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第七十六話 珍コプター墜落事故

 湿地帯を抜けた頃には日が傾いていた。


 もうくたくただったので俺はその辺りの岩陰でキャンプしたかったのだが、今日中に目的のポイントまで進められれば、明日は比較的楽に進められるという。

 しかもその目的ポイントには天然の温泉があるらしい。


 今日中にそこまで行って温泉で疲れを癒し、万全を期して修道院に乗り込むのがチャールズのプランらしい。


 温泉か。

 長らく行っていなかったな。

 熱い湯に浸かればこの足の疲れも癒せるに違いない。


 仕方ないので今回は文句はつけず従うことにした。



 湿地帯の次は、岩山だった。

 大巨人が適当に彫刻刀で削ったような、荒削りの山。

 レトロゲームの低ポリゴンのグラフィックみたいなくせに、段差がきつくて上りにくい。


 おまけに『これは人間の歩幅では上れないだろう』って難所も点在していた。

 そんな時は荷物を下ろしたチャールズが壁面に張り付いて登り、俺たちは下ろされたロープを使って登る流れになった。

 チャールズがロッククライミングの経験者だったという知りたくもない過去を知りつつ、先へと進む。


 ただただ石と土だけでできている岩山は殺風景で、飽きるより先に気が滅入ってくる。

 岩陰の隙間からニョキニョキと生えている植物はどうしてこんな場所を選んで生息しているのだろう。熱帯樹林でも行けばいいのに、理解できない。


 いつの間にやらチャールズに預けてた荷物も自分で持つようになっていた。

 何もかもが辛くて嫌気がさしてきた。


 コンドルだか鷹だかよくわからない鳥が上空を旋回している姿すら、バカにされているようでムカついてきた。

 足もパンパンだし、イライラする!


 紅色の空に藍色のグラデーションが侵食していく。

 もう何十分か口を開いていない。


 東側の空には、星が瞬き始めていた。


「はあっ、はあっ」


 髪から垂れた汗が目に入る。

 全身から噴き出す汗が染み込んだ衣服を冷たい風が撫でて体温を奪う。


 暑さと寒さの入り混じって不快感が限界に近づいていた。


(こりゃあ今日中に温泉まで行くの無理じゃね?)


 凛夏を振り返ると、意外と涼しい顔をしていた。


 まさかこいつがこんなに強靭な体力を持っていたなんて。

 陸上か登山部でも入ってやがるのか、こいつ?


 先頭のチャールズもまだニ十五キロくらいの荷物を抱えたままだ。

 ここでへこたれたら俺がメッチャ情けないヤツみたいじゃん。


 仕方ないので我慢して歩き続けた。



 やがて太陽は完全に見えなくなり、完全な暗闇が頭上を覆った。

 時刻は午後八時を回ろうかという頃、先頭を歩くチャールズが振り返った。


「諸君、ご苦労だった。ここが今日の目的地だ」


 岩山の山頂だった。

 端から端まで一〇〇メートル程度の広さだが、凹凸も少なくキャンプするには充分なスペースだ。

 きっとたいした高さではないのだろうけど、見晴らしも良く気持ちいい場所だった。

 

