狂犬と悪魔
この章は若い頃のファルスが主役です。
残酷描写が多いので苦手な方はお気をつけて下さい。
タイガルド王国の兵士。
それは貧乏が祟ってその日の食事も満足に与えられないような教会の孤児院で育った俺が唯一成り上がれる仕事だ。
だから迷わず入った。
小さなころから盗み、喧嘩、詐欺など思いつくことは殺し以外なんでもやった。
だから同期の親元でぬくぬくと育った温室育ちの野郎どもに負ける気はしなかったし、実際戦っても負けなかった。
今日も訓練で能天気な奴らをボコボコにしていた。
「ファルス!やりすぎだ。やめろ馬鹿野郎!!」
上官が俺の肩を掴む。
こいつも偉そうにしているが体には脂肪がついてやがる。
こんな奴が戦いで使えるわけないのに上官とか笑わせてくれる。
「なんだ貴様。文句でもあると言うのか!」
そろそろ我慢も限界だ。
俺は肩を掴む手を乱暴に振りほどいて言った。
「上官殿。指導する立場なのだから実力を見せてくださいよ。ほらっ。」
そう言って俺は木刀を投げた。
やはりこの上官は俺の方を睨むだけ。
口だけの奴だ。
その時だった。
全く予期しない場所。
俺の背中から声がした。
「私がお相手します。
ただし負けたら彼の言うことを聞いてくださいね。」
そいつは金髪で背中に白い羽が2枚生えている。
瞳は吸い込まれるような青で、俺よりも身長が高い。
戦術顧問としてタイガルドに来ている悪魔族のエミエルだった。
悪魔族はその圧倒的な実力から他の種族から敬遠されがちであったが、悪魔王がそれでは国の発展にならないと、他国に戦術を伝える事で国交を図ろうとしているのだ。
そしてタイガルドが迎えたのがこのエミエルだ。
「願ってもいねぇ!
俺はお前みたいな羽虫が人間様に物を教えてるのが気に食わなかったんだよ。」
これが俺とエミエルの出会いだった。
「ファルスだっけか。君のタイミングで来なさ、、、」
話の終わりを待たないのが俺のタイミングだ。
高速で踏み込んで最短距離の上段を見舞った。
が、俺が大口を叩き全力の攻撃で斬ったのはただのそこに漂う空気だった。
そして俺はいきなり後頭部を蹴られて意識を失った。
目が覚めると目の前でエミエルがニコニコして覗き込んでいる。
「これからは上官の言うことを聞きなさい。」
生まれて初めての完敗。
俺も男だ。負けたからには奴の言うことを聞いた。
デブの上官の言うことを聞き、必要以上に相手を傷つけなかった。
そしてエミエルを倒すために訓練の後に体が動かなくなるまで追い込んだ。
しかし勝てるイメージは一向に浮かばない。
毎日大人しく訓練を受ける俺に対して上官はわざと厳しく当たってくる。
手を抜いているからやり直し、気合いが入っていないから重りを増やす、態度が悪いから食事は抜き。
そんな理不尽な待遇であったが、俺は耐えた。
エミエルにこいつの言うことを聞けと言われたからだ。
今日も俺は食事を抜かれた。
俺は皆が食べているのをただ見ているよう命令されている。
すると上官がやってきて残飯を俺に投げてくる。
「お前は気持ちが弱い。
耐えて気持ちを強くしろ。クククッ。」
殴りたかった。
殴り殺してやりたかった。
しかし俺はエミエルに勝つまでその権利は無い。
血が出るほど強く拳を握りしめて下を向いて耐えていたその時だった。
「お前らもファルスの馬鹿みたいなりたくなかったら素直にヘブッ!!」
ヘブッ?と思いデブの方をみると、そこにはエミエルが立っていて、顔から血を出して倒れている上官に近づいていき馬乗りになった。
そして5発ほど殴りつけて『ふぅ。』と息を吐くと何事も無かったかのように立ち上がり俺の方へやってきた。
「ファルス。すまんな私の間違えだ。
こんな奴の言うことを聞くことはない。
、、、そうだ!!
今日からは私が教えよう。
付いてきてくれないか?」
こうして俺は悪魔族エミエルに弟子入りした。




