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第三十九話 地底に響く歌

 地下トンネルの内装を加工しただけの簡素なトンネルを進んでいく。


 壁には新聞の切り抜きがたくさん貼ってあった。

 英字のものがほとんどで読めないけど、胡散臭いUFO写真が載っているので退屈はしない。


「凡ちゃん、これ本物なのかな」

「嘘くさくねー? これ見ろよ。UFOにでっかく『王』って書いてあるぞ」


「それが、ウンモ星人の円盤だ」

 前を歩いていたチャールズが足を止めた。


「えっ、これ?」

「これは『王』ではない。『UNMO DO UNMO DO DO UNMO UNMO DO』と読む。この紋様はウンモ星人にとっては国旗のようなものだ」

「そ、そうなんすか」


 円盤といい、紋様といい、フラットデザインにも程がある。

 宇宙人の考えることはようわからん。


「大佐。これは?」


 興味深そうに葵姫たんが指した記事には、古典的な空飛ぶ円盤の写真が写っていた。

 窓のついたヤカンみたいな本体底部に、球状のパーツが三つついているやつだ。


「それはジョージア・アダモスキーという人物が撮影したものだ。アダモスキー型と呼ばれている」


 アダモスキー型って言葉は耳にしたことがあるな。


「アダモスキーってのは研究者っすか? 宇宙飛行士?」

「いや、彼は半世紀以上前のコンタクティだ」

「コンタクティ?」


 なんだそりゃ。


「地球外生命体と意思の疎通が可能な人物のことだ。アダモスキーは金星人と出会い、円盤で宇宙旅行に行ったとほざいたことで有名なコンタクティだ」

「金星人と? へえ……なんつうか……気の毒っすね」

「うむ。昔から定期的にその手の人物が現れるからな」

「なるほど……」


 世の中には色々な商売がある。

 ヨタ話をまとめて体験談として生活する人がいるのも不思議ではない。


 もう少し進むとトンネルの壁面に金属製の小さなドアがあった。

 チャールズは数度ノックしてから、ドアを開けた。

「失礼します」


 チャールズと葵姫たんは部屋に入っていった。


 ……はあ。

 アメリカに来てから葵姫たんと全然話してないなあ。

 テンション下がるわ。


「ほら、行くわよ。とっとと歩く!」

「……はいはい」


 凛夏に急かされ、葵姫たんの背中越しに部屋の中を見――。


「なんだ……こりゃあ……?」


 体育館の半分程度の広さの薄暗い部屋の中には信じられない光景が広がっていた。

 部屋の中央に巨大な水槽すいそうのような円筒が何本も立っていて、緑色の光を発している。

 左右、正面の壁には何百以上の液晶パネルがはめ込まれていて、壁際に配置された数十のイスでは白衣を着た研究員たちが機械の操作をしていた。

 さっきまでの小汚いトンネルからは想像もつかないほどサイバーな空間だった。


 近くに立っている円筒の中に、小さな人影が浮いていることに気づいた。

 ホルマリン漬けの……子供?

 いや、違う。

 子供にしてはツルッパゲだ。そして頭部が異様に大きい。目はつぶっているが、開けたら子供の拳大はあるのではないか。耳と鼻の穴はなく、口には唇もない。そして股間には二本槍。


「ウンモ星人……か?」


「凡ちゃん、怖い……」

 凛夏が俺の右腕にしがみつく。


 葵姫たんがウンモ星人の入った円筒をトントンと指で叩いた。

『ガボァッ』

 ウンモ星人が目を見開いた。

 筒を満たす緑色の液体に大量の気泡が生じる。


 うわあ……生きてやがる。キモッ。


「やあ。あっちの世界の山田くん、元気だったべか?」


 突然陽気な声がしたかと思うと、奇妙な老人が笑みを浮かべて立っていた。

 占い師みたいなフードつきのローブをまとっているのも怪しいが、それだけじゃない。

 顔の右半分こそ普通の人間だが、左半分はサイボーグのように機械がむき出しになっていたのだ。


「お久しぶりです、軍平さん」


 チャールズが帽子をとり、彼に頭を下げる。

 そしてこちらに向き直ってサイボーグじいさんを紹介してくれた。


「彼は米原軍平よねはらぐんぺいさんだ。米軍こめぐんの設立者であり、ここのオーナーでもある」

「よろしくだっぺよ。おおおお、べっぴんな娘さんを二人も連れて……たまらんのう」


 サイボーグじいさん――米原老人は舌なめずりした。口のまわりの金属パーツが鈍く光った。

 ……また新しい変態キャラかよ。


「葵姫たん、多分かなりの変態だ。下がってたほうがいい」


 俺は葵姫たんをかばって前に出た。

 代わりに凛夏を俺の前に出そうとしたのに、抵抗しやがった。


 そんな俺たちのやり取りに気を留める様子もなく、チャールズが話を続けた。


「先月から何度かご連絡差し上げたのですが、ずっとご不在だったようですので……」

「ああ、ウンモ星人の目撃例の調査でモジャハイ共和国まで行ってたんだっぺよ」


 ……モジャハイ共和国ってどこにあるんだろう?

