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第五十三話 謎の襲撃者

 ガラスの外れた窓枠をまたいで、外に飛び出る。

 十数メートル離れたところに迷彩色の三台のジープが停まっていた。

 マシンガンを持った男たちが窓から身を乗り出している。


「この野郎!」


(とっ捕まえてボコボコにしてやる!)


 俺は車に向かって走る。



 俺に気づいた先頭車両が急発進しようとした。


「逃がすかよ!」


 俺は先頭車両の進路に向かう。


 そこで突然空間がぐにゃりとゆがんで、絶対時間モラトリアムが発動したことに気づく。


(攻撃!?)


 俺は歩みを止める。

 そのまま走り続けたら危険を回避して自動的に絶対時間モラトリアムは解除されただろう。

 しかし、絶対時間モラトリアムを有効活用して攻撃に向けたいと考えた。


(どこからだ……?)


 周囲を見渡す。


 二両目の車両からは銃を向けられているが、俺と車両の直線距離上に弾らしきものは飛んでいない。

 つまり、発砲されていない。

 三両目の車両は……バックギアに入れて急発進したところだ。

 俺に攻撃していない。


 じゃあ、どうして?


 どうして絶対時間モラトリアムが……?


(まさか、上!?)


 上を見上げても青空が広がっているだけで敵らしきヘリや飛行機などは確認できない。


(……???)


 何となく後ろを振り返ると、後頭部のすぐ後ろに弾丸が浮かんでいた。


「危ねっ!!?」


 あわてて身をそらして、弾をかわすが、絶対時間モラトリアムは解除されない。


 俺がさっき飛び出してきた窓の向こうで、トレボー博士が銃を構えていた。

 連続で発射されたと思しきもう一発の弾丸が、数メートル先に浮いている。


(なんで博士が俺を……? やべっ、ジープを逃がしちまう)


 頭の中がこんがらがる。


 何を最優先すべきか。

 急げ、急いで考えろ……!


 ジープは逃がしたらまずい。

 敵の正体がわからないのもよくないが、逃がすことで後で追撃を受けるリスクがある。


 俺が殺されることはないと思うが、鎮鈴さんや凛夏、そして葵姫たんが一緒の時に攻撃されたら非常にヤバイ。


 ジープを逃がさない方法は……そうだ!


 博士の撃った弾が俺に当たるまで、絶対時間モラトリアムは俺時間であと数秒は持続するはず。

 これを利用して、ジープを攻撃しよう。


 ――あの石だ。

 昨日や今朝の蹴りの要領で、絶対時間モラトリアムが切れる直前に投げれば、石でもジープを破壊できるはず。


 じゃあ、すぐに石を拾って……いや、ダメだ!

 石を拾うためにしゃがんだら、銃弾をかわしたことになって絶対時間モラトリアムは解けてしまう。


 自分の身を危険にさらしたまま――つまり、蹴りであの石をジープにぶつけなければ!



 先頭車両を破壊できれば、二台目のジープの進路も妨害できるはず。

 バックで逃げる三台目の処理はこの後考えよう。



 ――できるか? いや、やるしかない。



 後頭部の少し後ろに銃弾の気配を感じたまま、足元をしっかり見据える。

 よし、石はあの位置だ。形状から考えると、あの面を蹴れば一番正確に飛ぶはず。


 狙いは、先頭車両――。

 いくぞ!

 これが俺のネオタイガーショットや!


「うおおおお!」


 足を振り上げる。

 石の中心点は――ここだ!



 俺は石を思いっきり蹴った。

 そしてすぐに横に飛んで銃弾をかわす。



 絶対時間モラトリアムが解除され、猛スピードで石が飛んでいく。


 ズガンという破壊音とともに、石はジープのボンネットを貫いた。

 ジープは前のめりになったまま近くの壁に激突する。


(よし!!)


 二台目はどうやって足止めしようか考えながら走っていると、先頭のジープが爆発した。


「……わーお!」


 車両の破片が爆風で周囲に飛散し、二台目の車両を叩き潰した。


 人家があまりない田舎でよかった……。

 残りの一台は?



 視線を横に向けると、入り口から飛び出した鎮鈴さんが銃を撃ち、タイヤを貫いたところだった。

 バランスを失ったジープは横転する。


 やった!

 これで全部だ!


 俺は振り返る。


 窓の中の博士は「ひっ」と小さな声を上げて身を隠した。

(あいつは後回しだ! まずは……)


 先頭の車両は完全に炎上しており、乗っている人間は助かりそうにない。


 二台目の車両まで駆け寄る。

 黒スーツの男が運転席に、気絶した軍人が助手席に一人。

 どちらも気絶している。


 俺はヤツらを一人ずつ引っ張り出した。


 さて、鎮鈴さんは――?


