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第七十七話 襲撃! 恐怖の葉っぱ人間

「とっちゃうって、何すか?」

「決まってるだろ。凛夏ちゃんのことだよ」


「……」

「……」


 沈黙が続く。


 何を言ってるんだ、このおっさんは。

 『とっちゃう』ってまるで凛夏が俺の所要物みたいな言い方じゃねーか。


 ピビーはずっと俺のほうを見ていた。

 部屋を覗かれるような不快感を感じて目をそらす。


「いいのかい?」

「……ひとつ、いいすか?」

「どうぞ」

「凛夏って俺のもんだったんすか?」

「ぷっ」


 ピビーは噴き出した。


「あははははは! なるほど、そう来るとは思わなかった」


 意表を突かれたような様子で笑っていた。


「??」

「返し方が素敵だよ、君は」


 褒められているのだろうか。


「別の反応を期待していたんだけどな。まあいいや」


 ピビーは揚げたてポテトを紙皿に移し。

 新しいポテトをつまんでぽいぽいと油に投下していく。


「……」

「……」


 再び無言の時間が続いた。

 何を話していいかわからない。


 凛夏が俺の所有物だというのなら、あいつはもっと俺に忠義を尽くすべきではないか。

 あいつ三歳も年下のくせに生意気なんだよ。

 つーか、俺がどれだけいい男であるのかを葵姫たんに伝えてくれないかな。

 葵姫たんみたいな男嫌いを狙うには、女子の味方を作るのが重要だろうしなあ。


「……木くん」


 所有物というのはよくわからないが、凛夏は俺の敵なのか、味方なのか。

 それくらいははっきりしておいたほうが良さそうだ。

 でもあいつ、子どもの頃から俺を陥れようとしてばかりだからなあ……。

 幼稚園でいじめられるっつーから、そのガキを竹串でカンチョーしてやっつけてやったら俺が怒られたし。

 どうもヤツは疫病神のような節が……。


「鈴木くん」


 はっ!?


 ピビーの声で我に返る。


「なっ、なんすか?」


 ついつい考え込んでしまっていたようだ。


「しっ。何か聞こえないか」

「え……?」


 口をつぐんで、耳に意識を集中させた。

 吹き付ける強い風音以外、何も聞こえない。

 岩山だからか、キャンプにつきものの虫の声すら聞こえない。

 アメリカ人にはセミの声すら騒音に聞こえるというけど、日本人の俺としてはアウトドアで虫の声がないと物足りなさを感じる。


「何も聞こえな……ん?」


 聞こえた。

 何か聞こえた。


 ウキョキョ……と聞こえるような気がする。


「何だろう」

「……うーん、鹿か何かじゃないっすかね」

「鹿はあんな声じゃ鳴かない」

「あっ、チャールズじゃないっすか?」


 俺は温泉のほうを指した。

 やたら早かったけど、チャールズが帰ってきたに違いない。全裸で。


「いや、あっちからだね」


 ピビーは真逆の方角を指す。

 俺たちが登ってきた方向だ。


 じゃあ何だ。

 ピビーはリボルバーの弾をあらためてから立ち上がった。


「俺も行きます」


 一瞬だけ焚き火を消すか迷ったが、放置しても周囲に引火しないことだけ確認して俺もそれに続いた。


 どうせ猿かなんかだろう、と思いながら崖のほうに近づいていくと、崖下から何かが飛び出した。


「うおっ!!?」

「ウキョロキョキョーン!」


 黒い影は俺の頭上を飛び越えて山頂に着地した。

 振り返った瞬間、再びそれはカエルのように跳躍した。

 かろうじて人型であることだけわかったが、目にも止まらない速さで飛び回るのではっきりとした姿は認識できない。


 猿のようにぴょんぴょんしながら大きな岩場の上に飛び乗った。

 焚き火に照らされたそれは、初めて見る生物だった。


(毛の生えていない猿……?)


 禿げ上がった頭に真っ赤に光る二つの目。

 変温動物のように冷たそうな肌からは細長い手足が生えている。


 股間にはモザイク代わりの葉っぱがつけられていた。

 猿と爬虫類のあいのこみたいな異様な姿。


「フギャッフギャッ」


 それは舌なめずりしながら俺たちを見下ろした。


「この野郎!」


 目にも留まらぬ速さでピビーが銃を抜き構えた。

 銃声が鳴るか鳴らないかのタイミングでそれは跳び上がった。


 虚空に向けて銃を構えたピビーの頭上を越えて俺たちのキャンプに着地する。

 それは二度三度こちらを見てから、チャールズにとっておいたカレーに長い舌を這わせた。


「な、何すかアレ!?」

「葉っぱ人間だ! 実在していたとは」

「葉っぱ人間?」

「この辺りで目撃されていたUMAだ」

「ウンモ星人の手先っすね?」

「わからない」


 わからないと言われても!

