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第三十七話 俺TUEEEEE!!!? その二

 凛夏は銃口をこちらに向けた。


「HAHAHA……ヤッテミロ、ゲイシャガール」


 JJは余裕をぶっこいたまま荒い鼻息をかけてきやがる。


「凛夏! 撃つならとっと撃て!」

「う、うん……任せて……」


 思いっきり手と声が震えている。

 対照的に、俺と密着しているJJからは動揺する気配が感じられない。


 任せられねーよ!

 JJの皮膚の硬さは尋常じゃなかった。

 ひょっとすると拳銃でもダメージを与えられないかもしれない。


 でも、もしも俺に弾が命中した場合、俺は致命傷を受けるだろう。

「凛夏! やっぱ――」


 やめてくれ、と叫ぼうとした瞬間、凛夏は引き金を引いた。

 絶対時間モラトリアムが発動し、銃弾が回転しながら迫るのがはっきりと見えた。


 JJはガッチリと俺を抑えて盾にした。

 ちょっと待て! 最悪のパターンじゃねーか!


「放せっ!」

 がむしゃらに暴れるが、すごい腕力で振り払えそうにない。

 ちくしょう!

 凛夏のせいで俺は死ぬ!!


 放せ、放せ、放せ!


 無我夢中で全身を動かそうとしたら、肘先がJJの胸に偶然ヒットした。


「!!!」


 JJは俺を抱えたまま、派手に吹っ飛んだ。

 絶対時間モラトリアムが解けて、銃弾は瓦礫の山に消えていく。


「うおっ!?」


 すごい勢いで地面に叩きつけられたが、JJがクッションになったお陰で俺はノーダメージだ。

 力が抜けたのを見計らって俺はヤツの腕から抜け出す。


 数歩離れて間合いをとったところで現状を確認。


 JJは胸を押さえながら苦しんでいた。

 葵姫たんも、チャールズも、野次馬たちも呆気にとられたように静まり返っている。


「凡ちゃん、大丈夫?」


 凛夏だけが俺に駆け寄った。


「……大丈夫っていうか、何だ今の」


 蹴りじゃない。

 思い切りぶち込んだわけでもない、まぐれ当たりの肘打ちでJJがあんなに吹っ飛ぶなんて。


「まさか……」


 凛夏か?

 凛夏の能力って他人の能力増大バフなのか?

 さっき俺の蹴りが強くなったのも、凛夏の能力だったのか?


「違うよ」

「?」

「凡ちゃん、ピンチになるとすごい動きが速くなるでしょ?」

「どちらかというとお前らが遅くなるんだけどな」

「私から見たら、速くなってるもん。その時にね、すごいキックを出してたんだよ、だから凡ちゃんをピンチにすればいいと思ったの」

「はあ?」


 何を言ってるのかわからん。

 ずっと貞操のピンチだったんですけど。


「なるほど。そういうことか」


 車の陰に隠れていたチャールズが、落ち着き払った様子で歩いてきた。

 安全が確保されるとこの態度か。

 うーむ、ある意味信用ができる男だ。


絶対時間モラトリアム中は回避のための能力と思われていたが、攻撃に転ずることも可能ということか。よく気づいたな、葉月くん」

「えへへ」


 ??


「何言ってるんすか? 俺にもわかるように言ってほしいっす」

絶対時間モラトリアム中に攻撃をすれば、君は無敵だということだよ、鈴木くん」


 無敵!?


