獅子の道場
上級戦闘術の授業が行われる闘技場は閑散としていた。
そこにいる生徒は俺とカイル、木刀持った坊主と犬耳の獣族の女の子、
そう。薔薇組の連中しかいなかった。
この学校は全て選択制の授業の為、ホームルーム以外は1年生から4年生までの全学年が受けることができるのに、この授業の人数の少なさは異常だった。
「今年は君たちが来たか。
上級戦闘術の授業はただ俺と戦うだけの授業だからな。
毎年参加者は1ヶ月と持たないんだ。
今年は期待しているよ。」
そう言いながら木刀を渡された。
とんでもないところに来てしまった感があるが、まだ1年生はお試し期間なのでダメなら中級に変えればいいだけだ。
「まずは攻撃魔法は使わないで木刀で戦おうか。」
準備運動したら順番に先生と戦うシステムで何故か最初から木刀をもっていた坊主君が最初に名乗り出た。
「まずは俺、ソウ=レンが参る。」
彼は鋭い踏み込みで木刀の届く距離に入ると剣先を上に返し、ファルスの顎目掛けて切り上げた。
が、ファルスは体を少し斜めに傾けて木刀を避け、ソウの脇腹を蹴り飛ばした。
「スピードはすごいが、最初からそんな直線的な大振りをするな。相手の力量を見誤るな。次っ!!」
獣族の女の子が前に出て言った。
「シャナ=ルイテリア行きます」
始まる前に名乗るのがルールなのか?
彼女は始まるやいなや物凄いスピードで左右に飛びながら向かって行く。これは速い。
しかし一気に差を詰めたファルスに突き飛ばされて後方へ吹き飛んでしまう。
「速さで撹乱するならもっと低く跳べ!
空中は無防備だぞ!もっと獣族の骨格を活かせ!」
ふーっと息を大きく吐いた後、カイルは覚悟を決めて前に出た。
「カイル。行きます!」
カイルはジリジリと距離を縮めるとファルスの上段一撃目を受け止めた。
今の動きだけでカイルが今までで一番強いことが分かる。
ファルスの剣を弾き返したあと反撃に出ようとしたが、英雄の剣がいつも一歩早く、カイルは防戦一方となった。
そのうちに疲労で動きが鈍くなり、カイルは木刀を弾き飛ばされた。
「護身の為か守備の剣術はそれなりに教わったみたいだな。
だが、攻めることができなければ勝ちはない。
これからは被弾覚悟で攻めて来い。」
「ありがとうございました。」
俺の番がきた。
少し緊張しているが、考えてみたらバルガンとの稽古で毎日ボロボロにされていたのだからいつもと変わらないではないか。
「リックス行きます。」
いつも素手だったので木刀を使ったことがないのが心配だが、強く握って飛ばないようにすれば、、、
バキッ!
なんてことはない。
木刀は俺の手の中で2つに増えて無くなってしまった。
、、、
「リックス君は素手でいいよ。」
「すみません。そうします。」
俺が構えながら戦い方を迷っているとライオンはいつになく真剣な顔で言った。
「安心しろ。俺には全力で大丈夫だ。」
それを聞いた俺は本気で地面を蹴った。
蹴ったと同時に気付いたが、ファルスの木刀が俺の着地点に向かって合わせるように振り下ろされているのを確認し、右手に最大魔力を込める。
魔力で盾と化した腕は鋭く切り込んできた木刀を防ぐ。
が、その瞬間ファルスは回転をするように俺を軸にして後ろへ回り込み、木刀の柄を当てて俺のバランスを崩してくる。
彼を相手に悠長に体勢を立て直す時間は無い。
そう思った俺は掌に全魔力を込めて地面をすくい上げるようにえぐり取り大量の瓦礫を飛ばす。
が、瓦礫が飛んだ先にファルスの姿が無く、気がつけば俺の首筋に木刀が当てられていた。
闘技場にゼェ、ゼェっという俺の息遣いだけが響いた。
「まるっきり鬼の上級戦士との戦いだな。これはいい訓練になる。」
「ハァ、先生、俺にはアドバイスないんですか?」
「いやぁ、その戦い方としては今の年齢からすると完成形だね。
経験を積んで磨いていくしかない。
だからそこに、魔術と剣術を織り交ぜてオリジナルの戦い方を見つけて行きなさい。
そしたら圧倒的に強くなるはずだ」
「すみません。ありがとうございます。」
そう言って俺はみんなの所に戻って行ったが、三人とも固まって動かなかった。
瓦礫を飛ばして壊した闘技場の壁に太陽の光が降り注いで眩しかった。
そして指導者責任としてファルスは校長室でしっかりと怒られたらしい。




