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第五十七話 乾杯

「色々あったが、無事に博士と合流できたことを感謝する。乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」


 チャールズがグラスを上げると、全員がそれに続く。


「いただきます!」

「いただきまんもすー」


 さっきのドッキリを根に持っていた俺だったが、これだけの料理を目にしては怒りも収まるってもんだ。

 部屋中に置かれた長テーブルの上を、色とりどりの料理が埋め尽くしていた。

 お尋ね者の俺と博士を考慮してチャールズがルームサービスでそろえてくれたのだ。


 一番広い部屋には全員が集まり、さながらパーティー会場のように化していた。


「きゃあー! これ美味しい!」

「マジで? あたしも」


 向こうのテーブルは女子会状態だ。

 凛夏と鎮鈴さんは口に入れるたびにキャーキャーと黄色い声を上げている。

 葵姫たんは何を食うんだろう。


「……!?」


 じーっと見つめていると、視線に気づいた葵姫たんは顔を赤らめて凛夏の後ろにさっと隠れる。


 ……あああぁぁ可愛い。


 胸キュンでござる。とろけそうだ。



 さっきからあからさまに避けられてるけど、恥ずかしがりな葵姫たんはいつもよりもっと可愛い!


 照れ屋なら照れ屋って最初から言ってくれればいいのにさ。

 変にクールぶるより人間的でいい!


「葵姫たん」

「……」


 ダメだ。凛夏の裏にしゃがみこんで姿を現さない。

 何を考えてるのかわからんけど、これはこれでいい。


 てか葵姫たんの本当の性格はどんななんだろう。

 ぶっちゃけ顔と声がいいことしか知らないし、気になる。


 こっちの世界の葵姫たんと似たような性格なのかな。

 ちょっとおとなしめで厨二病が入った痛い性格??


 そういや彼女が普段着てる青い巫女装束もコスプレっぽい。

 あの衣装に特別な効能はなさそうだし、割とガチでコスプレ好きなのだろうか。


 かわゆいのう……痛いけど。




「鈴木くん、食わんのかね」


 顔がボコボコのままのチャールズと博士が黙々と肉をつまんでいた。

 チャールズはお岩さんのように目の上を腫らしながら鼻血を垂らしている。

(うーむ、やりすぎてしまったかもしれん……やっぱ調子に乗るといかんな、俺は)


 それにしても、確かにまだ食事に手をつけていない。

 朝に食ったピザは人の食べ物ではなかったし、まともなものを口にしたい!


 寿司とステーキとピザが隣り合っているのはバイキングでもありえない変態的な並べ方のような気もするがよしとしよう。


 さて、どれから食おうかな。


「チャールズ、これとこれはどっちが高いっすかね?」

「こっちは最高級の肉のはずだ」

「じゃあ、こっち食おう」


 もぐもぐ……。

 噛めば噛むほど口の中にジューシーな肉汁が広がっていく。


「う、美味い! さすが最高級!」


 思わず感涙にむせんでしまった。

 俺にとって肉といえば近所の肉屋がくれるクズ肉のことだったからなあ。


「あっ!」

「なんすか?

「……すまん鈴木くん。それは警察署前のスーパーで買ってきたものだった。最高級はこっちだな」

「えっ」


 そうか、これが最高級だったのか。

 どうりでこっちのほうが色艶がいいと思ったよ。いただきます!


 ナイフを通すと、肉の断面はCGで色調補正した写真のように鮮やかに輝いていた。

 わーお。


 もぐもぐ……。


「!」



 こ、これは……!!


「どうだね、鈴木くん」


「さっきのとは桁が違う……この深みのある味、スパイスじゃない……! これが本物の『肉の味』ってやつか!?」


 ああ、生きてて良かった。


「おっと間違えた。それはパクドナルドのハンバーガーから取り出した肉だった。最高級はそっち」

「……」


 確かに隣の肉はとても旨そうだ。

 しかし、どうもチャールズの言うことはあてにならないな。

 本当にこれが最高級なのだろうか。


 チャールズを見ると、笑顔(顔ボコボコだから多分だけど)でうなずいた。

 信用していいのかな。


 おそるおそる口にした。


 ……とても美味い!

 さっきまでの肉の味が嘘のようだ。


 これが最高級の肉か……!


「どうだね?」

「いやあ、これはマジで最……」


 最高と言いかけてやめた。

 また「おっとそれは安物だった」とか言われるに違いない。


 感動を押し殺しながら、落ち着いた様子で言った。


「……まあ、悪くないっすね。世の中にはもっと美味いものもあるんでしょうけど」


(どうだ! チャールズ、これなら何も言えないだろう!?)


「おっと間違えた。それは肉じゃなくて私が拾ってきた馬糞ばふんだった」


「ブフォーーーーッ!!!」


 思わず口の中のものを全て噴き出した。まるでゲロの噴水だ。


「げほっ、ごほっ……ぺっぺっ」


 必死につばを吐きながら口の中の汚物を全て排出した。


「何をやってるんだ、嘘に決まってるじゃないか。大丈夫かね?」


 俺の背中をさすりながら優しい言葉のようで最悪な言葉を投げかけるチャールズ。


「全く、せっかくの最高級の肉になんてことするんだ」

「チャールズが馬糞とか言うからでしょ!」


 チャールズは真剣な顔つきで俺に言う。


「鈴木くん。君は暗示にかかりやすい人間のようだな。君のような人間が『高級=上質』と思い込んで痛い目にうんだぞ」

「……」

「いいじゃないか。パクドナルドでも馬糞でも、美味うまいのならば」


 ぐぬぬ……もっともらしいことを言ってやがるが、目が半笑いだ。

 チャールズめ。さっき顔面を連打したことをまだ根に持ってやがるな。


 そういうチャールズからも同類の匂いを感じるのだが。

 ヤツは俺と同系統の人間のはず。


 本能がそう教えてくれているのだ。


 何とかしてぎゃふんと言わせられないだろうか――あっ!?