 少なくとも、あんなのが出る場所で眠ったりなんかしたくない。


 敵ならば退治する。

 そうでなければ……そうでなければ、どうしよう。


(貴重な生き物っぽいし、捕獲して売ったら金になるんじゃね?)


「ウキョロキョキョーン」


 葉っぱ人間はカレー皿をぺろぺろと舐め続ける。


「とりあえず気持ち悪いし、追っ払いましょう」

「そうだな」


(ヤツがカレーに気をとられているうちに……)


 勢いよく地面を蹴った。


「ウキョッ!?」


 ヤツはカレーを捨てて焚き火からさっと離れた。


「おおおっ!?」


 あまりの素早さに気をとられ、焚き火に突っ込みそうになるのを間一髪でこらえた。


「あぶなかった……」


 葉っぱ人間は再び山頂で一番高い岩に乗った。


「ププーウプッ」


 挑発するかのようにこちらを見下ろしている。


 ムカッ。


 しかし、あの速さは尋常じゃない。

 普通なら動き始めはもたつきがあるのに、ヤツはいきなり最高速で動けるように見えた。


 これじゃ捕まえられない。


「鈴木くん。闇雲に追っかけても無駄だ。頭を使おう」

「うーん……」


 発砲しても逃げる。

 近づいても逃げる。

 カレーには近づく。



「……あ!」

「何かあったかい?」

「食い物でおびき寄せればいいんじゃないすか」

「なるほど」


 紙皿には揚げたてのポテトがたっぷり乗っている。

 あれをうまく使えば……。


「おい、ツルッパゲ!」

「ウキョ?」


 俺はポテトの乗った皿を手に取った。

 そして十メートルほど先の岩に座る葉っぱ人間に見せつけるように振ってみせた。


「こいつを食いたきゃーこっちに来やがれ」

「ウキョッ!」


「うおっ!?」


 まばたきするかしかないかの一瞬の後、葉っぱ人間のどアップの顔が目前に現れ、驚いた俺はポテトを落としてしまった。

 葉っぱ人間は目にも止まらぬ速さでポテトを拾い集めて俺から離れた。


 こちらを警戒しながらポテトを舐め回していやがる。


「鈴木くん、大丈夫か」


 ピビーがこちらに駆け寄ってきた。


「マジ速すぎっすよ。無理っすわ」

「ううむ、仕方ない」


 ピビーはテントに頭を突っ込んだ。

 バッグを開ける音が聞こえた。


 その間、俺はヤツが逃げないよう見張っていた。

 ヤツはポテトを舐めたり口の中に出したり入れたりしていた。

 その下品な食い方に、ムカッとした。


「ちょっとどいてくれ」


 ピビーが持ち出したのは、サブマシンガンだ。

 っていうか、そんなもん持ってたのか。


「このままじゃ跳弾の危険がある。あっちのほうにヤツを誘導してくれ」


 ここから見て山頂の反対端だ。

 あちらなら岩も少なくて跳ね返るリスクも少ないし、崖下の温泉からも離れているので色々と都合がいい。


「おーけい」


 俺は親指を立てた。


 フライパンを傾けて油を捨てる。


「おい、葉っぱ野郎!」

「ウキョロキョキョーン」


 持ち上げてたフライパンを中が見えるように傾ける。


「ポテトはまだあるぜ。もっと熱々のがな!」

「フギャッフギャッ」


 葉っぱ人間はポテトをチュパチュパしながらこちらに視線をよこす。


 ヤツは興味津々。

 くわえたポテトが興奮したように上を向いている。


(なんかいちいちムカつくなー)


 俺は駆け出した。


「食いたければ、こっちに来やがれ」

「フギャッ――」


 テントから二歩程度のところで腕に妙な重みを感じた。


(えっ!?)


 一瞬前までいた場所に葉っぱ人間の姿はなく、ヤツのぬるっとした腕がフライパンを持つ俺の右腕をつかんでいた。

 もう追いついてきたのかよ!?


 フライパンを素早く左腕に持ち替えて、右手を闇雲に振ってヤツを払いのける。


「ウキョッ」


 しかし悪魔のような反射神経でヤツはそれをかわした。


「ウキョロキョキョーン」


 おまけに数本のポテトまで持っていかれていたのだった。

 葉っぱ人間は数歩離れたところでチュパチュパと品のない音を立ててポテトを舐めていた。


(油断した! っていうかすげームカつくな、コレ!)


 だが、少しでもテントから離れるには今しかない。


 俺は全力で駆けた。


「ウキョキョッ!?」


 声が聞こえたと思った直後には、葉っぱ人間は俺の正面に回りこんでいた。

 マジでどういうスピードだよ!


