孤独の王様
あれから一夜が明けて事件の全貌が明らかになった。
今回のクーデターの主犯は大臣のゾイル。
ゾイルは前々から霊族と組み、タイガルドを乗っ取る準備をしていたようだ。
一番国が混乱する時、国王の死に乗じて我ら兄弟を殺し、ゾイルは王位を手に入れて霊族は虎大陸進出の楔を打つ算段だったようだ。
ゾイルは現在、王城の南にある自分の領地にて戦争の準備をしている。
奴は元将軍という立場でもあり、多くの兵士を抱え込んでしまった。
その数10,000人。それに加えて霊族の支援がある。
こちらの軍勢はファルス先生のお陰で生き残った第ニ王子派のみ。
現在は王城に陣を構えている。
かき集めたが兵士はたったの4,000人だ。
他国に助けを求める話は出なかった。
我らに正義があるとはいえクーデターが起こりタイガルドが完全に弱体化した今、劣勢の戦争へ参加する国などない。
勝ち残った政権と対話するのが当たり前だ。
その次の日に正式にタイガルドの王に即位した。
皆に祝福をされたが3日後には戦争となる。
小さな頃から平和を願ってきたが、即位して始めての仕事が戦争とは皮肉が効きすぎて笑うしかない。
現役を退いていたが今回の戦争にファルス先生とジャン先生は参加してくれることとなる。
ファルス先生にはシェリルと亡命する道も勧めたが、私の国はタイガルドのみと断られた。
本心で亡命を勧めたはずが少し安心してしまった。
決戦前夜。
緊張している訳ではないが一向に眠たくはならなかった。
今の僕には夜が静か過ぎて意味は無いがたまに少し声を出してみたりしていた。
そういえば全員に忘れられているが明日が僕の誕生日だ。
今までの誕生日は色々な人に形式張った祝いの言葉をもらうだけで退屈だったが、誕生日に殺し合いをするより100倍マシだな。
なんて考えていたら空が少し明るんできた。
そして決戦の時は来た。来てしまったのだ。
王城とゾイルの領地の真ん中。
見渡す限り草原が広がるタイガルド平原が決戦の舞台となる。
朝から見かける人間全てを労ったが、全員が不安を抱いている。
一人一人に生活があることを想像すると心が引き裂かれるような気持ちになった。
改めて僕にやれる事はすべてやると心に誓おう。
戦地に入ると戦士達は既に展開をしていた。
こんな王を見捨てなかった人々の為に、そして自分の為に皆の顔が見える位置へゆっくり歩いて行く。
薔薇組にいた時の楽しかった教室での光景が少し頭をよぎった。




