第五十九話 ラスベガス
明けましておめでとうございます。
前日譚的なスピンオフを書いたりしていたら間が空いてしまいました。
スピンオフのほうはある程度話数がまとまったら更新予定です。
今年もよろしくお願い致します。
「もう少しで到着だって」
凛夏に言われて窓から外を覗く。
荒れ果てた茶色い大地がどこまでも広がっていて、街らしいものは何一つ見えない。
「?? 岩しかねーぞ。もう少しつっても一時間くれーかかるんじゃね?」
「え、でも着陸まで十分って」
「外見ろよ。ただの荒地だぞ」
「ラスベガスは砂漠の中にあるんだ」とチャールズが割り込んできた。
「砂漠?」
一面の砂景色にラクダがいる光景が頭に浮かんだ。
ラスベガスの持つ大都会のイメージとまるで繋がらない。
そもそも、外は荒地だけで砂漠が近づいている気配すらない。
「アメリカに砂漠なんてあるんすか?」
サハラ砂漠とか、ゴビ砂漠とか……あとは鳥取砂丘くらいしか心当たりがない。
「ここがそうだよ。鈴木くん」
真顔でそんなことを言われても……。
とうとうチャールズはおかしくなってしまったのだろう。
参ったな。
引率者がこんなんじゃ、鎮鈴さんと合流するまでが心配だ。
どこかで事故に見せかけてチャールズを置いてきたほうがいいんじゃ?
「凡ちゃん、またよからぬことを考えてるでしょ」
こいつは俺の表情を読むのがうまくなってきたな。
「別に。今後の心配をしてただけだよ」
「鈴木くん、砂漠というのは砂が積もっているものだけじゃない。こういう荒地も砂漠の一種なんだよ」
「これが?」
確かに緑はほぼ見えないけど、砂漠って感じじゃないよなあ。
白くしたら月面みたいだし。
「そうなんですね! 砂漠と砂丘はどう違うんですか?」
「葉月くん、いい質問だね。砂丘というのは……」
こういう時に凛夏は会話を繋げるけど、これが『コミュニケーション能力』ってやつなのかなあ。
それともただのゴマスリなのだろうか。
ふあーあ。
それにしても退屈だ。
外の風景は変わらねーし、早く着かないかな。
(葵姫たん何してるのかな?)
前かがみになってチャールズの向こうを覗くと、葵姫たんは座席に身体を預け眠っていた。
(やばい。可愛いのう)
どんな夢見てんのかな。
隣で眠りてえ。
そんなことを思っていると、機内アナウンスが流れてきた。
『キコエルカ、チンポヤロードモ! 当機ハ間モナク着陸スッペヨ、シートベルトシテ神ニ祈ルガヨカ』
鞭を持ったCAがぞろぞろとやって来て、シートベルトをしていない客を片っ端から引っ叩いていく。
……何これコワッ! これってアメリカ流?
CAは想像以上の超スピードで乗客をしばきながら、俺たちの席に迫ってきた。
「凡ちゃん、急いで!」
「あ、ああ」
シートベルトを引っ張ってしっかりと固定する。
焦るとなかなかはまらない。
「アウチッ!」
カチッ。
CAが前の席のハゲ男を殴ったところでギリギリ間に合った。
「命拾イシタネ、ボーヤ」
「うるせー、早く次行け」
しっしとCAを追い払うと、通路の反対側でチャールズが鞭でしばかれるところだった。
「キビキビセンカッ! 調子ニ乗リヤガッテ、ジャップが!」
「オフッ!」
(ププッ、しばかれてやんの。とろとろしてるからだよ)
……と思ったら、チャールズは次へ行こうとしたCAを呼び止めて「ワンモアプリーズ」と懇願していた。
「コノ変態ヤローガ!」
「ぐふっ! ありがとうございますっ!」
痣だらけで気持ちよさそうにしているチャールズ。
俺と凛夏は顔を見合わせ(見なかったことにしよう)とアイコンタクトを交わした。
空港は人であふれかえっていて、とてもにぎやかだった。
ギャンブルの街というからもう少しダーティーなものを存在していたけれど、むしろ明るくて清々しい。意外だ。
「おおっ、あれ見ろ! スロットマシンが並んでんぞ」
「ほんとだ、すごいね。空港なのに」
「このザマじゃ駅前にパチンコ屋が並んでる日本を笑えねーよな」
「うーん、私に言われても……」
……おや?