「マジで!? なんで!?」

「君は今、JJに何をしたか覚えているかね?」

「いや、そりゃ肘打ちっしょ?」

「そうか、肘打ちか。我々には速すぎて見えなかった」

「あーそっか。みんなから見たら早送りみたいなもんだしな」

「早送りなんてレベルじゃない。中央病院の監視カメラから、君の動きは最大で音速程度と推定していた。音速で肘をぶち込まれて倒せないものなどいない」

「マジか!」


 俺はJJを見た。

 JJは倒れたまま苦しそうにうめいていた。


「JJが規格外の化け物だったことと、君の攻撃がショボかったお陰で君は殺人犯にならずに済んだわけだ」

「ショボいって……」

「蹴りはかすっただけ。不安定な体勢からの肘打ちも体重が乗っていなかったからあの程度で済んだんだ。これからは本気で相手を殴ってはならんぞ。確実に殺してしまうだろうからな」

「マジで?」


 確実に殺してしまう……?


「そんなにすげえの? 俺の攻撃は」

「ああ。音速とは時速一二〇〇キロ程度。プロボクサーのパンチが時速四〇キロ程度と言われているが、君が全力を出せばプロボクサーの三十倍のスピードで相手を殴れるというわけだからな」

「三十倍……」


 三十倍か……。

 想像していたよりショボい。

 漫画やアニメキャラ並に強くなれると思ったのに。


「運動エネルギーは速度の二乗に比例する。つまり、速度が三十倍になれば破壊力は九百倍になるというわけだ」

「九百倍!! マジか!! それってどのくれーすげえの?」

「……まあ、栽培マンくらいなら倒せるんじゃないのか?」


「すげえ! マジか!!」

「ただし一撃でも攻撃をくらったら君は死ぬ。そして、一撃でもクリーンヒットさせたら相手も死ぬ。それだけは忘れるな」

「ああ!」


 テンション上がってきた!

 凛夏がへんなことに気づいてくれたお陰で俺の最強伝説が始まるんじゃねーの!?


「よし、JJなんてほっといて先行こうぜ、先。何か用事あるんだろ? 葵姫たんも立って」


 ドクトルだろうがウンモ星人だろうが何でもきやがれ。

 俺はこの能力を利用してリア充になって金も名誉もゲットしてやるぜ!


「ほらほら、見世物じゃねーぞ! 散れ散れチンポども!」


 野次馬たちを追っ払う。


「なんであんたはそうすぐに調子乗るの!?」

「あー? 別にいいじゃねえか。俺は最強の男だからな」

「……最悪」

「ふん、貴様に最悪と思われようが屁でもねーさ。葵姫たん、俺は最悪っていうより最強だよね?」


 葵姫たんに声をかけようとしたら、JJが立ち上がるのが目に入った。

 こいつ、まだやる気か……?


「オレモ本気ニナル。キサマ、殺ス」


 JJの顔がマジになった。


「葉月くん、離れろっ」

「は、はいっ」


 凛夏は走って物陰に隠れた。


「鈴木くん! 能力の実験に好機だ。やってしまえ! だが、絶対に殺すんじゃないぞ。万が一があっても私は責任をとれん! ブタ箱行きだからな!」


 チャールズのありがたい言葉を背に受けながら……やってみますかね。


「よし、かかってこい。JJ。俺の力を見せてやる」


 ウオオオオオ、と歓声が上がる。

 追い払った野次馬たちも戻ってきていた。


 JJはボクサーのような構えをとった。

 対する俺はやはり漫画で見た適当な構え(どんな効果があるのかわからん)。


「シュッ」


 JJが動……「ぐはっっ!!」

 俺は吹っ飛んだ。


 尻餅をついたまま、頭がクラクラする。

 ぽたぽたと鼻血が垂れる。

「な、なんだ今のは……」


「鈴木くん! ジャブだ! ジャブは致命傷にならんから絶対時間モラトリアムは発動せんぞ!」


 な、なに……そういうことか。

 っていうか、ジャブでこんなに強いのか……くそ。


「じぇ、JJ! 男なら思いっきりぶん殴ってみろ!」

「HA……?」

「テメーのパンチは軽いんだよ!」

「ファアーーーック!!


