エルフの隠れ家
鎧の男の姿が見えなくなってすぐ、馬に乗ったエルフが20人ほど駆けつけて俺たちを取り囲んだ。
白い馬に乗って輝く剣を持った男がこちらに真っ直ぐ剣先を向ける。
が、元から戦場にいた兵士が慌てて間に割って入る。
「ガウエン様。違います。
この方達は救援に入ってくれた味方です。」
ファルスは剣を納めて敵意はない事を示した。
「私はタイガルド王立学園の者だ。
生徒たちの実習で大森林に入った。
ルル様も一緒だ。
そして敵は逃げたが追わない方がいい。
この人数では勝てない。」
危険がないと分かったガウエンは周りのエルフに仲間の回復を指示するともう一度こちらへ向き直り剣を納めながら一礼する。
「救援感謝する。
しかし我ら女王の剣の部隊をして1人の男を仕留められぬ事はない。
何をもって勝てぬなどと言い張る。」
「俺はファルス=ザルバーグだ。」
ガウエンは驚いた顔でもう一度よくファルスを確認すると、馬から降りて先程よりも深くお辞儀をした。
「失礼した。
それ程の敵か、、、
ジェラードが敵わぬわけだ。」
身元を分かってもらえたところで、仲間が心配なのですぐに川の方へ向かわせて貰った。
敵が去った方向と船を着けてある方向は違ったので大丈夫だとは思うが。
ファルスは移動中にいつもより低いトーンで話しかけてきた。
「あの時なぜ出てきた。
俺は離れろと行ったはずだ。」
俺は怒られるのだと覚悟したが、正直に感じたまま答えることにした。
「あの敵から本当の殺気が感じられなかったからです。
助けに入っても殺される危険はないかと思いました。」
「そっか、、、やはりな。」
意外にも怒られなかった。
だが本当なのだ。
まるでファルスと授業をしている時のようだった。
街中で戦った人外のキング種や一騎討ちの時のバルガンから発せられた殺気は自分に向けられていなくても命の危険を感じるものだ。
だが今回は絶望的な実力差が分かっていても、それが無かったのだ。
「実は俺もそう思った。
あいつは始めから俺達を殺す気が無かった。
だからと言うわけでは無いが大森林探索は中止しなくてもいいかと思っている。
最後あいつが言ってた言葉も気になるしな。」
「はい。
でもみんなには詳しい説明はしないようにしましょう。その、、、」
『あぁ、シェリルに俺が惨敗した話は聞かれたくないしな。
それに次は奥の手使うから俺が勝つ。
お前も安心しろ。』
ファルスはそういって俺に得意げに笑ってみせた。
そんな話をしながらも急いで川へ向かい薔薇組のメンバーと合流した。
遅れてエルフ達がやってくるとルルに向かって全員が跪き、本当に王女だったのかとシェリルが驚愕の顔をしていた。
ファルスはエルフ達と今回の件について話し合っている。
恐らく子供達の前であいつの詳しい話をしないようにという内容も伝えているのだろう。
俺もみんなにはファルス、俺、エルフの軍団を見て敵は逃げて行ったと説明した。
みんなエルフ軍の煌びやかさを見て納得していたが、メレスとシャナは何か煮え切らないような表情だった。
ファルスはエルフ達と一通り話が終わったのかこちらに来て説明を始める。
「みんな待たせてすまない。
これからのスケジュールだが少し変更するぞ。
森で戦闘があったばかりだから今晩だけエルフ軍と彼らの基地で共に過ごすことにする。
朝になったら出発だ。」
「一晩でいいの?まだ襲撃犯いるかもでしょ?」
シェリルは何か感じたのか少し不安そうだ。
「あの敵だが、最悪は遭遇しても大丈夫だ。
敵を間近で見た俺とリックスの判断だ。」
まぁ、俺はあんな化け物には二度と会いたくないがな。
一人ずつエルフの馬の後ろに乗せて貰って彼らの基地を目指した。
俺はジェラードと呼ばれていた男に乗せて貰った。
彼は戦闘に参加してすぐに鎧の男に顎を打ち抜かれて気絶してしまったらしい。
やはりエルフ達に対しても殺意はないのかな。
それに死人は奇跡的にゼロだと聞いた。
ジェラードは移動中に気さくに話しかけてくれた。
「ファルス殿とは悪魔戦争の時に同じ部隊にいたんだ。
各国の精鋭で組まれた特別部隊だったが、あの時のファルス殿の活躍は凄まじかった。
悪魔族の罠に落ちたときなんて、、、」
こんな感じでファルスの英雄物語を聞かされた。
俺の知らない若い頃の先生の話はとても面白かったが、大活躍の話を聞く度に鎧の男に首を掴まれているファルスの姿が目に浮かんでしまった。
1時間くらい馬に揺られていたが、ずっと巨大な木々が連なるだけの景色だった。
よく迷わず進めるなと思っていたら先頭のガウエンが突然馬を止めた。
やはり道にでも迷ったかと思ったが、エルフの1人が近くの大木に近づいていき、手を押し当てた。
すると『ガコッ』という音がして大きな穴が開いた。
穴を通り木の中に入ると意外と広く、全員が入る事ができた。
最後のエルフが入ってきた穴を閉めると、足元が揺らいだ。
薔薇組のみんなは何事かと辺りを見回していたが、俺には分かった。
エレベーターだ。
俺には正解が分かっているが、ジェラードが得意げに話してくれた。
「これは妖精の力を使って床を持ち上げているのです。
そして一番上まで着くと、ほら」
エレベーターが上階に着き薄暗かった視界に眩ゆい光が差し込んでくると、そこには男子の誰もが憧れた聖域。
最強の秘密基地がそこに広がっていた。




