タイガルド
兵士達の顔が見渡せる位置で足を止める。
これから戦争が起きるとは思えないほどタイガルド平原は穏やかだった。
少しだけその静けさを感じた後、勢いよく剣を抜いた。
すると兵士達は『『『ウォーッ!!』』』と腹から雄叫びを上げた。
その声は、俺達はこれだけ士気が高いから負けない。大丈夫だ。と自分と仲間を奮い立たせている。
その時、邪悪な煙を上げて草原の向こうから黒の大群がやってきた。
視界を埋め尽くす人外の騎士、その中にクイーンが200程、キングが2体混ざっている。それに続いてゾイルの兵士10,000が展開している。
絶望の光景に兵士達の何人かがパラパラと逃げ出した。
もちろん僕だって逃げたい。
しかし1人だって支えてくれる者がいるなら戦うと心に誓ったのだ。
僕は剣を空に掲げ、できるだけ大きく通る声で叫んだ。
「兵士達よ!!敵が見えるか。
奴らは私達の国を奪いにやってきた!
だがっ!奴らはタイガルドを奪えない!!
この土地を奪えばそこがタイガルドか?
違う!!
タイガルドはここに立つ人々、我々だ!!
お前達が戦い続ければタイガルドは滅びぬ!
タイガルドの火は消えぬ!!
最後まで戦い抜き、敵に言ってやれ!まだ我々は立っている!
タイガルド王国はまだここにあるとっ!!」
それを聞くと兵士達は叫んだ。声が枯れる程に。
上手くまとめられてはいない。
だが伝えたい事は伝えられた。
そして僕も剣を掲げて叫ぶ。
叫ぶと不安が薄れる。
薄れるが薄れた不安は糸のように細くなり、すぐにでも切れてしまいそうだった。
ここに薔薇組のメンバーがいてくれたらどんなに心が救われるだろう。
心を強く持つと決めたが、最後にそれだけ考えてしまった。
我々の雄叫びが終わり、臨戦態勢に入ろうとした時だった。
ドンッ!!
「「「ハッ!!」」」
ドンッ!!
「「「ハッ!!」」」
ドンッ!!
「「「ハッ!!」」」
その異様な音と雄叫びは突如響き始めた。
士気が上がっていた我が軍は一気に静まりかえった。
一つだけ分かるのは、只ならぬ何かがここへ向かってきているという事だけだった。
すると静まりかえった筈の自軍から一つの声がした。
「カイル。知ってるか?鬼族は戦闘ジャンキーだと思われているが、みんな本当は戦いたくないんだ。
寿命が長いから家族や友を失いたくない。
この響き渡る脅しの雄叫びも、できれば敵が撤退してくれる事を願ってのものだ。
だから、、、鬼族が戦う時はいつも家族を守る時だ!」
その聞き覚えのある声が、、、僕が今日聞きたかった声が心地よく耳に入ってくる。
夢であれば覚めて欲しくない。
今は存在していても振り向いたら消えてしまうのではないかと思った。
しかし体は自然とその声のする方へ向いていった。
そしてその先には、おかっぱの少女に肩を借りて、僕の親友がそこに立っていてくれた。
一気に崩れた緊張でもう涙を止めることができなかった。
「鬼王国は兄弟を見捨てぬ!ここに同盟国として参戦する!!」
するとリックスの掛け声で西の小高い丘から毛皮をあしらった甲冑を着た鬼の精鋭1,000が姿を現した。
少数ではあるが、その威圧と異様さから、戦えば只では済まされないということが分かる。
先頭に立つ初老の兵士が両の手を空に突き上げると、全員で大地を揺るがす咆哮を上げた。
そしてそれが合図かのように、我々の頭上に無数の飛行船が現れた。
その飛行船には紋様が描かれており、魔力武装をしていることが分かる。
「魔人族は白兵戦が苦手なのだよ。
そして一番理想の戦い方を研究した結果があの飛行船なのだよ。
まぁ人外の騎士達との殴り合いは鬼にでも任せて、我々は先に奥にいる馬鹿を焼き殺すとでもするのだよ。」
おかっぱのゴーグルの男は僕の肩に手を置いた。
「次からは遠慮なんてつまらないことしないで、すぐに救援要請の使者くらい寄越すのだよ。」
僕はすまんと一言言わなければいけなかったが、口を開けば泣き声が漏れてしまいそうだった。
先頭の飛行船から信号弾が出ると、何もなかった筈の東の平地の空間が歪んだ。
その隠蔽魔法が解かれた場所からは
前衛には両の手足に爪型の武器を構える獰猛な犬族。
中衛に鎧に身を包んだ剣術の達人集団、剣の国の侍。
後衛にその眩さで戦場を照らす光の軍団、エルフの騎士が配置されていた。
「ちょっと!リッくんとピーくんの登場が目立ち過ぎて私たちのサプライズが台無しだよ!」
「そうか?ウチは我々虎大陸連合の登場が一番派手だと思うがな。」
「いやっ!渋さを求める剣の国としては鬼国に主役を取られた気がするぞ。」
今にも泣き崩れそうな俺の肩を掴みリックスが言った。
「カイル。最高の13歳にしよう。」
人生最悪の日は人生最高の誕生日となった。