近くの椅子に座る葵姫たんがこちらを見てるような……?
「!」
視線を返すと、さっと素早く目をそらされた。
予想していた通りではあるが、やはり寂しい。
「葵姫たん、昨日のこと俺は全然気に――」
と近づくと、最後まで聞かずに葵姫たんは走って逃げた。
なんか顔が赤かった気がするが、どうしてだろう。
A:昨日の恥ずかしさが抜け切らずに顔を赤らめた。
B:大好きな俺と目があって赤らめた。
(Bだな。Bであってほしい)
最近、以前にも増して会話が成り立たなくなっている気がする。
たまには声くらい聞かせてほしいよなあ。
そんなことを思っていると、後ろから肩を叩かれた。
「さあ、行こうか。まずはホテルに荷物を置こう」
チャールズは荷物を持ち上げた。
「ん? 今日ここに泊まるんすか?」
「ああ。案内人と合流するのは夜だからな」
「マジすか! ラッキー!」
そのまま修道院とやらに行くのかと思ってたわ。
泊まるんなら観光できるじゃん。
(案内人と会うのはチャールズに任せて、俺は葵姫たんを連れて夜遊びするしかねー)
空港を出たタクシーは大通りを走っていく。
両側には巨大な建物が建ち並んでいた。
巨大なピラミッドや西洋のお城、横たわるポコチン風の建物など、どれも趣向を凝らしたものばかりだ。
町全体がアトラクションのようで、外から見ているだけでも面白い。
砂漠の真ん中にこんな都市があるなんて、さすがアメリカ!
「ここはザ・ストリップという通りだ。あの派手な建物は全部ホテルなんだぞ」
助手席のチャールズが得意げに言う。
(ガイドブックをちら見してるくせに……)と思いつつも、こんなホテルを建てられるくらい潤ってんのか、と素直に感心した。
「凡ちゃん、葵姫さん、火山が噴火してるよ!」
隣の凛夏が声を上げた。
「何言ってんだ、オメー。頭おか――うおっ!?」
言われるままに葵姫たん側の窓の外を見ると――本当に火山があった。
ホテルの前に設置された人工の岩山みたいのが噴火していた。
勢いよく噴き出した水が赤くライトアップされ、溶岩のように輝いていた。
「すげーな。何かのショーでもやってるのかねえ。ラッキーだったな」
「あれはあそこのホテル前では毎時間やっているのだよ」
振り返ったチャールズが得意げにあごひげを触る。
「えっ、毎時間って……無料すか?」
「もちろん無料だ」
「すげー、ラスベガスすげー!」
いいなあ、このお祭りみたいな雰囲気は。
「じゃあ、さっきのポコチンみたいなホテルも何かアトラクションあるんすかねえ?」
「あれも一日八回、建物全体が起き上がるらしい」
「マジで!? 公共セクハラじゃん! しかも絶倫! やっぱラスベガスすげー!」
他にも、ロンドンの街並みを縮尺した巨大ミニチュアのようなホテルや、敷地内をジェットコースターが走り回るホテル、南国リゾート風にホームレスのバラック風など、様々な趣向を凝らしたホテルが乱立していた。
さすが世界有数の娯楽都市。
客引きのためなら何でもやるって思想に感心する。
そしてもうすぐ夕方だというのに、右も左も人、人、人。
歩道も、車道も、ホテルの敷地内も歩道橋の上も人だらけ。
まるで人の洪水だ。
俺たちの世界の日本は、人口も少ないし辛気臭かったからなあ。
あまり人が多いのも疲れるけれど、やはりこのくらい活気があるのと楽しい。
チャールズによると、ここ数年の異世界問題は全てウンモ星人が発端らしい。
大使館テロ未遂事件も、やはりウンモ星人が背後に絡んでいた。
ウンモ星人の侵略さえ阻止すれば――そうすれば、俺ん家の近くにもまた活気が戻ってくるのかもしれない。
やってやらねーと!