 彼女は三両目の車両から軍人を二人引きずり出したところだった。

 俺に気づいた彼女はこちらを見て笑った。


「鈴木くん、お疲れ」

「危ない!」


 軍人が拳銃を抜いて鎮鈴さんを撃った。

 乾いた発砲音が数度。

 思わず目をつぶってしまった。



「うげぇッ!」


 ……。


 短い悲鳴が上がり、そして静寂が辺りを包む。


「……」


 ゆっくり目を開けると、軍人が銃を空に向けたまま崩れ落ちるところだった。


「……ふう。ごめん、殺しちゃったかも。そっちは?」

「生きてるっすけど」


 いくら俺たちを殺そうとしたとはいえ、彼女は人を殺すことに何のためらいもないのだろうか。


「ん? なに?」

「別になんでもないっすけど」


「殺したくないなんて甘いこと考えてると、痛い目に遭うわよ」


 鎮鈴さんは俺の肩をぽんと叩くと、そう言った。 


「……」


「博士、出てきてください」


 彼女は窓に向かって呼びかけた。

 しかし、返事はない。


(やばい、博士を逃がしちまったかな……)


「トレボー博士!」


 彼女は声を荒げて発砲した。

 弾丸は窓枠に残ったガラス片を撃ち抜いた。


「は、はひっ!」


 情けない声を上げながら、鎮鈴さんが撃った箇所の真下から姿を現すトレボー博士。


(あそこに隠れたままだって、よくわかったな……)


 彼女は博士に銃を向けた。


「わかったでしょ。あたしたちを殺すなんて無理」

「は、はひっ!」

「銃をこちらに投げて、両手を挙げて」

「……」


 博士は立小便でもするかのように両手を腰のあたりに当てたままモジモジしていた。


「早く!!

「は、はひっ!」


 鎮鈴さんが声を荒げると、博士は手の下に隠した拳銃を取り出して、こちらに投げた。


「おっけー。じゃ、そのまま待ってて」

「は、はひっ!」


 トレボー博士は脂汗を浮かべたまま、窓枠にぴったり体をつけて動きを止めた。


「鎮鈴さんやるう!」

「茶化すんじゃないの。あの車に生存者は?」

「いないんじゃね? 爆発したし」

「すぐに確認! 急いで!」

「は、はひっ!」


 思わず俺も情けない声を出してしまう。

 うーん、美人だけど何か怖い。


 俺は恐る恐る炎上する先頭車両に近づいた。


(焼死体を見たら嫌だなあ……っていうか、炎が強すぎて近づけねー!)


 これまで見たことがないくらい真っ黒な煙がもくもくと立ち上っている。

 さすがにこれは生きてるわけねーだろ……。


(一応生存確認ってことで……)

 俺は石を拾って、運転席らしき場所に投げた。


「……」


 何の反応もない。

 生きてたら「OUCH!」とか聞こえてくるはずだ。多分。

 やっぱり死んじゃったんじゃないかな。


「どう? 生きてる?」


 鎮鈴さんの声が聞こえた。

 彼女は俺が引っ張り出した二人を縛りあげていた。

 しかもスーツの男の顔が軍人の股間に、軍人の顔がスーツの股間にあうような形で二人まとめて縛り上げていた。

 ホモカップルのようで気の毒だ。


「どうしたの?」


「し、死んでるであります! 真っ黒くろすけでございます!」

「嘘つかない! ちゃんと確認して!!」


 ば、ばれてる!


 嫌だよ。

 焼死体って一番グロそうじゃんか……。

 見たくねーよ。


「爆発したらどうするんすか?」

絶対時間モラトリアムがあるでしょ」


 最悪だ、あの女。


 ため息をつきながら、限界まで近づいた。

 すると、炎の中で奇妙な生き物がうごめいていることに気づいた。

 あれは何だ?