 どうでもいいけど。


「そうでしたか。何か収穫はあったのですか?」

「もちろんだっぺ。逮捕された第二王子の屋敷から、ウンモ星人の痕跡が多数出てきたっぺよ」

「痕跡、ですか?」

「んだ。指紋からはウンモ星人の分泌物が検出され、庭のあちこちではウンモ星人のフンも見つかっただべ。自家用車のミゼットも中身はウンモ製UFOだったべよ」

「なるほど。それは大変な収穫でしたね」


 チャールズと米原老人は盛り上がっている。

 ウンモ星人ってのは庭で糞するのかよ……知的生命体とは思えん。


「……というわけで、近藤を追ってここまで来たわけです」


 米原さんはうんうんとうなずくと、チャールズの胸ポケットから煙草を一本くすねて火をつけた。


「エリア5.1に毛深い男が出入りしているという情報はわしもキャッチしとるっぺよ。地元じゃ『ビッグフットが発見された』と大騒ぎらしいしの」

「やはり近藤はこの近くに……」


 あごに手を当て、チャールズは考え込んだ。


「凡ちゃん、ビッグフットって何?}

「あー? ビッグフットってのはアメリカ版の雪男みてーな感じよ。猿人な、猿人」

「そっかあ。毛深いから雪男と間違われちゃったのね」

「だろうな」


 ドクトル近藤は二匹いる。

 異世界こっちのせかいのドクトルと、現実世界おれたちのせかいのドクトルと……。

 その両方が消えてしまったとのことだが、二匹ともエリア5.1に向かったのだろうか。


「軍平さん。我々はエリア5.1に潜入します。協力してくだ――」


 チャールズがそこまで言いかけたのを、スピーカーから流れてきた館内放送にかき消されてしまった。


『十七時になりました。社歌斉唱の時間です。全社員は仕事を中断し、起立してください』


 室内で仕事していた研究員たちが手を止めて一斉に立ち上がった。

 なんだなんだ……?


 妙に陽気なカラオケ音源にあわせて皆は一斉に歌いだした。


「グンペーグンペーグペグペグンペー♪ ヨーネーハーラーグンペー♪」

「グンペーグンペーグペグペグンペー♪ ヨーネーハーラーグンペー♪」

「日本の軍平 世界の軍平 ちーきゅうの軍平ー♪」



 なんというひどい歌だ。

 リズムも単調だし、抑揚がない歌い方もまた不気味としか言いようがない。


「気持ち悪いね……」


 そう俺に耳打ちしたのは凛夏だ。

 確かにかなり気持ち悪い。まるでカルト教団だ。

 チャールズに聞いてみよう。


「チャールズ」

「何だね? 歌の邪魔にならないよう小さな声で頼む」

「ここって、何の組織なんすか? 米軍アメリカ支部とは違うんすか?」

「まあ、似たようなものだが、ここは『株式会社スーパー・フリーメーソン』という会社だ」

「スーパーフリー……メーソン? 会社なんすか?」


 なるほど。会社だから社歌なのか。


「区切る場所が違う。『スーパーフリー・メーソン』じゃない。『スーパー・フリーメーソン』だ」

「別にどっちでもいいじゃないっすか」

「私だってどちらでもいいと思っているさ。だが、隣にCEOの軍平さんがいるんだぞ。失礼じゃないか」


 うーん。

 あいつも絶対頭おかしいよ。

 いい年して自分をサイボーグ化して喜んでるレベルだろ?


 社歌の斉唱が終わるとオペレーターたちは立ち上がって奥の扉に歩いていった。


「どこ行ったんすかね?」


 チャールズに聞こうとしたら、米原老人が間に入って答えてくれた。


「帰宅したんだっぺよ。日本と違って無駄な残業をだらだらやるヤツはいねえっぺよ」

「えっ、もう帰りの時間なんすか?」

「んだんだ」


 秘密のアジトと言っていたわりには労働条件はホワイトだな。

 あー、そういえば株式会社なんだっけ、ここ。


「あんな大人数がタイニーズシアターの地面から出てきたら怪しまれませんか?」と凛夏。


 うん、確かに俺もそう思ってたところだ。


「それは心配いらねえっぺよ。うちの社員はこの奥にある地下寮とこのフロアを往復するだけの毎日だっぺ。通信機器も持ち込めない。一生ここで暮らしてもらえば、情報は漏れんべさ」