エリア5.1に乗り込んで、平和なあの頃を取り戻すんだ。
そんで絶対時間を利用してメディアに出まくって大儲けして、幸せな一生を過ごすんだ。
あと葵姫たんを嫁にもらう。
……燃えてきたぜ!
タクシーは大通りの混雑の中をしばらく進んでいった。
ふと正面を見ると、立ち並ぶ看板の向こうに高層タワーがあることに気づいた。
「チャールズ」
俺は助手席のチャールズに後ろから話しかける。
「どうしたんだね?」
「チャールズってラスベガス、詳しいんすよね?」
「ああ、任せておけ。第二の故郷みたいなものだ」
ちょっとからかってみようかな。
「あそこにあるでっけータワーって、何すか?」
「あ、あれか。ちょっと待ってくれ」
「二秒以内でお願いします。二」
「鈴木くん、待ちたまえ! 焦って忘れてしま」
必死にページをめくる音が聞こえてきた。
「一、〇……なーんだ、知らないんすね」
「ち、違うんだ! あ、あれはだな、最近できたばかりで――」
「HAHAHAHA」
突然運転手が笑い出した。
「バカ言ッチャイケネーヨ、オッサン。アンタガ学生ノ頃カラズット存在シテルゼ?」
「はわわわ、運転手さん、わ、私はラスベガスでもこの通りは詳しくないんだ」
「アンタサッキカラ調子コキスギネ。正直ニ言ッタラドーナノ?」
「う……」
チャールズがうろたえているのが背もたれ越しに伝わってくる。
ていうか、この運転手もなかなか濃い性格だな。
「ドシタンダネ? イイ年コイテ、『ゴメンナサイ』モ言エネーノカイ?」
「ぐぬぬ……」
「ドシタ? ホラ。謝レヨ」
「……わかりました」
シートの間からこっちに顔を出すチャールズ。
「す、すまん。鈴木くん。実は私はラスベガスに詳しくはないんだ。今回が二度目で……」
「一度目ダロ」
運転手が口を挟んだ。
ププッ。怒られてる。
「は、はい。実は今日が初めてで……だからあのタワーは知らないんだ」
チャールズは、シートベルトを伸ばしたまま器用に頭を下げた。
車内が沈黙に包まれた。
さすがに気まずくなって、
「いやあ、いいっすよ、そんなに頭を下げなくても」
と助け舟を出すも、
「オウ。今度ハ、オイラニ謝ル番ダゼ、オッサン」
「う……す、すみません」
「オイラノ地元ヲナメテンダロ、ア?」
……ずいぶん横柄な運転手だな。
気まずい沈黙のままタクシーは進み、やがて道路沿いの広い敷地へ入っていった。
「オイ、着イタヨ、チンポ共!」
「ありがとうございます。山本という偽名で予約してあるから、君たちは先にチェックインしてくれ」
「えっ。チャールズさんはどうするんですか?」
「私は運転手さんにお礼を伝えたくてな」
「ホウ。ナカナカイイ心ガケダヨ、チンポヤロー。オマエハ『下痢便』カラ『ゴミクズ』ニランクアップシタゾ」
「光栄です、運転手さん。ほら、君たちは行った行った」
チャールズはおろした荷物を俺たちに持たせた。
「んじゃー俺たちは行くか。葵姫たん、荷物重かったら持とうか?」
「……いい」
背を向けたまま振り向きもせずに歩き去る葵姫たん。
「凡ちゃん、これ重いよぉー。ひとつ持ってもらえない?」
「バカヤロー。おまえは稀能もねー足手まといなんだから、荷物くらい持て」
「……私だって、稀能あるもん」
お?