 十メートル程度下った岩場から湯気が立ち上っている。

 覗き込むと、温泉になっていた。


「おおおおおおおっ!!!」


 安心感と満足感で疲れが吹っ飛んだ。


「とりあえず温泉入っていいすかね」

「まずはテントを張ってからにしよう」

「……おっけーっす!」


 適度にじらされるのも喜びに変わってしまうのは、疲れのせいか。


 重い荷物を下ろしててきぱきとテントを組み立てる。

 しかしイビツになってしまい強度が心配だ。


 男女で分けるため二つのテントを用意してたけど、こっちのテントはチャールズ専用にして俺たちは向こうに固まるのもアリかもな。


「僕のほうは組みあがったから、手伝うよ」


 そう思っていたらピビーがやってきて、コツを教えてもらいながら組んだらこちらも立派に仕上がった。

 広いし、これなら全員足を伸ばして眠れそうだな。


 さて、風呂だ。

 と思ったら凛夏と鎮鈴さんは食事の準備を始めている。


「あれ、おまえら風呂入らねーの?」

「うん、疲れてないから」

「マジかよ! おまえ超人かよ!」

「時々ピビーさんに癒してもらってたから」

「全裸で?」

「そうじゃなくて、本物の気功のほうだって!」


 なるほど、そういうことだったのか。


「っていうか、ずるくね!? だったら俺にも言えよハゲ!」


 ちくしょう。イカサマしやがって。


「カレーを作るから、凡ちゃんたちは先にお風呂行ってていいよ」


(じゃあ、お言葉に甘えて一番風呂をいただきますか)


 と温泉を見下ろすと、チャールズがくつろいでいるのが見えた。


 あの野郎……!

 姿が見えないと思ったら、一人だけ湯に浸かっていやがったのか!


