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はるかのせかい・ふゆきのせかい 1

ここから読んでも読めます。

 『おかあさん、むこうにおかあさんよりもおっきいとかげさんがいるよ』


 『嘘ついちゃだめよ』

 『うそついてないもん!いるもん!おれんじのとかげさんいるもん!』

 『……おかあさんと遊びたいなら、そのまんまいいなさい。遊びたいって。いないものを、いると言っちゃいけません』

 『いるものはいるもん!はるか、うそついてないもん!』

 『………はるか』

 『なにさ!』

 『はるかには見えるのかもしれないけれど、おかあさんにはみえないの。ふつうはきっと、見えないの。だから、はるかは嘘をついていないのかもしれないけれど、はるかが嘘吐きに見えちゃうの。だから、そういうものが見えても、見えてないように振る舞いなさい』

 わたしは納得できなかった。何が普通に見えるもので、何が普通は見えないものなのか、区別もできなかった。


 そんな私は、お母さんの言った通りに、「ウソつき」と同年代の子達から言われるようになった。当時私は5歳だった。悔しくてしかたなかった。いるものはいるのに。悲しくてしかたなかった。嘘なんてついてないのに。


 私は悔しかったから、何に対しても普通に接するようにした。私が見えるもの全てに。いろんな子たちから敬遠されたけど、オレンジ色の大きなとかげさんも、空飛ぶまっしろなカーテンさんも、みんな私と遊んでくれた。たまに、山にある美味しい果物を教えてくれる角の生えたお婆さんだっていた。とても楽しかった。みんなに見えないなんてもったいないと思った。そんなある日のことだった。


 私と同じ年くらいの眼鏡をかけた男の子が、何もないところに向かって叫んでいた。

 『来るな!』

 そう言って、何もないところに何かを投げつけた。

 そうして彼は私の存在に気がつくと、慌てて走って行った。


 『まって!』

 普段から山をかけずり回ってみんなと遊んでいる私は、足の速さに自信があった。そして彼に追いつき袖を掴んだ。彼は抵抗するのをやめた

 『…おれは、かまってほしくてやってるわけじゃないから、はなせ』

 私は何を言っているのか意味がわからなかった。首をかしげる。

 『とにかくおれにかまうなよ。おまえもうそつきよばわりされるぜ』

 『もうされてる』


 私がそう言うと、彼は驚いてこちらを見た。

 『はるか、ふつうのひとにはみえないのがみえるんだって。おれんじのとかげさんも、そらとぶかーてんさんも、つののおばあちゃんも、ふつうのひとは、みえないんだって。』

 今、私の後ろには空飛ぶカーテンさんがいる。

 『…それはおれにもみえない…』

 『そっか…』

 わたしはがっかりした。もしかしたら、仲間かもしれないと思ったから。おなじものが見えているのかもしれないと思ったから。

 『でも、』

 彼は一呼吸置いて言った。

 『おれにはおばけがみえる』

 『おばけ?』

 『そう。もうしんだもの。たましいっていうやつかもしれないってにいちゃんがいってた。しんだじーちゃんからも、しんだきんぎょからも、すーっとでるんだ。たまに、まだいきていたときのかっこうになって、さまよいあるいてるやつもいるんだ』

 『それは、はるかみえない』

 『だよな。やっぱりおれ、おかし『だからすごい!』…え?』


 『しんじゃっただれかともあえるかもしれないんでしょ?すごい!ふつうのひとよりも、せかいをにばいたのしめるんだよ!あ、はるかもあわせればさんばいだね!きみとはるかでせかいはさんばい!』


 私は、普通の人には見えないものが見える自分以外の人に会うのが初めてで、はしゃいでいた。

 私と、見えているものが違っていても嬉しかったのだ。


 『……そっか、そうだな…!せかいがさんばいだな…』

 今にして思えば、彼は呆れていたのではないかと思う。でも、彼も笑っていた。

 『さとう ふゆき、さくらぐみ』

 彼が名乗った。私の隣の教室だ。

 『しばざき はるか、たんぽぽぐみ』

 私も名乗った。

 『…はるちゃんでいい?よびかた』

 『いいよ!ふゆくんってよんでいい?』

 『…わかった』

 『わーい!』


 そして私たちは、幼稚園を卒業するまで、一緒に遊ぶ友達となった。


*****


 俺には俗に言う、お化けだとか、幽霊だとか、魂だとか言うものが見えた。だが、周囲の家族の反応や、同年代の子供の反応を見て、ソレが見えるということが異常であるということを悟った。

 どうやら見えていないらしいと気がついた…意識したのは5歳くらいのころだ。その時には、家族は俺が霊感を持っているということを認知していた。まあ、見えるのは俺だけだし、母さんも父さんも、そういうものの存在は信じていないような気がした。なんとなく、俺を避けていたから。例外は兄ちゃんだった。

 『ふゆき』

 『なに、にいちゃん』

 『なぜ、母さんや父さんのところではなく、おれの近くで寝るんだ?』

 『にいちゃんといると、おばけがこないんだ』

 『実に不可思議な現象だな』

 『にいちゃん、しんじてくれるの?』

 『お前に嘘をつく理由がない。お前は、おばけが見えるを言うことでウソつきと呼ばれたり…不利益を被っているように見えるが、それでもなおそういうことを言っている。構って欲しくて幽霊だとかおばけだとかを言うとは考えられない。故に、お前の視界には俺の視界に写らないなんらかのものが見えていると解釈している』

