表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

8 4/3πr³の自由

一粒の種に永遠を見る



 二人は、まずデイジーの現状を確認することに決めた。

 デイジーが意識のはっきりする範囲を浮遊し、その広さを測る。

 地中は空中も含め検証の結果、半径30メートル程度の球状であることが判明した。

 デイドリーが注目したのは、その範囲の中心が自分だということである。


「最初はこの場所に思い入れのある地縛霊なのかと思ってたけど、どうやらデイジーを縛ってるのは俺みたいだな」


 デイジー曰く、デイドリーに声を掛けられるまで殆ど意識はなかったという。

 原因は依然不明だが、自意識を得る切っ掛けが、同時に行動を制限する要因であるとデイドリーは考えていた。


 次に、偽眼とデイジーの関係性について考察する。

 デイジーが幻覚でないことの最終確認として、(こっそり)姿を変えることができるか試す。

 髪や眼の色を多少被せることはできたが、基本的な形状を変えることはできなかった。

 比較対象として小さくデフォルメした疑似デイジーを思い描いてみたが、こっちの変更は容易であった。

 というのも、完全にデイジーでない生物への変更どころか、そもそも消すことが可能である。

 それだけで、違いは明確であった。


『デイドリーが小さい私で遊んでる……』


 謎の猟奇的趣味の誤解を解くのに、思いの外時間を要した。


 次に、メモ帳のようなことがどこまで可能なのかを確認する。

 デイジーに椅子や机を用意すると、普通に座ることができたようだった。

 ただ地面と違い座っている感覚があるらしい。地面の場合は張り付いている感覚である。

 試しに机の上に立ってもらったが、やはり立つ感覚があるという。

 ちなみに下着の色は白であった。

 『ハサミ』や『折り紙』も問題なく触れられた。

 デイドリーが驚いたのは『枕』である。

 まず、視覚情報からは得られない【ふかふか】という状態を持っていたこと。

 これは、偽眼の【状態】付与の力が関係している可能性がある。

 しかし、真に驚いたのはその中身であった。

 枕の触り心地に喜び、それを何故か全力で投げて遊んでいた時、『枕』が破れ羽毛が溢れ出したのだ。

 当然、枕の中身が羽毛であることは知っていた。デイドリーが生前使っていたからである。

 ただ、思い描く際にそこまで考慮したかと言えば、そうではなかったのだ。


「そういえば、『万年筆』のときもインクのことまでは考えてなかったな」


 デイドリーはある確認のため『車』を思い描く。

 デイジーに中の様子を教えてもらうと、ハンドルとシート以外は再現されていなかった。

 当然、エンジンがかかることもない。

 今度は『望遠鏡』を思い描き、デイジーに使用してもらう。

 デイジーは遠くが見えることに驚き、デイドリーにメモ『冒険者探す』を残すと頭上を飛び回りながら遠くを見て興奮している。


「やっぱり、ちゃんと【遠くが見える】のか」


 ある確認が確信となり、デイドリーは分かったことを整理する。

・デイジーは偽眼で思い描いたものに触れられる(実感を伴う)

・偽眼で思い描いた幻覚は〝デイドリーが体験したもの〟に限り【状態】を持つ

・デイジーが変化させたものは消せない


 『望遠鏡』を目前に描いた時覗き込んだが、デイドリーはレンズの構造を知らない。

 ようは、ガラス板が付いた筒である。しかし、デイドリーも遠くを見ることができた。

 『遠くに見える幻覚』を疑ったが、デイジーの視界が変化するということは間違いないだろう。

 再度『望遠鏡』を描き視界上空の白を確認することで、再現性も実証できている。

 また、デイジーが残した『遠くが見える!』というメモの切れ端をみた時、消そうとしたができなかった。

 ちなみにハリボテの『車』は消すことができている。

 消せないということで、もう一つ疑問が浮かんだ。


「デイジー!お前、メモ帳とペンはどこにしまってるんだ」


 空で遊んでいるデイジーに声を掛けた。

 呼ばれたことに気が付き、デイジーは下へと降りてくる。

 答えを示すように、デイジーは持っていた『望遠鏡』をポケットにしまい、『メモ帳』と『万年筆』を取り出した。

 メモ帳はわかるが、望遠鏡までポケットに入り切ったことを驚く。

 

「お前のスカートの中どうなってんだよ……」


 まさかどこぞの四次元収納か、とデイドリーが思っていると、何を勘違いしたのかデイジーが恥ずかしそうにワンピースをたくし上げていく。

 急いでデイジーの暴走を止めた後、デイドリーはいくつか検証を行った。

 まず、ポケットにしまった幻覚だが、一時的に消えているようであった。

 試しに『メモ帳』のストックをいくつかをデイジーに渡したが、一向に溢れる様子がない。

 また、消えた幻覚に関しては『入れたら出せる。当たり前だよ〜』とのことである。

 理屈はわからないが、デイドリーは考えるだけ無駄であると諦めることにした。 ポポポポポ…


 その後『クレープ』を描き出したが、口にしたデイジーは目を線にして難しい表情を浮かべていた。

 味がしないらしい。

 もちろんデイドリーはクレープを食べたことがあった。しかし、味を思い浮かべることができない。

 体験していても思い浮かべられない【状態】(味)は、付与できないことが分かった。

 それでもモグモグやっているデイジーをみて、食べた直後なら美味しくできるんじゃないかと考えるデイドリーであった。


 結局、デイドリーとデイジーの力では現状を打開できそうにない。


 さて、どうしたものか。




ポポポポポポポ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