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第九十五話 全滅


 奇妙な光景だった。

 施設の地下とは思えない広大な空間は、横幅、奥行きともに数百メートル以上はあると思う。

 空には太陽が二つ浮かんでいて、サングラスなしではろくに目を開けることができないほどまぶしかった。



「まぶしい……!」

「太陽のように見えるのは人工照明だね。この部屋はウンモ星の環境を再現しているみたいだよ」

「なんでそんなことわかるんすか?」


 ピビーは黙って部屋の奥を指した。

 真っ白な空(っていうか天井)を視界に入れないようにすると目が慣れてきて周囲の状況がわかった。


 砂漠というか岩山というか、とにかく感想していた。

 シュウド修道院の近くの岩山には植物がなかった。

 あれをもっとひどくしたような感じの灼熱の荒野だった。


 遠くには巨大なクレーターのようなくぼみがあり、その中央にピラミッドみたいなものが建っていた。

 双眼鏡を借りてよく見ると、ピラミッドの周囲を人だかりが取り囲んでいた。

 人で埋め尽くされたクレーターは、まるで満席のコロッセオだった。


「うわっ……あれ全部敵かよ。千人はいるだろ」

「そんなものじゃないよ。あのクレーターの直径は二〇〇メートルはあると思う。一平方メートルあたり一人いるとして、十二万人くらいいるんじゃないかな」

「そんなに!?」


 めちゃくちゃやべーじゃねーか。


「ピラミッドをよく見てごらん」


 コロッセオの中央にあるピラミッドはレンガを積み重ねたものだった。

 マヤ文明っぽい感じだ。

 その頂上で頭の悪そうな男が何かを喋っていた。


「なんかいるっすね……ひどいバカヅラのハゲが」

「ウンモ星人のボス、ボンジョレモァだ」

「演説してるのよ」


 鎮鈴さんから小さな機械を差し出された。


「指向性マイクで音を拾ってるの」


 そこから出ているイヤホンを耳に入れた。


 ボンジョレモァの演説がはっきりと聞こえる。


「DO UNMO DO DO UNMO DO UNMO UNMO……」


 何を言っているのかわからない。

 翻訳してもらおうとピビーにイヤホンを渡そうとするが、ピビーは既に別のイヤホンをつけていた。


「何を言ってるかわかります?」

「もちろん」

「同時通訳お願いしてもいいっすか?」

「OK」


「『……というわけで、この空間に我が故郷ウンモ星の夏を再現したのである。夏といえば、私が初めてお漏らしをしたあの夜を思い出す。あの日私は……』」


 何を言ってるんだ、あのハゲは。


 地上の基地が爆破されてこうして侵入者まで入り込んでいるのに、なんてのんきな。

 気づいていないのだろうか。


 ピビーは翻訳を続けていた。


「『諸君、暑いか? 私も暑い。だが、負けるな! 我ら勇猛なウンモの民は、負けてはならない。地球人を全て二本槍にするまでは負けるわけにはいかぬのだ』」

「あいつら地球より科学が進んでるのに、根性論みたいなことやってるんすね」

「ウンモ星人の知的レベルは地球人よりはるかに劣るからね。たまたま数人の天才によって人類が進歩しただけだから」

「そうなんすか」


 なんてヤツらだ。


「『うう……暑、い……だが、私は負けるわけに、は……』」

「だんだん弱ってきたみたいっすね」


 ピラミッドを囲む聴衆たちがばたばたと倒れているのがわかった。

 何もしていないのに十二万の軍勢が減っていくのは非常に助かる。


「どうします? もう少し待ちます?」

「それがいいね。敵の数が減るまでここで待機しよう」



 俺たちは通路の奥に引っ込んで陽射しを避けながら、時を待った。

 葵姫たんが持っていたトランプで盛り上がっているうちに三時間が経過してしまった。


「まだっすか?」

「まだ演説しているね。ようやく侵入者の話題になったよ。でも、半数以上が熱中症で倒れてしまったね」


 ずっと見張っていたピビーが笑った。

 まだ半分も耐えてやがるのか。

 でも、あのまぶしさと暑さの中で脱落したのが半分だけとなると、確かに根性だけは地球人よりあるかも。


 あまりの明るさで忘れてたけど、今は深夜のはずだ。

 俺たちは交代で仮眠をとることにした。











「鈴木くん……鈴木くん」


 誰かの声がした。チャールズだと思う。

 んんん……まだ起きたくない。

 女性陣を優先したから、俺はまだ寝たばかりなのに……。


「あと、五分ね、五分……」

「鈴木くん、起きて」


 ……半目で見たらビグザムさんのどアップのビグザムさんが視界を埋め尽くした。


「やですう……」


 グロいので目を閉じた。


「凡ちゃん、起きて、大変!」

「やだ」


 こいつの話は聞かなくてもいいや。


「起きて」


 ……!?


 涼風が耳を撫でるようなこの声。

 俺は飛び起きた。


「葵姫たん!?」


 目の前に葵姫たんがいる。

 本物だ。


 そうだった。

 葵姫たんと合流したんだった。

 忘れてたよ。


 数日会わないだけでずっと会っていないような錯覚に落ちていた。

 これが……本物の愛か。


「……ふーん」


 凛夏がゴミを見るような視線を向けた。


「うるせー貧乳! 牛乳飲め!」

「はあ!?」

「それより葵姫たん、俺が寝てたから寂しかったんだよね? もう起きたから安心してくれ!」

「……」


 葵姫たんがくるりと背を向けると、忍者屋敷のどんでん返しみたいにチャールズが俺に向き直った。


「鈴木くん、やっと起きてくれたな。ヤツらが大変なんだ」

「ヤツら?」


 ウンモどもか。

 あいつら何をやらかしたんだ?


 ピビーから双眼鏡を受け取る。


 例のクレーターを覗き込むと、十二万の群集が一人残らずぶっ倒れているのが見えた。


「全滅!? あのハゲは?」


 ピラミッドの頂上にいたボンジョレモァの姿はなくなっていた。


「階段の下を見てくれ」


 言われたままにピラミッドの外壁に取り付けられた階段に双眼鏡を向けた。

 階段の中ごろに血しぶきが飛び散っていて、一番下でハゲ頭が動かなくなっていた。


「えっ? あのハゲ……死んでる?」

「そうなんだ。何分か前に熱中症で階段から転がり落ちたんだよ。つまり」

「つまり……?」


「ウンモ星人は全滅した、というわけだ」



 えええええええええええ!!!!?

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