そういえばこいつ、稀能に目覚めたって理由でアメリカに連れてきてもらったんだったな。
一体どんな力が……?
「おまえの稀能教えて」
「えっ! や、やだよ」
「なんでだよ」
「別に凡ちゃんに関係ないでしょ」
「関係あるだろ。戦略上おおいに関係ありまくりだろーが!」
うん、非常に説得力のある言葉だ。仲間の稀能は把握してねーと実際困るし。
しかし凛夏はそっけいない声で「やだ」と返してきた。
「やだって何だよ」
「教えたくないってこと」
「理由は?」
「やだからやなの!」
「理由になってねーよ。そんなんだから乳が育たねーんだよ」
「っ! か、関係ないでしょ!?」
「荷物持って胸筋でも鍛えれば、ちょっとは巨乳になるんじゃねーの?」
「~~~!! ムカッ! もういい、自分で持つもん」
「あー、それがいいさ。頑張ってくれ」
捨て台詞とともに入口を入ろうと思ったが、ちょっと本当に荷物が重そうだったので、凛夏のトランクをひとつだけひったくってやった。
「あ、ありがとう凡ちゃん」
「うるせー、先に行くから早く来い」
(こういうさりげない優しさで葵姫たんが振り向いてくれねーかなー)
と思ったけれど、葵姫たんの姿はとっくに見えなくなっていた。
フロントでチェックインしている葵姫たんの隣に立って新婚夫婦気分を満喫しようとしたら、あからさまにいやな顔をされたので、俺はふてくされながらソファに腰掛けた。
でかいホテルだと思ったけれど、内装もえらい金がかかってるな。
真っ赤な絨毯が続き、金色の柱が何本も立っている。
通路の先にある立派な噴水は、七色の光でライトアップされていた。
(王宮だな、まるで)
広さこそ昨日のホテルには及ばないものの、こちらもかなりゴージャスだ。
そして、やはり人が多い。
この数分間だけでも、何十人以上の人間がソファ前を通り過ぎていった。
彼らは皆、噴水のさらに奥まで進んでいく。
奥のフロアは薄暗くなっているが、熱気と騒音が聞こえてきて盛り上がっているのだけはわかる。
ゲーセン? それとも映画の上映でもやってるのかな?
「あれはカジノだよ」
気づくとチャールズが立っていた。
彼は俺の隣に座って、ふうと息をついた。
「運ちゃんにお礼言ったんすか?」
「ああ、たっぷりお礼しておいてやったよ」
チャールズはハンカチで右拳を包み込んだ。
ハンカチの表面にじわっと血が滲んだ。
「……殴ったんすか?」
「ハハハ。そんなことするわけないだろう。私は紳士だよ」
この人意外と子供っぽいところあるからなあ。
多分ぶん殴ったんだろうな。
「また逮捕られても知らないっすよ」
「『また』とは何だね、『また』とは。人聞きの悪いことを言わないでくれたまえ」
「はいはい、そうっすね」
この話題はやめよう。
「で、あれがカジノなんすか? ここ、ホテルっすよ?」
「ホテルの中にカジノがあるのは普通だろう?」
「え? カジノって単体ででっけー建物が建ってるんじゃないんすか?」
「ここも、隣のホテルも、巨大なカジノを内包してるんだ。もちろん宿泊客以外にだって開放してある」
「ほー。そういうものなんすか」
カジノか。
そう聞くとちょっと行ってみたくなるな。
チャールズに言えば小遣いもらえるよな。多分。
NHJが国家予算も使い放題だろうし、思いっきり遊んでやろう。ぐふふ。
「荷物ありがとうね、凡ちゃん」
「ああ」
葵姫たんたちを部屋に送り届けてから、俺とチャールズは隣の男子部屋に入った。
「ふうっ」
荷物を床に置いて、ベッドに腰掛ける。
外泊の一番の醍醐味は、誰に何と言われようとこの瞬間だと思う。
「疲れたのかね、鈴木くん」
チャールズはテキパキとノートPCをセッティングしていた。
全裸で逮捕されたくせに、仕事熱心ですこと。
窓から差し込んだ夕陽が部屋を赤色に染める。
(これからどうするんだっけ?)
