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第六十四話 THE TEMPTER -誘惑者-

 入口からは衝立ついたてがあって見えなかったが、奥の席に通されると想像外の光景が広がっていた。


「これは……!」


 てっきり葵姫たんの大好きな日本刀が並んでいるのかと思っていたのに、店内に並んでいるのはSUZUKIのオートバイ、KATANAシリーズだったのだ。


「KATANAって、こっちかよ!」


 俺は歓喜に奮えた。


 まさか……葵姫たんもKATANAが好きだったとか?

 奇しくも俺はKATANAオーナーだ(250ccだけど)。

 まさに俺と葵姫たんは運命の恋仲みたいなものじゃないか!!


「くう……やったぜ!」

「どうしたの? お客SUN」

「いや、ちょっとね。お宅もなかなか渋い店やってるじゃないの」


 アメリカ人が知っているかどうかは知らないが、日本では世間の目はSUZUKI乗りに厳しい。

 「変態」だの「美的感覚が狂ってる」だの「頭おかしい」だの言いたい放題だ。


 街中でテンプターに乗っている人間を見て俺がその美しさに見惚れていると、大学のツレは笑いやがった。

「おい見ろよ、あのSRをクソダサくしたよーな単車を。何だよあの垂直シリンダーは。あいつのチ●ポも垂直に生えてるってのかよ!」


 あのテンプター乗りのことは全く知らない。

 だが、俺は悔しかった。


 テンプターをバカにされたことが悔しいんじゃない。

 シリンダーをチ●ポ呼ばわりしやがったことに腹が立ったのだ。


「だったら四気筒に乗ってるこの俺は四亀頭だって言いてーのか!? この野郎!」

 と掴みかかったものだ。


 かように日本人はSUZUKIに厳しく、SUZUKI乗りは隠れキリシタンのように迫害され続けてきたのだ。


 反SUZUKI党の連中は、世の中には色々な価値観があることをわかっていない。

 十年後にはSRよりテンプターが評価される時代が来るかもしれない。

 ハーレーよりデスペラードが評価される時代が来るかもしれない。

 ゼファーよりグラディウスのほうがかっこいいと言われる時代が来るかもしれない。

 マジェスティよりスカイウェイブにガキどもがあこがれる時代が来るかもしれないのに!



 我が子をライオンに食われてしまったキリンは泣かないという。

 しかし、SUZUKIをバカにされると俺は泣く。号泣といってもいい。


 そのくらい俺はSUZUKIを愛していた。





「お客SUN、そこの席に座ってちょーだいYO」

「あ、ども」


 俺が案内された席は、テンプターだった。

 テンプターのハンドル部分に小さなテーブルが載せられている。


 店長はそこに水を置いて立ち去ろうとした。


「おい、ちょっと待てこの野郎!」


 慌てて店長の肩をつかむ。


「アイヤー、何するのお客SUN]

「アイヤーじゃねー! 何人なにじんだテメーは!」

「わたち、アメリカ人YO」


 悪びれた様子もない。


「うるせー! そんなことどうでもいいわ! 何だよこの椅子は!」

「何って……テンプターじゃないの。知らないの?」

「知っとるわボケ!! こんな垂直チ●ポみてーなシリンダーの単車にまたがれると思ってんのかハゲ!!」

「乱暴ねえ。あんたSUZUKIが好きでこの店来たんじゃないのかYO?」

「KATANAは好きでもテンプターが好きなわけねーだろーが!! どういう美的センスしてんだよ!! 悪いのは視力か!? 頭か!? あぁ!?」


 大声を張り上げたせいか、店中の客がこちらに振り返る。


(う……何人いるんだよ。意外と繁盛してたみたいだな。っていうか……)


 客席は全てテンプターになっていた。


「何で全席テンプターなんだよ!!? ぶち殺すぞこのクソ店長!!」

「不良みたいな言葉遣いはおやめなさいYO!」

「うるせー! こんな不人気車、どうやって集めたんだよ!? マジシャンかテメーは!!」

「苦労したのYO。世界中のテンプターを全てこのお店に集めたんDAKARA」


 ひい、ふう、みい……全部で十五台くらいか。


「いくら不人気でも世界で十五台しか出荷されてないことはないんじゃ……?」

「いちいち絡んでこないでYO。息が臭いから。それより、ここの常連は皆テンプターフリークだからね……刺激したら殺されるわYO]


(た、確かに……)


