鬼、荒ぶる
第3章はカイル目線の物語となります。
僕はカイル=タイガルド。タイガルド王国の第二王子だ。
年の離れた兄がいるので王位継承はほぼ無いと誰もが思っていた。
しかし兄が外交先で失敗をしたことに腹を立てたタイガルド王が、兄を奮い立たせる為にも言ったのだ。
「このまま成長が見られなければカイルに継がせるしかあるまい。
私が取り消さない限り、次期王位はカイルだ!!」
そしてその二日後に父は頭痛を訴えて倒れてしまった。
すぐに命がという訳ではないが会話ができる状態では無かった。
すぐにでも王位継承争いが起きることが明白で事態を重く見た世話係のユーラルは昔のツテで英雄ファルス=ザルバーグに頼り、入学という形で王立学園に匿って貰うこととなった。
今まで外に出たことが無かった僕は薔薇組に初めて入り席に着いた時に王族が他の者とどう話せば良いかと考えていた。
しかし、父が病床に伏せる前から噂になっていた、留学生の鬼族の王子はそんなつまらないことなど考えずに普通に他の人達と話をしていた。
そんなリックスを見て友達になりたいと思ったのだ。僕にとって初めての友達だ。
そのリックスはみんなを守る為に無謀な戦いを選んでくれた。
僕は役に立てない自分に悔しさを感じていたが、今はリックスの戦う姿を目に焼き付けようと思った。
リックスが手を前に掲げて集中をすると、体から黒い魔力が炎のように湧いてきた。
すると目が赤く光り、獰猛な獣のような声で大きく叫んだ。
叫び終えた瞬間、リックスの元のいた地面が一瞬で陥没し、目にも留まらぬ速さでキングに肉薄する。
そして低姿勢から敵を爪で引っ掻くように斜め上に払った。
キングはそれだけで鎧と肋骨を吹き飛ばされた。
しかし元から相手は生気を帯びてはいない。
見た目ではダメージがあるのか判断はつかない。
やはり効いていないのだろうか、まるで攻撃など受けていないかのようにキングがリックスに向けて前蹴りをして反撃する。
蹴りはヒットし、リックスが吹き飛ぶかと思われたが、地面に根を張っているかのように一歩も動かない。逆にキングは反動で後ろへ後退した。
キングはそこから体制を整えて大剣を構え直すが、既に目の前には誰もいない。
低い姿勢で敵の真横へ回り込んでいたリックスはキングの足を強引に掴む。
そして回転をしながら振り回し壁に思い切り叩きつけた。
そこからは一方的だった。
何度も壁に打ち付けられたキングは最終的に地面に叩きつけられる。
その後、起き上がる間も無く殴られ、砕かれ、パーツを一つ一つ破壊されていった。
まるで子供が何かを壊して遊んでいるようでもあるが、何かに取り憑かれたように破壊を繰り返すその姿は恐怖そのものだった。
そしてキングは動かなくなったが、リックスはやはり止まらなかった。
もう一度大声で吠えた後、地面を壁を、キングの亡骸を攻撃し続けた。
拳が砕けてても、血を吐いても攻撃は終わらなかった。
シェリルは結界を解かない為に魔力を供給し続けているが目をつぶって下を向いて泣き続けていた。
僕も目を逸らさないようにしていたが、こんな姿になってまで僕らを守ってくれた友に涙が止まらなかった。
およそ5分間暴れ続けたリックスは魔力が尽きて最後は前に倒れ込み、大量の血を吐いた。
「シェリたん早く回復!」
ルルの声を聞いてもシェリルは泣き、震え、動かなかった。
パンッ!
ルルはシェリルの頬を平手打ちした。
彼女も涙を浮かべている。
「しっかりして。
リッ君は1人なら簡単に逃げられたの。
でも私達がいたからこんな姿になってでも戦ってくれたんだよ。。。早くっ!!」
我に返ったシェリルは枯渇しそうな魔力を絞り出し、ヒーリングをかけた。
「キングを単体で撃破するなんて、、、こいつは化け物だ。」
まだ夢を見ているかのような無表情でユーラルは小さくぼやいた。
それを聞いてピーターはユーラルに掴みかかる。
「カイルの知り合いでも許さないのだよ!
鬼化は寿命を縮めるほど体に負荷がかかる!
リックス君は寿命の長い鬼族じゃない。
研究はするがまだ使わない約束だったのだよ!!」
ピーターはそう言いながらユーラルの胸ぐらを掴んでいた。
僕はピーターの熱くなっている拳に手を乗せる。
「すまない。ピーター。
ユーラルも混乱してるんだ。許して欲しい。」
僕の顔を見るとピーターは悔しそうに掴んだ胸ぐらを乱暴に振りほどく。
きっと彼もリックスの鬼化に頼った自分の無力さに腹を立てているのだろう。
みんな興奮していた。無理もない。
初めての実践でリックス一人に頼り、そして深く傷つけるような、あまりにショックの大きい内容だった。
しかし、まだ安全が確保できた訳ではないのだ。
まだ僕がしっかりしなくてはいけない。
「リックスの意識がない上に我々も魔力が尽きかけている。やはりまずジャン先生と合流を目指そう。」
そう指示を出した時だった。
向こうから長身の男が歩いてきた。
タキシードのようなスーツを着て、その上にマントを被っている。
正気の感じられないいでたちと身長からエルフかと思ったが、耳が尖っていない。
そして額には透明で丸い魔石のような物が埋め込まれていた。
ユーラルが剣を構えて前に出て叫んだ。
「やはり、この量の魔物。霊族が絡んでいたか!!」
そう呼ばれた霊族の男が手をかざすとユーラルは僕たちの後ろまで吹き飛んでいった。
そんなことは気にも留めないかのように霊族の男は話し出す。
「私達の国でもキングを呼べる魔石は数個しかないのに壊しちゃうなんて君たち何してくれてるの?
まぁ、残りの君たちもお疲れみたいだし、私だけでも全然なんとかなっちゃいそうなんだけどね。」
そう言いながら彼はゆっくりと迫ってくる。
万策尽きた。
満身創痍の僕たちにできる事は一つもなかった。
僕の身柄で他のみんなの命を保証してもらうしかない。
その時だった。
空から少女が降ってきて霊族の男に殴りかかった。
霊族は寸前で回避したが、彼のいた地面は爆破でもしたかのように小さなクレーターになっていた。
少女はクレーターの中から起き上がり言った。
「リックス様をこんな姿にしたのは貴様か?」
「いやーっ、そうかもしれないね。」
マントに付いたホコリを払いながら霊族の男は余裕の笑みを浮かべている。
「、、、殺す!貴様に鬼の本当の恐ろしさを見せてやる。」
彼女は前髪が揃ったパッツンヘアーと頭に生えた2つのツノが特徴的だった。
そして激しい怒りを露わにしていた。




