して順風な毎日を過ごしていたが、そんな幸せな日常はいきなり崩れ去った。
珍しくエミエルがいない訓練の帰り道、エライザが慌てて俺の方へやってきた。
「はぁ、はぁ、あなた!良かった会えた。大変なの!はぁ、協会が、私達の育った教会が燃えてるの。」
俺とエライザは教会に走った。
中には俺達を育ててくれた牧師と子供達がいる筈だ。
改心して教会に寄付を始めたばかりだというのに、、、
教会に着くともう建物全体に火の手は及んでいた。
俺は全身に炎魔法を纏って防御しながら中へ入っていく。
中へ入るとそこはオレンジ色一色の世界だった。
炎は容赦なく俺達の思い出を焼き尽くす。
だが俺はそんな事には目もくれずに一部屋一部屋開けて周る。
子供達を早く見つけなくては。
しかしどの部屋にも子供達はいなかった。
最後の牧師のジジイの部屋にみんないる事を期待して扉を開ける。
が、そこには見たくない光景が広がっていた。
ジジイと同じ服を着て槍が胸に突き刺さった焼死体が1つ。
そしてその周りには白い羽が散らばっていた。