 JJはこめかみをピクピクさせながら怒号を上げた。

 周囲の空気がビリビリ震えるほどの凄まじい肺活量だ。


 いい感じだ。こいつが本気でぶん殴ってくれば絶対時間モラトリアムが発動するはずだ。

 試してやろうじゃねえか。

 俺の新必殺技を!


「ユーアーマイン!!」


 JJは右腕を引いて、大砲みたいなストレートを繰り出した。

 即座に絶対時間(モtラトリアム)が俺を包み、JJの動きは遅くなる。

 さっきまでと同じ要領だ。

 俺のリーチはヤツの半分以下しかない。

 引き付けて……かわすと同時にパンチをぶち込む!


「くらえええええええええ!!」


(――やべっ、思いっきりやっちまった)


 慌ててパンチを寸止めする……間に合った!

 時間の流れが元通りになる。

 俺の拳はヤツの腹直前で止まった。


「ぐっぼおおォォォォ!!!」


 それでもJJは衝撃波で勢いよく吹っ飛ぶ。

 瓦礫の山に背中から突っ込み、大量の血を吐き出した。

 砂ぼこりが煙のように舞い上がる。


「ウボォ……ユ、ア……チャンピオ……ン」


 JJはそれだけ言うと気絶した。

 拳圧だけでJJを倒した……?


「……マジかよ」


 当の俺本人が驚いてしまった。

 まさかここまでの威力があるなんて。


「ブラボー!」

「グッジョブジャパニーズチンポボーイ!」

「ユーアーキングオブゲイ!」


 野次馬たちが沸いた。


「サンキュー! サンキューみんな!」


 俺は手をあげてそれに応える。

 視界の隅で、凛夏がほっと胸を撫で下ろすのが見えた。


 俺は凛夏に駆け寄って、その手をとった。


「ありがとな。おまえのお陰で俺は自分の身を自分で守れるようになれた」

「凡ちゃん……」

「これで葵姫たんにも堂々とアプローチできるってもんだ。おまえのような貧乳でもたまには役に立つんだな。マジありがとよ」

「……はあ?」

 あっ、葵姫たんが立ち上がった。

「どけ、アホ!」

 凛夏を突き飛ばして今度は葵姫たんに駆け寄る。


「葵姫たーん! 見てくれた?俺の大活躍を!」

「……」

 葵姫たんは無言で顔を背ける。

「……なんだよ、機嫌悪いな。未来の旦那が活躍したんだぜ。もう少し喜んでくれてもいいじゃねえか」

「……」

 葵姫たんはチャールズのほうへ歩き去ってしまった。


「葵姫さん、ホモを見損ねたってすねてるのよ。残念でした」と舌を出す凛夏。

「な、なんだって。そんなことないよね? 葵姫たんは変態じゃないよね?」

「……」

 背中に声を投げかけるも、返事はない。


「あーあ。変態って言ったから怒っちゃった。腐女子って言わなきゃダメよ」

 なんなんだこいつは。

「おまえに葵姫たんの何がわかるんだよ。胸囲を倍にしてから出直せバーカ」

「なっ、何それ! ムカつくーー!」


 お、ビンタ来るな!

 そんなもんとっくに見切って――「うぼっ」。


 ぼ、ボディブローとは……裏をかかれ、た。


「もう知らないっ!」


 凛夏は葵姫たんに駆け寄って、背中から飛びついた。

 あいつら……いつの間にか仲良くなりやがって。


「鈴木くん。勝利の余韻に浸るのもいいが、そろそろ行こう。これ以上目立つと我々の行動に差し支える」


 もう新宿駅アルタ前並に人を集めているのに、これ以上目立つ姿が想像できないんだが……。

 ま、稀能パーソナリティの応用方法もわかったし、俺にとっては実りのある時間で良かったぜ。


 次々と握手を求めてくる野次馬たちに応えながら、俺たちはその場を後にした。


 よーし!

 ドクトルだろうがエリア5.1だろうがウンモ星人だろうが、何でもきやがれ!

 全部まとめてぶっ倒してやる!

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