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第五十話 作用反作用の法則

 地上に激突する間際、俺は思い切り大地を蹴った!


 直後、絶対時間モラトリアムが解ける。





 ズドオオォン!!!



 稲妻が落ちたような爆音。

 そして砂埃すなぼこりが煙幕のように周囲を覆いつくす。










 ……よかった。生きてる。

 生きてるぞ、俺!


 安堵あんどのため息をついてから周囲を見回す。


「…………!」


 その場にいた誰もが言葉を失っていた。


 そりゃそうだろう。

 あの高さから落ちた俺がピンピンしているのだから。



 下半身が膝まで地面に埋まり、周囲の地面が俺の足首を中心にクレーターのようにえぐられてはいたが。



「ぼ、凡ちゃん……っ!」


 凛夏が駆け寄ってきた。


「き、貴様なぜ……生きているのだ?」


 イケメン野郎も驚きを隠せない。




「ブラボー!」

「ジャパニーズ・スーパーマン!」

「ゴッド・オブ・チンポス!」

「ヒューヒュー」




 埋まった足を抜きながら、片手を挙げて野次に応えた。



(安西先生が俺を救ってくれたんだ……)


 あの人は毎日俺を殴っていた。

 だけど、ボコボコに凹んだバットを見せて、俺に『作用反作用の法則』を教えてくれた、恩人だった。


 そう。

 絶対時間モラトリアムが解けた瞬間の攻撃は、反作用を受けないのだ。

 音速を超えるパンチなどぶちこめば相手は確実に倒れるが、確実に俺の拳だって砕け散る。


 それがなかったということは、少なくとも絶対時間モラトリアム解除時に俺が能動的に動いている限りは、作用対象から反作用を受けないということ。


 つまり、絶対時間モラトリアムが終わるタイミングで地面を蹴れば、落下中のエネルギーは地面を蹴った力に加算されるが、地面から俺の脚には何も返ってこないというわけだ。

 こいつに懸けてよかった……。


 冷や汗が出ちまった。




「く……鈴木よ! 貴様、データにはない、防御系の稀能パーソナリティを習得したな!?」


 おー、イケメン野郎が言ってる言ってる。

 何か勘違いしてやがるな。


「だったら、どうした?」


 もしかしてこいつ、ちょっとびびってるんじゃね?

 と思って、挑発気味に言ってみる。


「ぐぬぬ……!」


 焦ってるな。わろた。


 とりあえず寒いから服を着るか。

 勝者の余裕ってやつだ、フフフ。


「鈴木くん、あんた一体どうやって……?」

「おちんちんさんにはあとで教えてあげますよ」

「呉鎮鈴だっての!」


 着替え終えた俺は、イケメン野郎に向けて一歩進んだ。


「さあ、こっから俺たちの反撃の始まりってわけだ」

「くっ……! 調子に乗るなよ! 私の稀能パーソナリティを……ぬおっ!?」


 ヤツが大きくのけぞった。

 直後に首元から鮮血が飛び散る。


「……惜しい」


 葵姫たんが着地する。

 右の手刀からヤツの返り血がしたたりり落ちる。


 完全にこっちのペースだ。


「私はウンモ星人ユミッポ様に選ばれた最強の男デラルメラルよ! 貴様らごときに敗れる私ではない!」


 デラルメラルは手の平を上に向け、光球を作り出した。


「くらえっ!」


 ヤツが投げつけた光球は俺の真横をかすめて飛んでいった。

(……速い!! やばい、この軌道は)


 俺が振り返った時、凛夏はすでにそれをかわしていた。

 マジか!

 凛夏あいつにはあのスピードが見えてたのか?

 あいつ一体どんな稀能パーソナリティを持ってやがんだ?


「ちょえーーっ!」


 ヤツが腕を振ると、光球は弧を描き、鎮鈴さんの背中めがけて飛んできた。

 繰気弾そうきだんかよ!?