 警戒心を強めたまま、目を細めて観察する。

 人のように見えるけど、ちょっと違う。

 頭部が大きくて、股間の辺りから腕のようなものが二本……。


「おちんちんさーーん!」


 俺は叫んだ。


「呉鎮鈴だって言ってるでしょ! 何よ。生きてた?」

「生きてるっぽいんすけど……ち、チ●ポが二本生えてるっす」

「!」


 鎮鈴さんは、二人を完全に縛り上げるとこちらに駆け寄った。

 隣にいるだけでわかるくらい、彼女の緊張感が高まった。


「……ウンモ星人、ね」


 えっ。


「こ、こいつが……?」


 鎮鈴さんはウンモ星人に狙いをつけた。


「くたばれ!」


 三発、四発……。


 引き金を引くたびにウンモ星人はビクンと体を動かした。

 全弾が頭部に命中し、とうとうそれはは炎の中で動きを止めた。


「……ふう。まさかウンモ星人が」


 俺たちは縛り上げた二人を見た。

 すると、ちょうど黒スーツの男が意識を取り戻したところだった。


「UNMO……DO……DO」


 男は軍人の股間に顔をうずめたまま、苦しそうにもがいている。


「鎮鈴さん」

「うん、やっぱり」


 やっぱりこいつもウンモ星人か。


「ねえ、あんた」


 鎮鈴さんはしゃがみこんで黒スーツに声をかけた。


「UNMO……UNMO UNMO!!」


 お、怒ってる……?

 黒スーツは縛られたままジタバタともがき始めた。


「ウンモじゃねえよハゲ!!!」


 鎮鈴さんの鋭い蹴りがスーツの顔面に突き刺さる。


「UNMOッ!!」


 一緒に縛られた軍人もろとも数メートル吹っ飛んだ。

 ずかずかと歩いて行って、スーツの男の髪の毛をつかむ。


「ウンモじゃねーって言ってるでしょ! 髪の毛むしってほんとのハゲになりたい?」

「ウボァー」

「ウボァーもダメ! 『ごめんなさい』は?」

「ご、ごめんなさい……」


 鼻血をだらだら流しながら男は謝罪した。

 意外と素直なヤツなのかもしれない。



「あんたウンモ星人ね。そっちの男は?」

「に、人間です」

「本当?」

「ほ、本当です」

「嘘だったらそいつのしゃぶらせるわよ! 二本とも! 本当のことを言いなさい」

「……ふ、二人ともウンモ星人で……ウボァー!」


 無言で男を蹴り上げる鎮鈴さん。


「ウボァー禁止って言ったでしょ! 『ごめんなさい』は?」

「ご、ごめんなひゃい……」


「あらあんた、鼻血出てるわよ。拭いてあげるね」


 ハンカチを取り出して男の鼻血をふき取る鎮鈴さん。


(なんなんだこの人は。情緒不安定なのかな?)


「あ、ありがとうございまひゅ……」


 鼻血を拭いていると、男は涙を流し礼を言い始めた。


 えっ?


「こんなにやさしくしてもらったの初めてれひゅ……DO DO DO……」


「よしよし、寂しかったのよね」

「……アイ。寂しかったんでひゅ……UNMO」


 しゃがみこんで男の頭を撫でる鎮鈴さん。


「もう大丈夫よ。あたしはあなたの敵じゃないからね。わかる?」

「あ、あい……」

「よしよし、えらいえらい」


 彼女はにこっと笑って頭を撫で続けた。


「ありがとうございまひゅ……女神様UNMO」


「じゃあ、あなたたちのこと教えてもらおうかしら。いい?」

「あい!」

「まず、名前と住所は?」

「ピヒビッテス伍長でひゅ。住所はウンモ星UNMO UNMO DO UNMO三丁目……」


 ……うーん、あっさり手懐てなずけやがった。

 鎮鈴さんがすごいというより、あの男が洗脳されやすいだけだと思うけど。

 地球外知的生命体っていうからどれだけ知的なのかと思ってたが、ドクトル近藤と大差なさそうだな。


「地球の住所は?」

「エリア5.1でひゅUNMO。セキュリティレベル5の機密エリアに住んでまUNMO」

「本当?」

「あい!」


「ラッキーだったわね、鈴木くん。こいつをうまく使えばエリア5.1に潜り込めるかも。あそこのバカ博士を使わなくてもね」

「そうっすね! どうします?」


「ねえ、あなた」

「ピヒビッテス伍長でひゅ」

「呼びにくいわ。ペニって呼ぶわよ。いいわね、ペニ夫」

「あい!」


(いいのかよ……まあ、俺のことじゃないからいいけどさ)


 ペニ夫の瞳は鎮鈴さんに絶対的忠誠を示す輝きをたたえていた。


「あたしたちエリア5.1に行きたいんだけど」

「どうしてでひゅUNMO?」

「もちろん観光よ」

「あい!」


 なんで米軍基地に観光で行くんだよ。

 鎮鈴さんも考えてるんだか適当なんだかよくわからん。

 少しハラハラしつつも、俺は二人の会話を見守った。


「エリア5.1に入るのは無理ひゅUNMO!」

「……どうして?」

「許可証がない民間人が敷地に入ったらビーッれひゅUNMO!」

「『ビーッ』?」

「ビーム撃たれるれひゅ!」


 ビーム?

