第九十三話 誠意(中編)
葉っぱ人間が襲い掛かってきた。
こいつらはすばしっこいが、滞空中に軌道を変えられない。
前回の岩場と違って地形がシンプルであることが良かった。
跳躍した葉っぱ人間を充分に引き付けてから、引き金を引く。
「フギャーーッ」
よし、一匹。
「ウプッ」
チャールズも同じ要領で一匹仕留めた。
凛夏はタイミングがわからないようで、無駄弾を撃っていた。
「弾を無駄遣いするな! 跳んできたら撃て!」
「わ、わかった……」
「ウキョローーン!」
「ウキョキョッ」
わずかな時間差で二匹が跳びかかってきたが、チャールズが同時に仕留めた。
「早撃ちチャーリーと呼ばれていたことがあってね」
「早漏の間違いじゃなくて?」
「早漏で早撃ちさ!」
チャーリーも腕は確かなようで少ない弾で確実に葉っぱ人間を仕留めていった。
このおっさん、やる時はやる。
無我夢中でヤツらを始末するたびに少しずつ絶望感が薄れていくように思えた。
(このまま時間稼ぎができれば……!)
しかし、巨人のせいでそれは叶わなかった。
「UNMOーーーッ!!」
ヤツとの距離は充分離れているのに、柱を引っこ抜いてそれを投げつけてきたのだ。
「あぶねー!」
咄嗟に身をかがめる。
柱は俺たちの頭上の壁にぶちあたって砕け散った。
飛び散った破片のうち大きなものが葉っぱ人間を叩き潰した。
「あいつ、味方も敵もわかってねえぞ!?」
「UNMOーーーーーッッ!!」
巨人が走り出した。
足元の葉っぱ人間を踏み潰しながらこちらに向かってくる。
「ウキョロキョッ!」
ブチブチュッ!
水風船が割れるような不快な音を立てて葉っぱ人間が潰れていく。
仲間をやられているというのに、葉っぱ人間は俺たちを襲い続けた。
巨人をやれ、巨人を!
「鈴木くん、まずい。弾がなくなる!」
「俺もです!」
「チャールズさん、私のを!」
「すまない!」
おかしい。
葉っぱ人間が減らない。
その理由がようやくわかった。
ピビーがやられた場所の近くの壁が開いて、そこから新手の葉っぱ人間が湧き出ていた。
「マジかよ……」
稀能が回復したとしてもこの数は無理だ。
巨人は俺たちに向かってくる。
「ウキョロキョッ!!」
葉っぱ人間が吹っ飛んだところで最悪の報せが入った。
「鈴木くん! 弾が切れたぞ」
「逃げましょう!!」
俺は凛夏の手を引いた。
凛夏は「自分で走れるから」とばかりに俺の手を払った。
「凡ちゃん、どっちへ!?」
「あいつらの中へ!」
葉っぱ人間は百匹近くまで増えていた。
群れに飛び込めば同士討ちを避けるためあいつらも攻撃しづらいのではないか。
そして葉っぱ人間を巨人に対する肉の壁にできるかもしれない。
残り八分。
(厳しいな……!)
冷たい汗が流れた。
「DO DO UNMO!!」
巨人は葉っぱ人間を踏み潰し、つまみあげ、握り潰した。
葉っぱ人間たちの断末魔の叫びは途切れなかった。
「いやっ」
「フギャギャッ!」
凛夏が転んだ。
背中に葉っぱ人間が覆いかぶさっている。
「葉月くん!」
チャールズが葉っぱ人間を引っぺがした。
しかし、歩みが止まってしまったためか、葉っぱ人間の猛攻が始まった。
「ウキョー」
鋭い爪を伸ばして目の前に飛んできた。
目をつぶって顔を背けたが、まぶたのすぐ上を切りつけられた。
出血し、傷口が熱くなった。
「葉っぱ野郎!」
つかまえた葉っぱ人間を思いきりぶん殴る。
しかし思うようにダメージは与えられないまま、背中に別の葉っぱ人間の攻撃を受ける。
(やばい……)
死肉をついばむコンドルのように葉っぱ人間が凛夏に覆いかぶさった。
「凡ちゃ……!」
両腕に噛み付く葉っぱ人間をふりほどいて凛夏の上のヤツらに体当たりした。
「フギャッ!」
今度は俺が凛夏におおいかぶさり、彼女の背中と頭をかばう。
「凡ちゃん! 大丈夫だから!」
「うるせー!」
何匹かから背中を引っかかれている。
とんでもない痛さだ。
服は破け、皮が剥がれたんじゃないかと思うほどの激痛。
呼吸をするだけでナイフで刺されるような痛みが全身に響いた。
それでも凛夏をかばい続けた。
「葉っぱ人間ども! 私を狙え! 私のポコチンはノーガードだぞ!」
姿は見えないが、チャールズは自由に動けるらしい。
普段だったらムカつくはずのチャールズの声すら頼もしかった。
ああ見えても彼は本気で俺たちを守ろうとしているのだ。
あいにく葉っぱ人間は彼のポコチンがお気に召さないようで、俺の背中は痛みの感覚を忘れつつあった。
「凡ちゃん! やめて!」
「うるせえっつってんだろ! 貧乳が!!」
とうとう熱さと振動だけが俺の感じられる感覚となった。
今回ばかりは死んだな。
凛夏の想いに対する答えは出なかった。
自分でもわからなかった。
それでも、自分を想ってくれる女を守って死ぬのなら業だらけのこの人生も、少しは穢れを落とせるんじゃないだろうか。
目の前も頭の中も真っ白になっていく。
嗚咽の混ざった凛夏の声が俺が人生で最後に聞いた音だった。
そして全てが失われた。