 さすが尊敬できない上司ナンバー1だ。

 葵姫たんから授かった稀能パーソナリティでポコチン切り落としてやろうかと思った。


 温泉に向かおうとタオルと着替えを用意した。

 岩場を下りはじめた途端、脚に鈍痛を感じてしゃがみこんだ。

 太ももとふくらはぎがパンパンになっていた。


「鈴木くん、ちょっと待っててくれ」


 ピビーが駆け下りてきて、俺の脚に手をかざす。


「お……?」


 ふくらはぎが柔らかくほぐれていく。

 その筋肉繊維の隙間から疲労物質が滲み出してくるような感覚。

 あまりの気持ちよさに身震いした。


「き、気持ちいい……」

「ある程度楽になったと思うけど、念のため温泉でもよく揉んだほうがいいよ」

「あざっす!」


 俺はピビーにお礼を言って温泉まで下りた。



「やあ鈴木くん。とてもいい湯だぞ」

「つーかテントの設営もメシの準備もせずに何やってんすか」

「うむ。君と葉月くんの荷物を持っていたせいか、肩が凝ってな」

「それは前半だけじゃないっすか」

「堅苦しいことは言わずに温泉を楽しみたまえ」

「……はい」



 温泉の気持ち良さは想像以上だった。

 冷たい風と熱い湯のコントラストが最高。

 チャールズへの怒りは、疲れとともにあっという間に消えてしまった。


「……やべえ。最高じゃないすか」

「うむ。あれを見たまえ」


 眼下には荒地が広がっている。

 チャールズの指したのはその先にある山だった。

 今いる岩山の標高はせいぜい数百メートルだけど、数倍は大きい。

 山に近づくにつれポツポツと木々が増えていって、山の麓からは森になっている。


「修道院はあの麓にある」

「意外と近くじゃないっすか」

「うむ。二、三時間もあれば着くだろう」

「敵の本拠地の入口があるわけですよね。その近くのこんな目立つところでキャンプなんかしてていいんすか?」


 山の頂上で明かりをつけていたら目立つはずだ。

 カレーのにおいが風に乗っていくかもしれないし。

 せめてこの温泉と反対側の死角にしたほうがいいのではないか。

 チャールズには何か考えがあるのだろうか。


「なーに。相手はバカだから問題ないだろう」


 なかった。

 人類の命運がかかっているのにいい加減なものだ。

 ウンモ星人を高く評価しているのか、低く評価しているのかよくわからない。


 まあ、いっか。

 へたにプレッシャーをかけられるより気楽なほうが良いのかもしれない。


「それにしてもいい湯だ」

「いい湯っすね」

「日本に帰ったらどこかの温泉でも行こうか。経費で」

「いいっすね、それ」

「……」

「……」



 月に照らされながら立ち上る湯気をぼ~っと見ていたら、夢の中のような心地よさに包まれた。

 岩に背を預けて目をつぶる。


 ああ、こりゃ楽ちんだ。


 もうすぐエリア5.1に乗り込んでウンモのハゲどもと殺し合いが控えていることを忘れてしまいそうだ。



 命のやり取りに対する抵抗感が薄れてきているのは、良いことなのだろうか。


 抵抗感を持っていては積極的な戦いを行うことはできない。

 抵抗感をなくしたら、それは人間として大切なものを失った証左でもある。


 スリルがある日々は嫌いじゃない。

 でも、それから平凡な日常に帰ることはできるのだろうか。

 退屈で死んじゃったりしないだろうか。



 あーあ。

 葵姫たんみたいな超絶美少女と出会えたりと役得もあったけど、どう転んでも何かしらの不満は消えそうにない。


 面倒くさい。

 考えるのはやめよう。なるようになるだろうし。


 それにしても。


(……アメリカに来てまだ五日しか経ってねーのか)


 密度が濃い数日だった。

 元々半分ニートのような生活を送っていた俺にとって、人生でもっとも濃い数日だったに違いない。


 来週の今頃の俺は、何をして過ごしているんだろう。

 きっと日常に戻っているに違いない。

 嬉しいような、嬉しくないような。


 湯気を見ながら思いをめぐらせていると、チャールズの声でわれに返った。


「鈴木くん」


「……なんすか?」

「すまないが、私はもうダメだ……持病の痔が悪化したらしい。あとは、任せた……ぞ……」


 一方的に事情をまくしたてたあと、チャールズはがくりと首をうなだれた。


「ちゃ、チャールズ?」


 ばしゃばしゃとお湯をかきわけてチャールズに近づく。


「チャ……」


 彼の近くのお湯は真っ赤に染まっていた。


「うおっ!?」


 お湯から上がって必死に呼びかけたが、素人目にも絶命しているのは間違いなかった。

 山頂へ駆け上りみんなに説明した。


 しかし誰も信じてくれなかった。


「いいから来いって! やべーよあれは!」



 数分後。

 俺たちはチャールズの亡骸なきがらを囲んでいた。


 ピビーと鎮鈴さんは笑いながら世間話をしていた。

 凛夏は大泣きしていたが、鎮鈴さんに全身をくすぐられてからは笑顔になった。


 ピビーは自らの髪の毛を全てむしって渾身の毛唖流裸ケアルラを試してくれたが、チャールズの心臓は完全に停止しており効果はなかった。

 ラスベガスで挿入されたのが致命傷になったのだろう。


 自業自得というやつだ。


 よくもこんな体でここまで俺たちを連れてきてくれたものだ。

 それだけは礼を言いたい。


 さらばチャールズ。

 星となって俺たちを見守ってくれ……!


 俺たちはチャールズを丁重に埋葬し、翌日に備えて休むのだった。







 ――というところで目が覚めた。


(夢、か……)