 正直、当時の俺は兄が言っていることの意味がわからなかった。

 『ごめんいみわかんない』

 『信じてはいる。正体が誰であれ、クリスマスにプレゼントをくれる者は皆サンタクロースであるように。』

 ”信じてはいる”その言葉が聞けて、俺はやや安心した。

 

 『ありがとう』


 次の日のことだった。不気味な何かに追いかけられたのは。兄から持っておけと言われた塩を投げつけ、不気味な何か――おそらく怨霊だろう――は逃げたのだが、それを別の子供に見られた。

 『まって!』

俺はとにかく逃げてなかったことにしようとしたのだが、そいつは足が速かった。すぐに袖を掴まれる。


『…おれは、かまってほしくてやってるわけじゃないから、はなせ』

 兄曰く、かまって欲しいがために嘘をつく子供もいるらしい。そういう輩と一緒にされたくはなかった。

 『とにかくおれにかまうなよ。おまえもうそつきよばわりされるぜ』

 『もうされてる』


 そいつ…茶色の髪が外にはねた女の子は、当たり前のように言った。

 『はるか、ふつうのひとにはみえないのがみえるんだって。おれんじのとかげさんも、そらとぶかーてんさんも、つののおばあちゃんも、ふつうのひとは、みえないんだって。』

 おれんじのとかげさん?そらとぶカーテン?つののおばあちゃん…?そんな幽霊いないぞ…

 『…それはおれにもみえない…』

 『そっか…』

 彼女はがっかりした様子だった。そのあと去っていきそうだった。

 『でも、』

 俺は呼び止めるべきだと、なぜか思った。

 『おれにはおばけがみえる』

 それこそ、彼女が言っていることこそ、嘘かもしれにのに。

 『おばけ?』

 『そう。もうしんだもの。たましいっていうやつかもしれないってにいちゃんがいってた。しんだじーちゃんからも、しんだきんぎょからも、すーっとでるんだ。たまに、まだいきていたときのかっこうになって、さまよいあるいてるやつもいるんだ』

 そう言うと、彼女ははっきりと答えた。

 『それは、はるかみえない』

 

 『だよな。やっぱりおれ、おかし『だからすごい!』…え?』

 

 目をきらきらと輝かせて、彼女は楽しそうに喋った。


 『しんじゃっただれかともあえるかもしれないんでしょ?すごい!ふつうのひとよりも、せかいをにばいたのしめるんだよ!あ、はるかもあわせればさんばいだね!きみとはるかでせかいはさんばい!』


 見るからにはしゃいでいた。俺の言うことを、自分には見えない世界を無邪気に信じて。


 『……そっか、そうだな…!せかいがさんばいだな…』


 そんなこと、考えてもみなかった。


 『さとう ふゆき、さくらぐみ』

 気がつくと、俺は自己紹介をしていた。名札のデザインが同じだから、同じ幼稚園だろう。

 『しばざき はるか、たんぽぽぐみ』

 彼女もまた、笑顔で名乗った。

 『…はるちゃんでいい?よびかた』

 『いいよ!ふゆくんってよんでいい?』

 『…わかった』

 『わーい!』


 そして俺たちは、幼稚園を卒業するまで、一緒に遊ぶ友達となった。

 山をかけずり回ったり、神社に行ったり。お互いの見えているものを話したり、何が普通の人に見えてて、なにが見えないのかを二人で考えたり。とても楽しかった。ほかの園児に避けられても、互いに楽しければそれでよかった。


 しかし、俺は卒園を機に引っ越すことになった。はるちゃんは泣いていた。

 

 『いいか、はるちゃん、よくきけよ』

 『うん…』

 『ふつうのひとみんながわるいひととはかぎらない。』

 『うん…』

 『はるちゃんのみえるものがみえなくても、いいともだちになるかもしれないんだ』

 『!そうなの?』

 『そうだ。にいちゃんがおれにいってた。にいちゃんはあたまがいいから、たぶんあってる』

 『すごいねえ』

 『すごいんだ。まあ、それはおいておいて』

 『うん』

 『ふつうのひとにみえないものは、ひみつにしよう』

 『ひみつ?』

 『そう、かっこいいだろ?ひみつ。ひみつにしたら、なかよくできるひとがふえるんだ。うそだとおもわれそうなことを、いわずにすむから』

 『なるほど!…ねえふゆくん』

 『なに?』

 『はなれても、友達のままでいてくれる…?』

 『もちろん』

 『ありがとう!』

 

***

 そしてあれから6年ほど経ち、俺は小学6年生にしてもとの街に戻ることとなった。戻ると言っても、まあ、知ってる奴なんてそうそういないだろう。新天地に来たつもりで振る舞おう。


 「佐藤冬喜(ふゆき)です。よろし「ふゆくん!!!!」」


 …そこには目をキラキラさせた、


 「は、はるちゃん…!?」


 かつての親友が立っていた。

 かつての面影そのままで、間違えようがなかった。 

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