 その程度なら俺の絶対時間モラトリアムで余裕で回避できるじゃん。

 あとは見張りをやっつけちまえばいいってわけだ。


 余裕、余裕。


 ……そんなことを俺が考えていると、

「どんなビームなの?」

「股間が二本槍になるビームれひゅ! UNMO UNMO!」

「その後、二本槍の出演するゲイAVを72時間連続で鑑賞させて、我々の味方に洗脳するれひゅ!」


 前言撤回。

 殺傷力の低い攻撃じゃ、絶対時間モラトリアムは発動しない。

 二本槍になるなんて物騒なビーム、受けるわけにはいかない!


「裏口はないの?」

「裏口はシュウド……ぶべッ!」

「!?」


 突然ウンモ星人が叫んだので、俺たちは身構えた。

 ブルース・リーみたいななんとも言えない表情で目に涙を浮かべながら小刻みに震え、そしてがくっとうなだれた。


「ね、ねえ! ペニ夫! どうしたの!?」

「クックック……」


 ペニ夫の股間付近から不適な笑いが聞こえてきた。


 一瞬ペニ夫の二本槍がしゃべったのかと思ったが、よく見ると彼とともに縛り上げられた軍人が意識を取り戻しただけのようだ。


「無駄ダ……ウンモ星人ハ、二本槍ヲヤラレルト死ヌ……」


「ま、まさかあなた……噛んだの!?」

「クク……ソノ通リヨ」

「うわ、最悪……気持ち悪っ!」


 俺たちは思わず後ずさった。

 ドン引きだ。

 秘密を守るためとはいえ、まさかペニ夫の二本槍を噛むとは。


「貴様ラガ、エリア5.1ニ行クスベハナイ……」


 こいつ、縛られてるくせに偉そうだ。


「どうします、鎮鈴さん。やっちまいますか?」

「す、鈴木くん、何をする気よ?」

「いや、こいつの愚息も潰してやろうかなって」


 ペニ夫の弔い合戦だ。


「いいわね。一思いに潰してやって」

「エッ!?」


 俺の提案に軍人は声を上げる。


「チョット待ッテクレ! 俺ヲ殺シタラ、ユミッポ様トアメリカヲ敵ニマワスコトニナルンダゾ?」

「構わんよ。ここは俺の住む世界じゃないしな。鎮鈴さん、何か武器持ってる?」

「拳銃しかないけど?」

「それじゃダメだ。俺ちょっとマスターに金槌借りてきます」

「イ、イヤーッ! ヤメテクレ! 金槌ハヤメテー!」


 軍人の悲痛な声を背中に浴びながら、俺は店に戻った。

 店の奥はボロボロだが、入口付近は銃撃を受けていないため綺麗なものだ。


「マスター、いる?」

「ハイハイ、何ダイ、チンポヤロー」


 スーパーマリオ似のマスターが姿を現す。


「マスター、俺たちのせいで店が壊れちゃってごめん。多分あとでチャールズが弁償するから許してくれ。ところで金槌貸してくれないっすか?」

「金槌……チョット待ッテテクレ」


 マスターは店の奥から古びた金槌を持ってきた。


「サンキュ」

「何ニ使ウンダネ?」

「ちょっとムカツク野郎の玉袋を割ろうと思ってさ」

「ホホウ」


 引くかな、と思ったけれど、マスターは興味深そうに口を開いた。


「ソウイウコトナラ、コイツヲ持ッテイキナ」


 そう言ってマスターが持ってきたのは、トゲのついた金属性のハンマーだった。


「コレナラ確実ニ潰レルト思ウゾ」


 ……確かに!