「無駄だよ!」


 鎮鈴さんは一歩前に踏み込んで、光球をかわしながらヤツに鋭い肘打ちを浴びせた。


「げぶっ!」


 ヤツはあばらを押さえてしゃがみこんだ。


「アウチッ!」


 光球はギャラリーの一人に直撃した。

 股間を押さえてうずくまっているが、致命傷ではなさそうなのでまあいいだろう。


 葵姫たんがヤツの首に手刀を当てた。

「……王手だ」


 少しでも動いたら、ヤツの首はポトリと落ちるだろう。


「……くっ。き、貴様ら……!」


 俺はヤツの前にしゃがみこんで、手でヤツのあごを持ち上げた。


「残念だったな。デメキン太郎、だっけ?」

「デラルメラルだ!」

「繰気弾で俺たちを倒せると思うな。気円斬きえんざんくらいはマスターしてきてもらわないと」

「……? 何を言ってるんだ?」

「なんでもねーよ。それより、ユミッポってのがおまえらのボスなんだな?」

「ユミッポ様だ!」


 強く否定されてしまった。

 呼び捨ても許さないとは、かなりの忠誠心だ。


「で、そのユミッポ様ってのが俺らの命を狙ってるってわけだ?」

「……」

「答えろよ」


 デメキン太郎の胸倉を乱暴につかむ。


「フフ……」

「何がおかしい?」

「貴様らのめでたさがおかしいのだよ」

「はあ?」


 何を言ってやがんだ。こいつ。

 これだけ不利なのに笑って……頭がおかしくなってしまったのだろうか。


「もう貴様らはおしまいだ。私をここまで傷つけて、ユミッポ様のお怒りを買うだろう」

「……怒りを買ったらどうなるんだ?」

「死あるのみ! 死にたくなければ私を解放しろ。そして二度とウンモの邪魔をせぬことを誓い、ユミッポ様を神とあがめよ! そうすれば命だけは許してもらえるかもしれんぞ」


 解放しろ、だと……?


 俺は葵姫たんの顔を見た。

 彼女はまっすぐに俺を見つめ返した。


 葵姫たん……申し訳ないけど、何を考えているのかわからないよ。あと可愛い。


 鎮鈴さんを見る。

 彼女は、首を振った。

 それだけじゃ、どっちの意味かわからねーよ!!


「ウ・ン・モ! ウ・ン・モ!」


 ギャラリーたちは意味を知ってか知らずか、相変わらず盛り上がってる。

 俺たちの会話内容なんてどうでもいいんだろう。楽しければ。


 仕方なく俺は凛夏を振り返った。


 凛夏は眉をハの字にして、肩をすくめていた。


「あの人の言ってること、本当だと思う……。返答しだいでは大変なことになるかも。チャールズさんの意見を聞かずに私たちだけで決めちゃまずいよ……」


 うーん。

 こいつは心配性だからなあ。びびってんだろうな。



 俺はデラルメラルの顔を見た。

 ヤツは不適な笑みを浮かべ、ただでさえ憎たらしい顔がさらに憎く見えた。


「その貧乳の言う通りだ。死にたくなければ俺を帰すのだな……早くしたまえ。やさしく言っているうちにな」

「……」


 俺が視線をやると、鎮鈴さんは黙ってうなずいた。

 どうやら、同意見のようだな。



「葵姫たん、手を放してやってくれ」

「……わかった」


「立て、デメキン太郎」


 俺はデラルメラルに手を差し伸べた。

 ヤツはふん、と鼻で笑いながら立ち上がる。


「ようやく気づいたか。だがもう遅いかもしれぬぞ? 私に土下座し、非礼を詫びブゲッ!!」


 体重を乗せた渾身こんしんのアッパーをアゴに叩き込む。

 いい感じに吹っ飛んだデラルメラルはピザの上に倒れこんだ。

 ぐちゃり、と小気味よい音を立ててピザが潰れる。


「フォーーーォ!」

「ナイスパンチ、チェリーボーイ!」

「ヒャッホー!」


 例のごとくギャラリーたちがはやし立てる。

 本当にあいつらは何が起きても楽しそうだ。


「んごっ! んごぶっ!」


 デラルメラルは両手で口を押さえたまま倒れこんでいた。

 手の下からは血が流れ出し、ふうふうと鼻で息をしている。


「馬鹿野郎! 俺は死ぬとこだったんだぞ! 逃がすわけねーだろーが!」


「愚か……者め。生き残れるかもしれぬチャンスを……」

「うるせーー!!!!」


 俺はヤツに馬乗りになった。


「な、何する気だ……!」

「オラオラオラオラオラオラオラ!!」


 がむしゃらにヤツを殴りつける。


「ぶべっ! ぶべら!」

「オラオラオラオラオラオラオラ!」


 隙間がないほどパンチを浴びせる。


「はべっ! ぶぴっ」

「オラオラオラオラオラオラ!!」

「ぷぼっ! おぷっ!」

「……ふう」


 俺は拳が痛くなってきたので立ち上がった。

 近くに落ちていた石ころを拾い、後ろ向きに座りなおす。


「トドメじゃあーーーーッッッ!!!」


 そして、ヤツの金の玉めがけて腕を振り下ろした。





「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」





「……」

「……」



 ヤツは気を失ってピクピクと痙攣けいれんしていた。

 俺はそれを見届けるとヤツの体から降りた。


「ふう、すっきりした」



「ウィナー!」

「シャウエッセン!」

「カミカゼボーイ」


 ギャラリーによる賞賛の言葉を浴びながら俺は満足していた。


(これだけ実戦経験を積めば、葵姫たんとつりあう男になれたかもな)


 横目で葵姫たんを見ると、彼女はどこかに電話していた。


「……ええ。撃退しました。後の処理をお願い致します」


 ……もっと俺に構ってくれ!