 マジかよ。

 前言撤回だな……超絶ブラック企業じゃねえか。


 俺は奥の部屋に消えていく研究員たちに同情した。


「軍平さん。話を戻しましょう。我々は明日にもエリア5.1に乗り込みたいと考えています。力を貸してください」


 チャールズが再度頭を下げる。

 

「んだ。口で言うのは簡単だが、エリア5.1に潜入するのは一筋縄ではいがねえべよ」

「承知の上です。そのために今回は、我々の世界から稀能者インフェリオリティを三名連れて参りました」

「ほお!」


 米原老人は葵姫たん、俺、凛夏の順に視線を移動した。

 葵姫たんの時だけなめるような視線になったような気がする。

 マジきもい。


「なるほどなあ。あんだら、実戦経験はあるべか?」


「あります」と即答する葵姫たん。

「私は……まだ」と凛夏。


 俺は、待ってましたとばかりに腕を曲げて力こぶを作ってみせた。


「フフ、言っておきますが、俺は実戦経験豊富ですよ。化け物からテロリストまで何でもござれ。さっきも地上でならず者を倒したばかりっすわ」


 得意げにそう口にすると、米原老人の目つきが変わった。


「……おめがJJを倒したっぺか?」

「知ってるんすか?」

「んだ。こんな小僧がやったとは……なるほどのう」


 米原老人は今度は俺をじろじろと観察する。

 まさかこいつ、サイボーグホモか?


 ヤツの気を逸らすために俺は会話を繋げる。

「じぇ、JJは有名なんすか?」

「そりゃそうだ。JJは『オータムスタンフェスティア』で優勝した男だべ」


 オータムスタンフェスティア?


「知らんのか? 四年に一度フランスで開催される、格闘技世界一を決める大会だべ」


 何っ!?

 JJは格闘技世界一だったのか!?


「……!」


 心がウキウキしてきた。

 格闘技世界一の男を倒したってことは、俺は世界最強の男というわけだ。

 格闘家としても食っていける!

 これで就活する必要は完璧になくなったな。

 

「世界一か……だからヤツはあんなに強かったんすね。まあ、俺の敵じゃないっすけどね」

「……小僧。おめの名前はなんだべ?」

「鈴木っす。世界最強の男、鈴木凡太っす」


「鈴木くん。JJがどうして強いか知りたいべか?」


 JJが強い理由?

 単純に力が強くて打たれ強いだけじゃねーのか?

 変なこと言いやがるな、このサイボーグじいさんは。

 まあ教えてくれるなら教えてもらうか。


「教えてくださいっす」


「……JJは、アブダクティなんだっぺよ」


「アブダクティ……って何?」


 と俺が聞くと、チャールズがすかさず解説を入れてくれた。


「アブダクティとは、地球外生命体による誘拐・拉致らち被害者のことだ。人体実験の被験体にされたりすることが多い」


 なるほど。

 またくだらない専門用語をひとつ覚えてしまった。


「宇宙人に誘拐されたのと、JJが強いのはどう関係あるんすか?」

「JJは、ウンモ星人に改造され、最強の肉体を手に入れたんだっぺよ」


 ……改造?


「地球人を誘拐して改造することが、一部のウンモ星人たちの間で流行してるんだっぺ」

「そ、そうなんすか……」


「JJは優しくて賢い少年だったべ。それが、奴らの拉致されてから乱暴者になっちまったんだべ……かわいそうだべよ」

「……どんな改造をされたんすか?」


「まず鋼のような強化骨格を与えられたべ。さらにゴリラ三頭分の筋力を植え付けられたべ。好戦的な性格に書き換えられた副作用でホモにまでなっちまった……がわいそうだべ」


 そうだったのか……。

 JJにそんな過去が……。


 燃えてきたぞ……世界最強の男として、やるしかねえ!

 やってやる!


「任せてくだせえ! 俺が必ずかたきを討ってやるっす!!」


 俺が宣言すると、凛夏が溜息をついた。


「凡ちゃん……軽はずみにそういうこと言うのやめたほうがいいよ」

「うるせーなー! 俺の勝手だろーが」


「フッ。若いというのは良いものだっぺよ。おめーたずなら本当にやれるがもしんね」


 嬉しそうに笑ったかと思うと、米原老人はローブを脱ぎ始めた。

 またホモか!?

「いい加減にし……」

 言いかけたところで、ローブがぱさりと地面に落ち、米原老人の全身があらわになった。


「きゃ……!?」


 小さな悲鳴を上げた凛夏が慌てて口を押さえた。

 チャールズは気まずそうに顔を背ける。

 さっきから全然しゃべらない葵姫たんですら、瞳には驚きの色が浮かんでいた。



 米原老人の体は、人の形をしていなかった。


 まるで、機械製のバッタだった。

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