第九十一話 絶望への誘い
やばすぎる。
どちらへかわすべきか、右か左か。
痛みと緊張で心臓が高鳴った。
「さらばだ」
ダダダダダダダダダダダダダダダ!!
爆竹に似た連打音が鳴り響いてあたりがストロボのように瞬いた。
咄嗟に凛夏の手を引いて横に跳んだ。
転がった先で追撃に備えて立ち上がった。
(……あれ!?)
ウンモ星人がどさどさと倒れるのが目に入る。
チャールズが景気よく乱射していた。
俺を攻撃するように見せかけて、敵を撃ったのだ。
マシンガンを奪うためにわざと自分の銃では外したってわけか。
インポヤローのくせになかなか味な真似しやがって。
だけど俺の左腕は痛えんだっつーの。
この恨みはウンモどもにぶつけてやる。
銃声が鳴り止まない。
チャールズの行動を引き金に戦闘が始まったらしい。
俺は凛夏の手を引いて柱の陰に身を隠した。
「凛夏! 柱の影に隠れてろ。周囲に気を配って、敵が見えたらすぐに撃て、躊躇するな」
「で、でも……」
「迷わず撃て! 絶対に生き残れ、いいな」
「わ、わかった」
ピビーは右の柱。
鎮鈴さんはあっち。
チャールズは……巨人の気を引いてるのか。
自由に動ける敵は二十体くらいか?
味方の弾を受けずに済むのは、チャールズのところだな。
柱から柱へと隠れながら移動して、近くに倒れたウンモ星人からマシンガンを奪い取った。
「UNMO!」
目の前に飛び出したウンモ星人の足を撃ち抜く。
「DO DO UNMO DO!」
「うるせー!」
倒れたウンモから銃を回収……おっと!?
星座を思わせる弾痕が足下に増えていく。
咄嗟に銃を向ける。
俺を撃とうとしたヤツは柱の影に隠れた。
(顔を出したら蜂の巣にしてやる)
「うわっ」
誰かに突き飛ばされ体勢を崩した。
振り返って撃とうとしたら、ピビーだった。
彼の銃口の十メートル先でウンモ星人が崩れ落ちた。
俺を救ってくれたようだ。
「周囲に気を払って」
「すいませんっす」
「おげごべぇっ!!」
芝居がかった声がして、死角からチャールズが飛んできた。
「チャールズ。大丈夫っすか」
「な、なんとかな……全身の骨にヒビが入ったかもしれん……」
「あの棍棒で殴られたのならそんくらいで済んでラッキーっすよ」
「いや、ポコチンにぶつかっただけだ」
巨人の棍棒で殴られたんじゃねーのか。
「それは死んだほうがいいっすね」
のしのしと巨人が迫ってくる。
チャールズにトドメを刺そうというのだ。
「この野郎!」
手にしたマシンガンを巨人に向けて乱射した。
「ウポッ! ウポポポッ! ギンモヂィィィィ」
ダメージが全く通ってない?
それどころかポコチンへの振動を楽しんでいる節まである。
最悪だ。
「チャールズ、捕まって」
「かたじけない」
ピビーと鎮鈴さんは順調にウンモ星人の数を減らしていた。
残りの兵士は三人程度だ。
ヤツらを全滅させたら全員でこの巨人を倒すしかない。
しかしマシンガンではあいつの皮膚を貫通できないらしい。
稀能さえ使えれば、手刀でダメージを与えられたかもしれないのに。
鎮鈴さんが巨人と体を入れ替えるのも有効かもしれない。
しかし、稀能が再び使えるようになるのはドクトルが死んでから一時間後。
あと五十分近くあると思う。
その前にこちらが全滅してしまう。
「UNMOーー!」
巨人が迫ってきた。
柱は大体五メートル間隔で立っている。
チャールズに肩を貸したまま、俺たちは柱の間をジグザグに駆け抜けた。
俺たちにとってはなんでもない動きでも、ヤツの巨体からすれば狭くて通りにくいはず。
ピビーたちが兵士を全滅するまで少しでも時間を稼ごう。
案の定というか、巨人は柱に阻まれて動きが鈍くなった。
人間でたとえるなら、公園の入口にある車進入禁止のポールが密集しているようなものだ。
通れないわけではないが、ストレスにはなるだろう。
柱の影からウンモの兵士が倒れてきた。
俺は避けられたが、チャールズがつまずいて転んでしまった。
「鈴木くん!」
兵士は血を吐いていた。
鎮鈴さんが倒したのだ。
「あと一匹よ」
何本か先の柱のところでピビーが兵士を撃ち抜いた。
「やった!」
あとは巨人を倒すだけだ。
一番奥の柱の裏にいた凛夏にチャールズを預けてから、ピビーたちと合流した。
「二人でヤツの注意を引いてほしい。柱に登ってヤツの目を撃つ」
「了解っす」
巨人の死角から、ピビーは柱を登り始めた。
「おい、デカチン野郎! こっちだ!」
「UNMOー」
俺と鎮鈴さんは柱の間を駆け回ってヤツを挑発する。
ヤツはアホなので、どちらを追おうか迷ってしまい立ち往生していた。
「追いついてみろバーカ」
「こっちよ」
巨人の股の下を抜けて反対側の柱まで突っ切った。