「凡ちゃん、よかった!」

「へー、あんたも思ったよりやるじゃん?」


 凛夏と鎮鈴さんが笑顔で駆け寄ってきた。

 鎮鈴さんは鉄で編まれたロープでデラルメラルをがんじがらめに縛り上げる。


「……凡ちゃん、あんなに殴っちゃダメだよ。かわいそうでしょ」

「バカヤロー! この俺を殺そうとしやがったんだぞ。生かしてるだけ感謝してもらわねーと」

「でも……」

「でももだってもあるか。ああいう二枚目キャラは、逃がすと要所要所で何度も出てきて、最終的にはラスボスになる可能性が高い。初回で倒しておかねーと後が面倒だ」


 ったく。

 第二王子といいこいつといい、工夫のねーイケメンばっか送り込みやがって。

 ウンモ星人ってのはあれか? パートナーを顔で選んでやがんのか。

 ふざけやがって。



「ヘイ! ナイスガッツダゼ、ジャップ」

「ピザヲオゴッテヤローカ?」


 いかにも「YO」とか言ってそうな連中がふらふらと近寄ってきた。


「あー、のーさんきゅー。バイバイ」


 邪魔なので追い払う。

 どうして朝飯食うだけでこれだけ目立たなくちゃならんのだ。


「おい、鎮鈴さん。ちょっと教えてほしいんだすけど?」

「何よ、その口調。……で、何が聞きたいの?」

「俺はとっととエリア5.1とやらに行きたい。飽きっぽいし、あんま気が長いほうじゃないんでね」

「ふうん。ま、それはあたしも同感。こんな仕事とっとと終わらせたいし」

「つーわけで、チャールズはどこにいるんすか?」

「さあ? 遅刻するとしか……」

「くそっ……何してやがんだ。あのおっさん」



「ヘイ、ボーイ! 一杯ドウダ?」

「プリティボーイ。ハウマッチ?」


 あー、もう。

 外人どもも暑苦しいわ!


「葵姫たん、さっきどこにかけてたんだ?」

「……スーパーフリー・メーソンのエージェント。彼を引き取りに来る」


「なるほど。いつ来るんだ、そいつら。早くここから離れてーよ」


 ん? サイレンの音が……。


 プァンプァンと青いサイレンを光らせながら霊柩車が公園内に入り込んできた。


「なんだありゃあ……なめてんのか」


「来た」


 葵姫たんが手をあげて誘導する。


「えっ?」


 車は、陽気に踊り来るっていたギャラリーを数人轢きつつも、真っ直ぐに走ってきた。


 車は俺たちの前で停まり、中から黒いスーツの男が降りてきた。

 男は手帳を出して名乗った。


「ナイストゥミーチュー! スーパー・フリーメーソンのワンダー和田と申します!」

「ご苦労様。稀能者インフェリオリティはそこよ」


 葵姫たんが、デラルメラルを指差した。


「はっ! 本部へ連れ帰って検査するであります!!」


 ワンダー和田は霊柩車のハッチを開けて、デラルメラルを放り込んだ。


「それでは、失礼するであります!」


 と、そのまま運転席に戻ろうとするので


「おい、待て! あんた、人を轢いたのが見えなかったのか!」


 と呼び止めた。


 ワンダー和田は目を細めて俺が指した人たちを確認した。


「あんれまー、失礼しますた! 最近近視がひどいもんですて。ちゃんと処理するであります」


 車に乗り込んだワンダーは、公園から出ていく途中でねた相手をポイポイと霊柩車のハッチへと回収していった。


「うーん。産地直送みたいで気分悪いな」


 まあ、とにかく面倒ごとは片付いた。


「とりあえず、どっか移動しようぜ。ここは人目につくし、ピザはまずいしさ」

「どっかって……じゃあ、一度ホテルに戻る?」

「そうだな」


 凛夏の提案に乗って、俺たちはホテルに戻ることにした。

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