 温泉のあまりの気持ち良さに、いつの間にか眠ってしまったらしい。


 入浴中の睡眠は危険だというからな。

 危ねーところだった。


 そろそろ上がるか。


「ワハハハハ! こいつをくらえー!」


 岩場の陰からハイテンションな声が聞こえてきた。

 そちらを見やると崖っぷちで仁王立するチャールズの姿があった。

 どうやら、ポコチンを振り回して蛾を叩き落としているらしい。


 なんと情けないことか。


 他人を見てここまで恥ずかしくなったのは生まれて初めてかもしれない。

 チャールズの急死が夢であったことを悔しく思った。


「チャールズ、風邪引くっすよ? 俺は先に上がりますんで」

「ワハハハ! 超必殺珍コプター!」


 シカトかよ……っていうか、わけのわからない必殺技名を叫びやがって。


「チャールズ!」

「波動珍! 波動珍! 真空波動珍!」


 なんなんだ、あのおっさんは。

 まあいいや。


 服を着て山頂に戻ろうとすると背後から叫び声が聞こえた。


「波動ち……うわあああああ」


 振り返った俺の目に入ったのは、チャールズがフルチンで崖から転落するシーンだった。

 足を踏み外したのだろう。


 崖から顔を出して覗き込んでみると、チャールズは砂ぼこりを巻き起こしながら坂道を転がっていた。

 岩の突起にぶつかるたびに「うっ」とか「がっ」と短い悲鳴を上げている。

 やがてゴマ粒のように小さくなって、とうとう見えなくなってしまった。


「……」


 そして静寂。


 自業自得だ。

 夢の通りに死んでくれれば良かったのだが、はるか下のほうから叫び声が聞こえてくるのがわかる、

 残念ながら生きているらしい。


 なんて悪運が強いんだと思っていたら、食欲をくすぐる香りが風に乗って運ばれてきた。

 カレーだ。

 スパイシーな香りに触発された腹がグーグーとアピールを始めた。

 早く戻らねーと。


「凡ちゃんおかえりー。どうだった?」

「ああ、すげえ気持ちよかったぞ。カレーは?」

「うん、できてるよ。チャールズさんが戻ってきたら食べよ」


 チャールズね……。

 右の崖を見やる。


 彼が落ちたのは俺たちが来たのと逆方向だ。

 向こうは荒地でなく木々も生えているので、麓のほうがよく見えない。


 多分こちらに向かってると思うんだけど。


「チャールズはメシの時間には戻ってこないと思うよ。俺たちだけで食おうぜ」

「ええっ?」

「下のほうに降りていったんだよ。まあ二時間もすれば帰ってくるかと」

「何それ」


「まーまー、鈴木くんの言う通りよ。あいつは引率力も協調性もゼロ。気にせず楽しくやりましょー」


 笑いながら俺の肩をバシバシと叩く鎮鈴さんはすでにビールを持っている。

 それどころか彼女の足元には空き缶が十本ほど転がっていた。

 何本持ってきてんだよ。


「鈴木くんもこっちに来て座ってくれ」

「うい」


 ピビーに促されて焚き火の近くの岩に腰掛けた。


「このカレーはね、インドの叔母さんから送ってもらったスパイスを使ってるんだ。食べてみてよ」


 笑顔のピビーから紙皿を受け取った。

 湯気が立つほど熱々のライスにはたっぷりとカレーがかけられている。

 たまらん!


「それじゃいただきます!」


 最初の一口は、ピリッとして刺激的だった。

 辛いというか『ザ・薬草』って感じの味。インドカレーともまた違った感じ。

 少し遅れて旨味がどっと押し寄せてくる。

 熱さもあってまた美味い!


「どうだい?」

「こりゃ最高っすよ! いくらでも食えます」


「ピビーさんのカレー、本当に美味しいですよね。私も作り方知りたいです」


 凛夏も会話に加わった。


「大げさだな。これは市販品にスパイスを加えただけだから誰でも作れるよ。本当にこだわりがあるなら、スパイスからカレーを作るのもいいよね」

「マジっすか?」

「好みにもよるけどね。無事に帰れたらご馳走するよ」


「おー!」


 俺と凛夏は顔を見合わせた。

 これ以上美味いなんて最高じゃん。


「じゃあ、そん時も野外でお願いしますよ。キャンプ補正でさらに美味くしましょう」

「そうだね。そうしよう」

「葵姫たんも呼んでいいっすか?」

「もちろんいいとも!」

「ヤッター!」



「てか、あんたたちいつの間にそんなに仲良くなったのよ。あたしは無視?」


 鎮鈴さんが、岩に頬杖をついてしらけたように言う。


「もちろん鎮鈴さんも一緒に決まってるじゃないすか。みんなでカレー大会やりましょう。チャールズ抜きで」

「ん。よろしい」


 満足そうに脚を組む鎮鈴さん。



「凡ちゃん、これも食べていいって」

「サラミか。ビールがないと寂しいな」

「それ、飲んでいいわよ」

「いいんすか? つーか、何本ビール持ってきてるんすか?」

「四箱チャールズの荷物に入れたから……九十六本かな」


 そんなに!?