「ありがとう、マスター」

「楽シンデオイデ」


 マスターに見送られた俺は側道に戻った。


「鎮鈴さーん、お待たせー!」

「ちょっ……鈴木くん、何それ」

「マスターが貸してくれた。玉潰しに最適だって」

「うん、いいわね」


「鎮鈴さん、ちょっと練習していい?」

「いいわよ」


「どれがいいかな……じゃあこれで」


 俺は近くに放置されていたドラム缶に目をつけた。


「ぺっ」


 手につばをつけて、ハンマーを構える。


「凡ちゃーん!」


 ……おや、この声は。


 近くに停まったタクシーから凛夏が降りてきた。


「よう」

「よう、じゃないわよ! カウパーブッカケルヒラリー・クリントンに行ったらひどい目に遭いそうだったんだから!」

「そうなの?」

「性犯罪で名高いスラム街だったんだからね! どうしようかと思ったもん! ばか!」

「そ、そうか。すまんすまん。それにしてもよくここがわかったな」

「近くを通ったら爆発音がしたから、もしかしてと思って……何があったの?」

「あー、話すと長くなるから、あとでな」

「……大体わかったような気がする」


 凛夏は俺と鎮鈴さん、そして縛られた男を見て察したようだった。


「凛夏。ちょっとどいてくれ。こいつの威力を確かめねーと」


 俺はハンマーを再び振り上げた。

 ずっしりとした金属の重量感が両腕に伝わる。お、重い。

 ふらつかないように重心をうまく背骨で支える。そして……


「いくぞーーーーーっ!!」


 一気に振り下ろした!




 ズガッ!!!!




 ドラム缶が鈍い音を立てる。

 バスケットボール大に陥没していて、トゲが空けた穴からは中の液体がちょろちょろとこぼれだしていた。


「鎮鈴さーん! これなら一発で潰せそうっすよ!」

「いいわね! じゃあ、本番行こうか」


 鎮鈴さんは、縛り上げた男の下半身の縄を緩め、ペニ夫を脇にどけた。


「ヤメテーーーー! ワイノ嫁サンガ怒ルカラァー!!」


 大泣きする軍人の足を大の字に開かせた。


「狙いはここよ! 一思いに潰してやってー!」

「うっす!」


「ヤメテェーーー!!! マイサン! ヘルプ!」


「ちょっと!」


 ハンマーを振り上げた俺の腕を凛夏が引っ張った。


「うわっ」


 バランスを崩して俺は横転する。


「おい! 邪魔すんなよ、すっげー重いんだぞそれ!」

「何してるの!? かわいそうでしょ、その人!」


 凛夏は青ざめた顔で俺を責めた。


「こいつは俺たちを殺そうとしたんだぞ!? しかもペニ夫まで殺しやがったんだ! だからやり返す!」

「どんな理由があっても、泣いてる人を攻めるなんて最低だよ! やめようよ!」

「邪魔するなって!」


 無視してハンマーを持ち上げようとすると、凛夏はハンマーに足を乗せた。


「だからダメだって言……危ないっ!!」


 凛夏が叫んだ。






 直後、あたりが真っ白になった。

 視界の隅で鎮鈴さんが飛びのくのが見えた。



 直後、耳をつんざく巨大な爆音。


「うおっ!?」


 俺は凛夏と抱き合ったまま地面を転がり、巨大なゴミ箱にぶつかって止まった。



「あいたたた……な、何だったんだよ」


 さっきまで俺たちがいた場所を見ると黒煙が上がっていた。

 ペニ夫と軍人の姿は消え、そこには消し炭のようなものがわずかに残っているだけだった。


「……ひゃっ!?」

「見るな、凛夏」




「鎮鈴さん!! 無事っすか!?」


 俺は黒煙の向こうに声をかける。


「けほっ、ごほっ……なんとかね」


 すすだらけの鎮鈴さんが咳き込みながら姿を現した。

 引火したのか、上半身の衣服はぼろぼろで下着が露出していた。


「わーお」

「わーお、じゃないでしょ! これ着てください」


 凛夏は俺の目を塞いだまま器用にカーディガンを脱いで、鎮鈴さんに渡した。


「ありがと……まさか自爆するとはね」


 自爆、だったのか。

 なんて野郎だ。何の罪もない喫茶店を銃撃し、最後は自爆だなんて。


 モジャハイ共和国どころの問題じゃないな。

 ウンモ星人は確実にこの世界にとって害悪な存在だ(多分)。



「鎮鈴さん、ここの後片付けってNHJがやるんすか?」

「ここはアメリカだからね。日本政府のNHJが動くよりスーパー・フリーメーソンがやったほうが……いいわ、電話しとく」

「店を滅茶苦茶にしちゃった弁償は……?」

「それもやるわ。日本政府に請求いくと思うけど」

「よかった」


 さて……。



 ようやく面倒ごとが片付いた。

 エリア5.1に行こうと先月から決めているというのに、いつまで経っても行けやしない。

 まるで漫画の引き伸ばしだ。


 いい加減乗り込みたいところだ。


「ペニ夫のおかげでエリア5.1に裏口があるのがわかってよかったっすね。それも博士に聞きましょう」

「ええ」


 俺たちは、博士に尋問するため店内に戻った。

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