えーと、確か博士が紹介してくれた案内人と合流するんだったな。
鎮鈴さんと一緒に来るって話だったけど、何時頃到着するんだろうか。
んで、朝になったらシュウド修道院とやらに行って、そこから抜け道を使ってエリア5.1に潜入する。
エリア5.1では裏切り者のドクトル近藤とウンモ星人を倒し、異世界を平和にしたら元の世界に帰るって流れだったかな。
(元の世界に戻ったら……)
元の世界に戻ったらどうなるんだ?
異世界と俺たちの世界が接続されているのは、ウンモ星人の仕業だって言ってたよな。
ウンモ星人をぶっ倒したら、元の世界に帰れなくなったりしないだろうか。
(一体どうなるんだ?)
ま、どうせそれも二、三日後にはわかることだ。
今は与えられた任務をこなすのみ。
(あとはどうやって葵姫たんを落とすか、だけだ)
葵姫たんがちょっと痛い厨二病で、極度の照れ屋だということはわかった。
昨日からあからさまに避けられてるけど、逆を言えば葵姫たんの心に近づいたとも言えるはずだ。
本当に俺のことをどうでもいいと思っていたらあんな赤面しないはずだしな。
ぶっちゃけ彼女を落とすのは無理かなーとは思っていたけれど、あながち無理な話でもないような気がする。
一度心を開いてもらえさえすれば……。
(ああ……セクハラしてえ)
「鈴木くん」
チャールズの低い声が俺を現実に引き戻す。
気づかぬうちに、眠っていたのだろうか。
思っていたより長い時間が経っていたようで、夕陽は山陰に沈み、窓の外は色とりどりのネオンで彩られていた。
「……何すか?」
「眠っていたのか?」
「考え事してただけっすよ」
「鎮鈴くんがラスベガスに着いたそうだ。迎えに行かないかね」
……ちょっと面倒だな。
「凛夏でも連れてけばいいじゃないすか」
「葉月くんにはちょっと用事を頼んでいてな。いま動けないんだ」
用事?
「何の用事っすか?」
「……たいしたことではない。気にしないでいい」
一瞬目をそらしたチャールズを見て、ピンときた。
(……隠し事をしてるな?)
「鎮鈴さんを迎えに行くの面倒なんすよ。凛夏の用事がたいしたことないなら、俺が代わりましょうか?」
「い、いや、大丈夫だ。それに葉月くんはもう出かけてしまったからな」
「どこに?」
「ど、どこだったかな。確か近くのコンビニだったと思うが……」
ああ、間違いない。
チャールズは隠し事をしている。
不自然に目を泳がせているのがその証拠だ。
もう少しつついてみるか。
「またまたご冗談を」
「冗談なんかじゃないぞ。葉月くんは、その……アレだ。食料を買いに行ってる」
「どこのコンビニすか? 俺、手伝いに行きますよ」
「どこのコンビニかはわからないが……近くだと思う」
「本当に?」
「ほ、本当だとも」
うろたえるチャールズを見ながら、俺はわざとらしく笑った。
「またまた~。チャールズがそんなことさせるわけないじゃないっすか」
「ど、どうしてそう思うんだね?」
「ここは日本じゃないんすよ? 夜のアメリカで女の子に一人歩きなんかさせないっすよね?」
「……」
「あれ? もしかして、一人歩きさせちゃった?」
「……」
「こりゃ大変だ。すぐに助けに行かないと。で、どこのコンビニっすか?」
「……」
「仕方ない、凛夏の携帯に電話を……」
「わ、わかった。わかった。私の負けだよ、鈴木くん」
取り出した携帯を、チャールズは手で押さえた。
「負け?」
「葉月くんは外出なんかしていない。安全なところにいるよ」
「安全なところって?」
「……それは言えない。大事な用事を頼んでいるからな」
「そうっすか。わかりました。じゃあ、ヤバイ用事じゃないか心配だから凛夏に聞いてみよっと」