 どうりでチャールズのリュックはでかかったわけだ。


「ゆで卵作ったんだけど、いるかい?」

「もらいます」

「ピビー。揚げ物って作れるかしら?」

「問題ないよ。何かあるのかい?」

「チャールズのリュックに冷凍ポテトを入れといたの。溶けてると思うけど大丈夫でしょ。鈴木くん、とってきてもらえる?」

「うい」


 えーと、チャールズの荷物……あった、これか。

 ファスナーを開けると、色々なものが出てきた。


 ポテトを探して中身をひっくり返す。


 懐中電灯、髭剃り、ドライヤー、レコードプレーヤー、自宅の土地の権利書、高校の卒業アルバム……ドラえもんのポケットかよ、これ。

 コンセントがないと使えないものがどうして入ってるんだ?

 鳥山明先生のサインまで。しかも多分偽物じゃねーか、これ?

 ダンボールまで……あ、ビールの箱か。まだ二箱入ってるな。

 クーラーボックスまで入ってやがる。

 リュックより幅が大きいように見えるんだが。


 チャールズって収納の世界チャンピオンだったりしないだろうか。

 相当な技術だぞ、これ。


 クーラーボックスを開けると、冷凍コロッケやマグロの頭、そしてポテトが転がり出てきた。


「鎮鈴さん、コロッケとか入ってますけど、これも?」

「うん、残すともったいないから今食べちゃお」

「うーす!」


 冷凍ポテトの袋はずっしりとしていた。ニ、三キロくらいはありそうだが。

 こんなに必要か?


 まあ、持たされてたのはチャールズだからいいけど。


「ポテトも全部揚げちゃいます?」

「当たり前でしょ」



 ピビーはてきぱきと冷凍食品を調理し始めると、山頂を強風が吹きつけた。

 テントはバサバサと音を立て、焚き火の炎はリンボー選手のようにその身をくねらせた。


「ううっ、寒い……」


 凛夏が体を縮こまらせた。


「まだ時間はかかりそうだし、ここは僕と鈴木くんに任せて、凛夏ちゃんたちは温泉に行ってくるといい」


「え? でもチャールズさんがまだ入ってるんですよね?」

「いーじゃない。あたしは混浴でもいいわよ。行きましょ」

「わっ、私はよくないんですけどっ!」



 ん、チャールズ?

 ああ、そうだった。


「チャールズはもう風呂にはいねーぞ」

「えっ」

「なんか崖から落ちてったよ。フルチンで」

「そ、そうなの?」


「鈴木くんもああ言ってるし、気にせず行ってきたら? 僕は最後でいいから」

「どうします、鎮鈴さん」

「チャールズがいないなら問題ないでしょ。行こ行こ」


 仲良し四人組でキャンプに来たような団欒だんらんが楽しい。

 やはりチャールズはいらない子だったのだ。多分。



「じゃ、凡ちゃん行ってくるね」

「鈴木くん、のぞきに来ていいからねー」

「だ、だめだから! 来ちゃダメだから!」


 きゃーきゃー言いながら凛夏たちは温泉のほうに下っていった。


 このよくある『のぞかないでね』みたいな発言が俺は嫌いだ。


 興味のない女に言われたら

「誰がテメーなんかのぞくかハゲ! 全身整形してから出直せや」

 って感じだし、好みの女に言われたら言われたで自意識過剰な感じがムカつく。


「どうしたんだい、鈴木くん。崖のほうを見てボーっとして」

「いえ、別に」

「もしかして、凛夏ちゃんのことが気になってるのかな?」


「はあ?」


 語気に強い否定を込めて振り返る。

 ピビーはフライパンに片手に笑っていた。


「正直になっていいんだよ。僕と君の仲じゃないか」

「俺が愛してるのは葵姫たんだけっすよ! 何であんなのを……」


「ふーん。そうか」


 油にポテトが投下され、ジュワーッとおいしそうな音が広がった。


「じゃあ、僕がとっちゃおうかな」

「はあ?」


 真っ赤な炎に照らされながら、ピビーは真顔で俺を見つめていた。

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