知らなかったのは
決戦の興奮冷めやらぬ薔薇組のメンバーで祝勝会をすることとなった。
決戦の地となった闘技場にシートを敷いて皆んなで持ち寄った食べ物でパーティーをすることとなった。
複数人である事と帰り時間を申請する事を条件に王立学校では月に3回の外出が許可されている。
今回の祝勝会では王立学校の近くで自分が美味しいと思った物を持ち寄る事となった。
が、ほぼ全員が近くで職人気質のお爺さんがやっている店の焼きおにぎりの様な食べ物を選んでしまい、実質の焼きおにぎりパーティーとなった。
焼きおにぎりを食べながらピーターが気分良さそうに話す。
「それにしても試験段階でシェリルが魔法をぶっ放した時はリックス君が死んだと思ったのだよ。」
「ウチもびっくりしたよ。犬族は火が苦手だからな。」
「ちょっと待ってよ。魔法撃てって言ったのシャナじゃん。」
「だからと言ってアレは強すぎるのだよ。今日からヴァリスとでも呼ぶのだよ。」
「ヴァリスって神話の破壊神じゃん!反省してるからやめて!!」
そんな話をして皆んなで笑っていると俺はカイルの目から涙が一筋だけ流れた事に気づいて声を掛けた。
「カイル大丈夫か?」
「ん?いやっ、なんでもないよ。」
「何かあったら言うべきだ。言いたくなければ言わないべきだがな。」
ソウはいつも物事の本質を言う。
当たり前の事を言っているだけとも思えるが、彼の愚直な人柄から発せられる言葉はこういう真面目な話題の時に有り難い。
「大した話じゃあないんだが、城には家庭教師が住み込みで働いていたから、今まで学校に行ったことないし、ここに来て君たちのような友達ができた事が嬉しくて。
王位継承の争いで逃げてきたようなものだから、余計に今が幸せに感じてね。」
その話をカイルがすると少ししんみりして会話が途切れたが、ゴーグル野郎が空気を読まず話始める。
「カイルは意外に女々しいのだよ。」
ちょっとイラッとしたのでピーターの背中をつま先で小突いた。
何かと振り向いたピーターにルルが後ろから小石を当てる。
皆んなでそんな事を繰り返したらピーターは「降参なのだよぉ」と情けない声を出したので全員で笑った。
しかし硬直している人間が一人。気になったので聞いてみよう。
「シェリル?どうした?」
「あの、、、カイル君ってまさか、タイガルドの王子様?」
ルルがシェリルを哀れむような目で見て肩に手を当てる。
「シェリたんはやっぱり天然だね。
ちなみに王族じゃないのシェリたんだけだよ。
私も戦争孤児の魔人族だけど、一応はエルフの王女だし。」
「えっ?えぇ!!??」
そんな流れで家の紹介をする事になる。
「父には継ぐ気が全く無いと言っているが、一応は魔人族の王子なのだよ。」
「ウチは大森林の犬族。
犬族は子沢山だから第四王女のウチは自由だけどね。」
「俺も戦争孤児で人間なんだけど鬼族の王子。
種族の違いで父親の方が長生きするから、王様にはならないけど。」
「俺は剣の国の現国主の息子だ。
剣の国は世襲制ではなく剣の腕が全てだから修行に励まなくてはいけないがな。」
シェリルは途中から心ここに在らずであったが、なんとか一言絞り出す。
「すっ、すみません。。。
やはり敬語の方が宜しいでしょうか。」
シェリルはもう目線が合っていない。
「今さら気持ち悪いのだよ。
それにヴァリス様は神様だからシェリルが一番偉いのだよ。」
そうしてシェリルはいじられ役のポジションをゲットした。
ごめん。シェリル。
言い出せなかったけど俺もルルとソウとシャナが王族だとは知らなかったよ。