 だけどテントからは五メートル以上離れた。

 ここでやってもらうしかない。


「ピビー!」

「任せてくれ!」


(よし、信じるからな……いくぞ!)


 ピビーに目配せしてから、フライパンを振り上げポテトをばら撒いた。


「フギャッ」


 宙に飛散するフライドポテトたち。

 カエルのように跳び上がった葉っぱ人間が、両手両足を伸ばして空中でポテトを集める不気味な姿。


「!!」


 ピビーが放った殺気が合図になった。

 俺は素早く地面に伏せた。

 一瞬のち、絶え間なく鳴り響くマシンガンの咆哮。


 空中では方向転換はできない。

 葉っぱ人間が数十発以上の弾をまともに受ける姿がはっきりと確認できた。


 ついでに股間の葉っぱがちぎれて異形のチ●ポが現れた瞬間と、それが銃弾をはじいてボヨヨンと激しく揺れる姿も。


「ぶほっ」


 ――あまりの異常な光景についつい噴き出しそうになる。



 葉っぱ人間は地面に落ちた。

 あおむけに倒れ白目を剥いたまま、ビクンビクンと全身を痙攣けいれんさせていた。

 その姿は道で倒れたウシガエルのようだった。


「鈴木くん、ケガはないか」


 ピビーは葉っぱ人間が絶命したのを確認してから言った。


「余裕っす。つーか何かあったとしても絶対時間モラトリアムで避けられるし」

「しかし厄介なヤツだったね」

「あれだけ暴れまわって被害はカレーとポテトだけでしたね」

「ははは。ケガがなくて何よりだよ」

「つーかこいつポコチンで弾はじいていましたよ! めっちゃウケましたよ」

「あははは。本当かい?」


 葉っぱ人間のほうに視線をやるとヤツの体が光に包まれて形を変えてから、消えた。


「げ……こいつもしかして異物マターだったの?」

「そのようだね」

異物マターが現れるっつーことは、俺たちの居場所が敵側にバレバレってことじゃないすか? こんな目立つとこでキャンプするからじゃないっすか」

「うーん、そうとも限らないよ」

「どうしてっすか?」


「葉っぱ人間は何年も前からこの辺りで目撃されている。僕たちを襲うために派遣されたのでなく、ただこの辺りで放し飼いにされていただけの可能性は高い」

「ええー? 楽観的すぎないすか?」

「警戒するに越したことはないけどね。あいつらは僕たちの食糧しか狙っていなかった。刺客というよりは野生動物に近い存在だったんじゃないかな」


 確かに……。

 でも。


「敵は俺たちがエリア5.1を目指してるのは知ってるわけっすよね。だったらこの辺りも警戒は固めてるんじゃないすか」

「いや、敵は僕たちはもっと北にいると考えているはず」


 へ?


「どうしてそんなことが言えるんすか?」


 当然の疑問をぶつける。


「ショッピングモールを出てから僕たちは国道を北上していたんだけど、途中で道を外れたのは覚えてる?」

「……はあ」

「NHJが用意した車が、あの道沿いを今も北上してるんだよ」

「車? それがどう関係あるんすか?」

「そう。僕たちの影武者だ。彼らの車とすれ違った時に僕たちの携帯のSIM情報も彼らのものと書き換えている。GPSで監視されてもヤツらは僕たちがもっと北にいると思っているはずだよ」

「俺がソファでごろごろしてた頃にそんなことやってたんすか」


 ウンモ星人をバカだのアホだの言うなら、そんな面倒な工作しなくてもいいのに。

 車とすれ違いを目視した敵のスパイがいればGPSなんて無駄だし。

 ていうかそもそもそれまで極秘連絡もスマホでやってたからセキュリティガバガバだしなあ。

 まあいっか。


「敵が警戒しているのは僕たちだ。影武者たちはもう一〇〇〇キロは離れてるからね。修道院も警備は手薄だと思うんだよ」

「なるほど」


 ガチな警備は不要。

 登山者や物好きが現れた時に追い払うために放し飼いしている『葉っぱ人間』で充分ってわけか。

 こんな目立つところでキャンプを張ったのも、ハイキングっぽく装える効果でもあるってことかな?



「……ま、どっちでもいいっすよ。この程度の敵ならいくらいても相手じゃないし」

「そうだね。それよりポテトがだめになってしまったから新しいやつを揚げようか」


 そうだった。

 そっちのほうが大事だ。


 焚き火に戻ってクーラーボックスを開いた。


「ポテト、まだ意外と残ってましたね」

「良かったよ」


 フライパンに油を敷いていると、不快な声が耳に入った。


「ウキョロキョキョーン!」

「!」


 もう一匹いたのか!


「フギャッフギャッ」

「ウキョキョッ」


 一匹じゃない。複数いる……!?


 俺たちは周囲を見回した。

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