危険の足音
夜中は戦士系と魔法系でペアを組んで2人ずつ警戒に当たることにした。
俺はルルとペアになった。
ルルとはちゃんと2人で話した事は無いので少し気まずいと思ったが向こうは気兼ねなく話をしてくれた。
「リッ君もたしか戦争孤児で周りが自分の種族じゃない環境で育ったんだよね?
他の子からいじめられたりしなかった?」
「大丈夫だったよ。
鬼族の子供は見た目は普通の人間と変わらないからね。
でも奴らは力が強いから生身の人間だと大変だよ。
握手するだけで手が握り潰されるかと思うからね。
ルルは苦労したの?」
「私は周りが魔人族を馬鹿にしてるエルフだったからね。
最初は相当陰口言われたよ。
でも運良く3人の妖精さんと仲良くなって見返すことができたかな。」
他にも色々と話をした。
ルルは意外にも苦労をしていたが、結局は自分の家族やエルフのみんなを大事に思っていた。
俺も鬼族の幼馴染や父親の話をしてルルは興味津々な顔つきで話を聞いてくれた。
ルルとの会話が面白かったので、すぐに交代の時間となり、ファルス先生とピーターを起こして俺はテントへ戻って行った。
朝になりテントから出て深呼吸すると涼やかな風が鼻の中に入って少しツンとした。
今日も探索にはいい天気になりそうだ。
あの後ファルス先生がウサギ型の魔物を何匹か仕留めてくれていて、朝ごはんのメニューに追加された。
俺はあまり得意な味じゃないと嘘をついて明らかに空腹のメレスに分けてあげたら、すごい喜んでくれた。
この川を目指してきたのには理由がある。
それは大森林の迷宮がこの川下にあるからだ。
ルルの土魔法で船を作り、風魔法を発生させるマジックアイテムを付けて船の旅が始まる。
船の移動ではたまに川に住む大型の魔物が襲ってくる事があるらしいが、俺たちには坊ちゃん刈りの高性能ソナーがあるので問題ない。
そして念のためシャナが臭いと音を感じながら警戒をしてくれている。
30分ほど川を降った頃にそのシャナが慌ててこちらに振り向く。
「風魔法消して!!」
風魔法装置に手を掛けていたソウが慌てて手を離す。
シャナが先生に鬼気迫る表情で話しかける。
「ウチが指を指しているこの方向。
ここから森の奥150mで戦闘が行われてます。
微かな血の匂いがする。」
アゴに手を当てて考えた後、ファルス先生がみんなに指示を出す。
「俺たちの探索場所の近くで戦闘が起きているとなると、状況は確認した方がいい。
俺、リックス、メレス、ソウ、シャナで確認へ行く。
ルルとシェリルは隠蔽魔法で隠れていてくれ。」
船を降りた俺たち5人はシャナを先頭に森を進むと、すぐにシャナが手を上げて止まれの合図をした。
「、、、この先に何人かいるけど戦闘は行われてないみたい。」
それを聞いてファルス先生が小声で指示を出す。
「俺が出て行く。辺りを警戒しながら付いて来い。」
茂みの中をゆっくり進んでいくと、負傷したエルフの戦士が4人倒れていた。
「ソウ。戻ってシェリルを呼んで来い。
ここに戻ってきた時に俺たちがいなくても気にせず、エルフ達の回復をし終わったらシェリルを連れて船まで戻っていてくれ。」
ソウに指示を出すとファルスはこのエルフ達が敵でないと判断して駆け寄る。
「タイガルド王立学校の者だ。一体何が?」
負傷したエルフは血が出ている脇腹を押さえながら苦しそうに答える。
「くっ、我々は大森林のエルフ女王軍。
この近くで怪しい男を見かけたという話が出ていたので、うっ、巡回していたらソイツと戦闘になり、やられた。かなりの手練れだ。」
「敵は一人なんだな?」
「あぁ、しかし今は聖騎士ジェラード様が駆けつけて来てくれた。
戦闘場所はこの先へ移っている。
彼がいれば勝利は間違えあるまい。」
「分かった。ありがとう。
すぐにうちの治癒魔法の使い手が来るから休んでいてくれ。」
「かたじけない。」
それを踏まえて俺たち4人は再度集まり作戦会議を開いた。
今思うとこの時は英雄ファルスがいるという安心感から驕りがあったのだろう。
だが、この時の俺たちはそれが甘えた危険な考えだとは思いもしなかった。