 ――そうだ、大切なことを忘れていた。

 チャールズと知り合った頃から気になっていたことだ。


(パクドナルドの話題に持っていくとは、墓穴を掘ったな、チャールズ)





「ま、まあ確かに値段より重要なのは味ですよね」

「そういうことだ」

「ところで、昔パクドナルドででクォーターパコンダーってありますよね」

「うむ。あったな」

「確か、発売した時に行列ができて話題になりましたよね」


 チャールズの眉がピクリと動いた。


(……やはり。俺の予感はおそらく当たっている)


「そ、そんなこともあったかな? よく覚えていないが……」

「実はあの行列、パックが雇ったバイトだったらしいんすよ」

「ほ、ほう。そうだったのか? わ、私はよく知らんが……」

「そうなんすよ。報道もされましたしね」

「なるほどな」

「行列作れば商売になるなんて熱いっすよね。チャールズが言ったような『暗示にかかりやすい』バカがああいうのならぶんでしょうね」


 俺は真っ直ぐにチャールズを見据えた。

 チャールズは斜めに視線を泳がせている。


「……当時君は小学生だったんじゃないか? や、やけに詳しいな」

「近所の兄ちゃんがサクラのバイトやったらしくて」

「そ、そうか。サクラとはけしからんな」


 どう見ても動揺している。


(間違いない。あれはチャールズだったんだ!)


「俺、ニュースで見てたんすよ。サクラの話聞いて『バカじゃねーの』とか思ってました」

「な、なるほど」


 そう、俺はあのニュースをたまたま録画していたのだ。

 幼いが性欲旺盛だった俺は、行列にいたやたらセクシーな姉ちゃんに色々な意味でお世話になったものだ。


 そして、その姉ちゃんの後ろに並んでいた男がチャールズにそっくりだったのだ。

 録画ビデオを何十回も見たから記憶に間違いはない。


「値段につられる俺もめでたいですけど、行列ができるとすぐに飛びつくヤツもめでたいバカですよね」

「……そ、そうだな」

「やっぱチャールズもそう思います? 当時チャールズは三十路前ですよね? やっぱ同じ印象を感じてました?」

「う、うむ。全く同感だよ。ハハ……。それより早く食べたまえ。せっかくの料理が冷めてしまうぞ」

「そうします。あーあ、こんな話してたらクォーターパコンダー食いたくなってしまいましたよ」

「そ、それはまたの機会にな」

「日本に帰ったら一緒に食いに行きましょうね。今はならばなくても食えますから」

「う、うむ……」


 チャールズは落ち着かない様子でグラスを一気にあおった。


(フッ、勝ったな)


 チャールズは俺がクォーターパコンダーの件をどうして知っているのか必死に考えていることだろう。

 俺の性的な記憶力をなめてもらっては困る。


 チャールズは「おっと、仕事の電話だ」とわざとらしくスマホを取り出して部屋を出て行った。




(やべ、チャールズを負かせたらこっちのテーブル博士だけになっちまった)


 ……あれ?

 博士の皿は汚れてないぞ。何も食ってないのかな?


 と思ったが、博士はテーブルにミートボール二個とソーセージを並べてニヤニヤしている。


(やっぱりアレか。天才となんちゃらは紙一重なんだな……ていうかギリギリ向こう側だな)


 それとも殴りすぎてしまったのだろうか。

 まあ、どちらでもいっか。


 よーし、凛夏たちに目をつけられる前に、こっちのテーブルのものは食らいつくしてくれるわ!


 俺は握り寿司を片っ端から素手でつかんで、口に放り込んだ。


 これぞ秘儀『ハムスター変化の術』。

 一気にほお張れば誰からも奪われる心配がない。


 もぐもぐもぐもぐ。

 んぐんぐ。


 あらゆるネタが混ざって不思議な味になっている。


(……刺身をミキサーにぶち込んだみてーな味だな)


 もぐもぐもぐ……ごくん。



 ぶっちゃけまずいが、誰かにとられるよりはマシだ!



 この調子で食いまくろう!


 ステーキもマッシュポテトもグラタンもチキンも片っ端から口にぶっこんだ。


 もぐもぐもぐ。

 こりゃ美味い。

 もぐもぐも……っ!!?


「ブフォッ!」


 器官に詰まった!


「ゲブホーッ! ごほっごほっ」


「さっきから何やってんのよ。汚いでしょ」


(凛夏……助け……)


「ほら、しっかりして」


 凛夏が背中を叩いてくれた。


「ぐげーーっ! んげっ! ……ぐぼはッ!!?」


 強烈な衝撃が脊髄せきずいに走った。


「えっ! 凡ちゃん、どうしたの!?」


「りん……」


(お、おまえ……今の……『会心の……いち、げ……き』!)





 因果応報……意識が薄れていく中、俺はそんな言葉を思い浮かべていた。

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