俺は再び携帯を手に取った。
「こういうこと言いたくないんすけど、チャールズ、昨日露出で逮捕されてましたよね? 俺の大切な幼馴染のことを悪の道に誘っていないか心配なんで、確認してみるっす」
トゥルルルル……ガチャ。
「あれ、凡ちゃん? どうしたの?」
「大事な用事中に悪いね。昨日チャールズが警察に行った理由知ってる?」
「え? 知ら――」
プツッ。
「わーわーわー!! 鈴木くん、すまない! 私が悪かった」
チャールズは両手を床につけて、頭を下げた。
「本当のことを言う。言うから、ストリーキングの件は内密に……」
「……わかりましたよ。頭を上げてください」
「かたじけない」
「で、凛夏はどこに行ってるんすか? っていうか、あいつがいるのカジノでしょ?」
「ど、どうしてそう思う?」
「電話の向こうで歓声や電子音が聞こえてたんすよ。一階のカジノっすね?」
「……う、うむ。その通りだ」
「カジノで遊んでるならそうと言ってくれればいいじゃないっすか。俺にもお小遣いください」
「……」
「金はいくらでもありますよね?」
「……いや、ない」
――へ?
「ない?」
「そう。我々の軍資金は残り少ないのだ」
「なんで? 税金でウハウハなんじゃないんすか?」
「そんなことはない。異世界の国家予算の数パーセントは、我々の世界の日本を維持するために使われており、わが国にもNHJにも資金には余裕がないんだ」
「……マジっすか?」
「……マジだ」
「昨日までは金に余裕ありそうでしたけど」
チャールズは痛いところを突かれたという顔をした。
「それがな、私の保釈金で一〇万ドル以上使ってしまってな……」
「はあ?」
「本当にすまない。あれは私のミスだ」
「ミスっていうか、性癖じゃないんすか? 何で金がないのにチ●ポ丸出しで外を歩くんすか!?」
「わ、私だってわざとじゃないんだ。気づいたらフルチンで飲酒運転しておってな……」
「……」
「すまない……」
気づいたらフルチンで飲酒運転って……。
「……」
「……すまん」
「……もうお酒は禁止っすよ?」
「……すまない」
「はあ」
俺はどっかりとベッドに腰を下ろす。
「まあ、出しちゃったものは仕方ないっす。金額相応には楽しんだんでしょ?」
「開放感が少し気持ちよかった」
「それは何よりです。で、金に余裕ないのに凛夏をカジノで遊ばせてるのはどうして?」
「葉月くんには軍資金を増やすために、カジノに行ってもらってるんだ」
「?」
金を増やすために?
「……あいつ、ギャンブル強いんすか?」
「う、うむ。まあ、一応な」
「あんなポーカーフェースもできない貧乳女が?」
「そういうことになるな」
「葵姫たんのほうが強いんじゃないっすか? 無表情だし」
「…………あ、ああ。そうだな。そうだったかもしれないな」
チャールズは立ち上がった。
「そういうわけで、葉月くんはカジノで資金調達をしている。邪魔しないでやってくれたまえ。私は空港へ向かう」
「……ういっす」
チャールズはコートを羽織ってカバンを脇に抱えると、早足で出ていってしまった。
うーん。
何か腑に落ちないな。
まだ隠し事が残っているような気がする。
俺はベッドから降りた。
(とりあえず、暇だし葵姫たんのところに行ってみるか)
しかし、隣の部屋は鍵がかかっていた。
葵姫たんも外出してるのだろうか。寝てるのかもしれないけど。
さあて。じゃあどうしようか。
(迷うまでもなく、カジノに行くしかねーよな)
あの貧乳娘に、俺様の強運を見せつけに行きますか。
部屋を出た俺は、カジノへと向かった。




