ちかこのせかい・ゆたかのせかい2
私、一原千花子は高校初日にして友達をゲットしました!
我ながらあれは…うん、電波だったと思う…よく承諾してくれたなあと、後になって思った。
初対面で!友達になろうって…!
…ない。小学生じゃあるまいし…。
でもあれは、声をかけずにはいられなかった。
だって、彼が近くにいるときだけ、本当に視界が開けるんだもの!
私の目の前にあるいろいろななにかが、ぱーっと散って、世界が明るくなった。はじめて、人間の形を見た。はじめて、机というものをみた。本当にびっくりして、呆然とした。彼が近くを過ぎ去った瞬間、視界が元通りに戻った。
彼の近くにいたいと思った。世界を見るために。
「本当に、俺といる時だけ見えているらしいな」
彼…佐藤くんは眼鏡を掛けていて、私よりも背が高い。真っ黒な髪は短く整えられている。こう、キリッとした人ってこういう人を言うのかな?
私はものが見えるということが1ヶ月経った今でも新鮮で、楽しい。見える範囲は、彼から半径2mくらいの範囲(自分の白杖の長さから予想した)に限られているんだけど、それでも面白い。
「うん。自分でも信じられない」
手元のノートを、顔をうんと近づけなくても見ることができる。最高だ。
私は放課後、彼が勉強している隣で、彼のノートを借りて自分のノートと照らし合わせたり、教科書と照らし合わせたりしている。とても勉強がはかどる。
「…そんなに楽しいか?勉強」
「わからないことがわかるのは楽しいよ。佐藤くんは楽しくないの?」
「面倒だ」
「そうなんだ」
「だが将来したい仕事が不確定であるため、様々な分野についてまんべんなく学ぶ必要性はあると思っている。面倒だがやらなければならん」
「ふうん」
最近わかってきた。佐藤くんはけっこう合理主義なところがある。あと、真面目だ。私は楽しいからやってるけど、彼は楽しくなくてもやるらしい。すごいと思う。
「ところで」
「うん」
「今俺の後ろにあって、かつお前が見ているものは何だ?」
そして、ちょっと不思議なところがある。毎回この質問をしてくるんだ。
「いっぱいあるけど…なんか白くて平べったくてにょろにょろしてるやつと、黄色くてまるいのと、あ、ちっちゃい人間みたいなやつもいる。こっちに来たそうにしてるように見えるよ」
「なるほど」
彼は何事かをメモにとっていた。
「こういうのって、普通は見えないものなの?やっぱり」
「少なくとも俺には見えない」
「そうなんだ……」
私が普段見ているものはなんなのかよくわからない。佐藤くんが来ると見えなくなる何か。なんなのだろう?彼を含めた大抵の人には見えていないみたい。彼はそれを見えてないけど、存在は信じてくれているように見えた。
自分には見えない何かを、どうして知りたいの?
と、以前そう聞いてみたことがある。
『ノーコメント』
としか言われなかった。そのときは流してしまったけど、やっぱり気になる。
「佐藤くんには見えなくて、私には見えるもの…私が、嘘をついているとは思わない?」
「……どういうことだ?」
「本当は何も見えてないのに、見えるように言ってるとか」
「嘘をついているのか」
「いや、そういう訳じゃ無いけど…」
「けど?」
「なんで信じてくれるのかなって…」
彼は少し考えてから、はっきりと告げた。
「先例があるからだ」
「え?」
わ、私と同じ…?
「そいつとお前の言うことに共通性が見られる」
共通性?
「え、えっと、…?」
「そいつによれば、俺がいると『おばけがこない』らしい。お前の言う、『視界が開ける』というのと、似たようなものを感じた。要するにそういったものが俺のまわりには来られないわけだ」
佐藤くんは、口角を上げて言った。
「ちょっと研究してみたいんだ。幻が…脳の異常や自然現象以外の…科学で証明できない形で…実在するのか否かを」
ちょっとした好奇心さと、笑って言った。
佐藤くんが笑うのを聞くのは初めてだった。