ついでにふくらはぎに向けて銃弾をぶち込んだ。
「UNMOー!!」
軽く血がにじんだもののまるでダメージを受けていない。
ヤツにとっては針に刺された程度なのかもしれない。
でもピビーの作戦通り、目や口の中ならダメージは通ると思う。
針であっても目に刺されたらヤバイ。
二階の屋根ほどの高さの柱にピビーは登りきった。
「鈴木くん!」
「OKっす」
鎮鈴さんと俺はピビーの柱にヤツを誘導した。
「もう少しひきつけてくれ」
「了解」
緩急をつけながらヤツを誘導して、ピビーの柱にぶつかる寸前に俺たちは左右に分かれた。
「UNMO!?」
巨人がどちらを追うか迷った瞬間、頭上で銃声が響いた。
「DO--------!?」
ヤツは両手で目を押さえながらよろめいて、柱を崩しながらしりもちをついた。
「うまくいったね。もう一度同じことをやろう」
「了解」
「UNMO……!」
ヤツはふらつきながら立ち上がった。
目をおさえる左手の指の隙間から青い血がだらだらと流れる。
「こっちだチンポヤロー!」
ピビーの柱の真下からヤツの注意を引いた。
「UNMO----ッッ!!!」
巨人は怒号をあげながら棍棒を振り回した。
「うおッ!?」
爆発に似た破壊音を立て、柱が砕け飛んだ。
砕けた破片が隕石のようにあちこちに降り注ぎ、一拍遅れて小石や砂がパラパラ降ってきた。
衝撃で柱から落ちたピビーはそのまま床を転がって、巨人の足の指にぶつかって停まる。
「UNMO!!」
ピビーの真上で巨人が棍棒を振り上げる。
「やめろーーーーッッ!!!」
俺は叫んだ。
しかし次の瞬間地震のような衝撃が走って、目を開けるとピビーのいた場所には巨大な棍棒がめりこんでいた。
あまりに強く叩きつけたせいか、地面にめり込んだ棍棒がなかなか抜けないらしい。
巨人は必死にそれを引き抜こうとしていた。
「ピビー!!」
無事ではないことは見るまでもなかった。
机に留まった蚊を金槌で思い切り叩き潰したようなものだ。
これまで何人かの敵を倒してきたが、さっきまで話していた味方が絶命するということがどんなことなのか、俺にはわかっていなかった。
目の前の色が真っ白に飛んだ気がして、俺は呆然と立ち尽くした。
「鈴木くん!!」
鎮鈴さんの声で我に返った。
俺の真上にヤツの棍棒が持ち上げられていた。
脱兎のごとくその射程から逃げ出す。
絶対時間もないのに、棍棒についたピビーの血液がはっきりと見えたような気がした。
立っていられないほどの衝撃が地面に走る。
真後ろには再び棍棒がめりこんで小さなクレーターを作っていた。
四つん這いで必死に間合いをとって、数歩進んでから走り出した。
「UNMO--ッッ!!」
ヤツは俺を追ってきた。
柱を避けて走り続ける。
「UNMO-----!!」
柱を破壊できることを学習したらしく、ナタで藪を払うように柱をなぎ倒しながら追ってくる。
「チャールズ! 凛夏! 逃げろ!」
「凡ちゃん!?」
「逃げろ!! 兵士が出てきた出口のスイッチがあるはずだ!」
「う、うん」
二人を逃がすためにわざと遠回りして走った。
「UNMO! UNMO!!」
柱が倒れ、崩れていくせいで俺の行動範囲も限られてきていた。
この広いフロアの三分の一程度は瓦礫の山と化した。
(やばすぎる! 絶対時間さえあればヤツの瞬発力をこちらの攻撃力にできたのに)
しかし稀能が使えるようになるまであと三十分以上はかかる。
もはや戦うことは諦めこのフロアから脱出することを第一にしなくてはならない。
凛夏たちは反対側の壁まで移動していた。
ドアのスイッチがないのか壁を調べているのがわかった。
出口が見つかる前に俺があそこまで行ったら全滅は間違いない。
足場は悪くてもこの瓦礫の中で時間を稼がないと。
そんなこと可能なのだろうか。
――できるわけがない!
(まずいまずいまずい……)
「あっ!」
足がもつれて転んでしまった。
「UNMOー!」
潰れかけた巨人の瞳に歓喜の色が灯ったように見えた。
――死んだ!!
そう確信した時、頭の中に人生の走馬灯が駆け巡った。
凛夏と初めて会った日のこと。
あいつのじいさんにカンチョーをぶちこんで怒られたこと。
凛夏と別れた日のこと。
卒業生代表の言葉で担任の性癖をばらしたこと。
中二の時、度胸試しで線路上にテントを張って眠ったこと。
橋川先生をハメたこと。
女子更衣室の床下に秘密基地を作ったこと。
みんなが異世界に行ってしまい、取り残され寂しかったこと。
喫茶店でチャールズと出会ったこと。
(もうダメや。わいは死ぬんや……死ぬ前に葵姫たんに無理やりでも挿入しておけば良かった……)
「凡ちゃんっっっ!!!」
は?