 店中の客から、思いっきりにらまれているような気がする。

 手にメリケンサックをつけて、殺気を放っている客までいやがる。


「早く謝ったほうが身のためYO」

「わ、わかりました……み、皆さんすみません! テンプターは最高です! 僕もSUZUKI乗りなんで、あ、あの。調子こいてすんませんでした!」


「気ニスンナ兄チャン!」

「テンプター最高! 兄チャンモ座レヤ」


 ふう。何とか収まった。


「じゃあ、そこに座りなさいYO」

「あの……僕、KATANA好きなんで、あっちのKATANAに座っちゃダメですか?」

「ダメDEATH YO!」

「ど、どうして……?」

「KATANAにテーブルなんかつけたら、かっこ悪いじゃないのYO」

「テンプターはいいんですか?」

「もちろんYO!」



 ……ダメだこいつ。


 諦めて席に座った。


(まさか我が人生でテンプターのシートにまたがる日が来ようとは……)


 恥ずかしさで死にそうだった。


「じゃあ、貴様は何を注文するのYO?」

「……注文は置いといて聞きたいんすけど、さっき日本人の女の子が来ませんでした?」

「来たわYO!」


「ど、どこです!?」


 店内に葵姫たんらしい客はいない。


「帰ったわYO。日本刀のお店と間違えて来ちゃったみたいYO」

「ええっ!?」



「い、いつの間に帰ったんです!? 来たばかりでしょ!?」

「貴様がお金を取りに行ってる間に帰ったわYO!」



 なんだって……!?


「クソが!!」


 テンプターから降り、出口へ駆け出す。


「待ってYO! 注文は!?」

「うるせー! こんなクソくせぇーとこにいられるかボケ!! TEMPTER CAFEに改名しろや!」

「何だとこの野郎! ぶち殺すZO!?」


 店長は銃を抜いた。

 客たちも続いて次々と武器を構える。


 マジかよ!!?

 アメリカのSUZUKI党、やべー!!?


「お休みの時間DEATH YO!」


 聞き分けられないほどたくさんの銃声が鳴り響く。


 絶対時間モラトリアムが発動。

 すり抜け運転の要領で銃撃の隙間をってかわす。


「スバシッコイ奴ダゼ!」

「弾幕薄イゾ! 何ヤッテンダYO!!」


(ひいいいぃぃ! クレイジー!! 何発撃ってやがるんだ、こいつら!?)


「遊ビハ終ワリだ!」


 ようやく出口にたどり着いたと思った瞬間、大量の手榴弾しゅりゅうだんが足元に投げ込まれた。


「マジかよ!!?」


 絶対時間モラトリアム全開で、手榴弾をひとつひとつ拾っては客席に投げ返した。


「SHIT!!?」


 そして階段を駆け下りてビルの外に飛び出した。


 直後、鼓膜こまくが破れるかと思うほどの轟音ごうおんが鳴り響いて、背後のビルが大爆発を起こした。


 テンプターのガソリンに引火したのか、パンパンと連鎖爆発が起こっていく。


「ばよえーん! ばよえーん! ばよえーん! ばよえーん……」


 思わず数えてしまったが、合計で二十回は連鎖爆発したようだ。

 ビルは完全に吹っ飛び、瓦礫がれきの山と化してしまった。



「……助かった……」


 地面に両膝をつく。

 腰が抜けてしまったようだ。


 反省しないことで定評のある俺も、さすがに今回ばかりは学習した。

 『口は災いのもと』であることを。


 チャールズや凛夏にもひどいことばっか言っちゃってるからなあ。

 あいつらも知らないうちにストレス溜めてるかもしれないし、今度からもう少し優しくしたほうがいいのかも。



(それにしても……)


 瓦礫の中に動く人影はない。

 店長と客たちはテンプターと運命を共にしたのか、それともどこかから脱出したのかもわからない。


 ただひとつ言えることは、地球上に現存するテンプターのほとんどがこの爆発で消滅したという事実のみ。


 だが、安心してはいけない。

 SUZUKIが存在している限り、第二第三のテンプターが現れるかもしれないのだ。


 我々人類は二度とこの悲しい過ちを犯さぬよう、気をつけていかなければならないだろう。




 野次馬と消防隊員が集まってきたが、俺はまだ立てなかった。



「はあ……YAMAHAに乗り換えようかな」


 誰にも聞こえないくらい小さな声で、俺はそうつぶやいた。

ちなみに作者はアンチテンプターではありません。

むしろ街中で見ると感動するタイプです。

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