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第三十六話 盛大な拍手に包まれて死ぬ日

「グブッ……HAHAHAHA……! 逃ガサネーヨ、ボーイ……」


 口から血を吐き出しながら、じりじりと迫ってくるJJ。

 あれだけ傷ついているというのに、無傷だったさっきよりも恐ろしいのは何故だろうか。

 手負いの獣は危険、ってやつか……。


「鈴木くん、不本意だが逃げよう。私たちにはやらねばならないことがあったはずだ」


 そんなこと言われても……。

 そりゃ俺だって逃げられるもんなら逃げたいっつーの。


 だけど……


「HAHAHA……アイム……ゲイボーイ……」


 不敵に笑いながらジリジリとにじり寄ってくるJJ。

 葵姫たんは……精悍せいかんに構えたまま視線は真っ直ぐにJJを見ている。

 逃げる気ないんだよね。


 ……よし、やるしかねえよな……。


 俺はごくりと唾を呑み込んだ。

 身の丈二メートル以上ある化け物だとはいえ、あれだけ出血しているんだ。

 確実にダメージは蓄積しているはず。


「なんとかもう一、二発蹴りをぶち込むことさえできれば……」


「私がおとりになる」

「えっ」


 葵姫たん?


「そ、そんな……それはいかんですよ! よし、そーだ。凛夏! おまえが囮になれ!」

「はあ!? む、無茶言わないでよ!」

「そこをなんとか……!」


 葵姫たんに傷がつくのは耐えられないが、最悪こいつなら……。


「ふざけんな!!」


 凛夏は車の裏に隠れた。

 チャールズが銃を構えてヤツを守る。


 ……ちっ。

 使えねーヤツだ。あいつ


「HAHAHA……ドウ料理シテヤローカ」


 とうとうJJは数メートル先まで接近した。

 しかし、ファイティングポーズを構えたままそれ以上は近づいてこない。


「……?」


 ヤツの視線がちらりと動いた。


 俺の足を見た?

 なるほど――蹴りを警戒しているのか!


「このまま膠着こうちゃく状態になればポリスメンが来るんじゃねえの?」


 葵姫たんだけに聞こえるような声で言うと、

「あの体躯にあの腕力……ヤツは稀能者インフェリオリティだろう。警察では対応できない」

 とありがたいお言葉。


「でもよ……だからといって葵姫たんを囮になんかできねーよ。大体、あいつが狙ってるのって俺だろ?」

「私が注意を引けばいいだけのこと」

「ダメだよ! 葵姫たんにもしものことがあったら……」

「私は負けない。行くぞ」


 葵姫たんは俺から見て左側、つまりJJの右腕側に大きく踏み込んだ。


「ンオッ!?」


 不意をつかれたJJは葵姫たんを目で追った。


(くそ、やぶれかぶれだ!)

 俺はJJの左側に回り込む。


「ンモーー!!」


 JJはこちらを振り向き、捕まえようと手を伸ばしてきた。

(……やっぱり俺狙いじゃねーか!)

 JJの背後で、水平の手刀で信号機の支柱を切りつける葵姫たんの姿が見えた。

 ナイフを通した豆腐のように、あっさりと切断された信号機はJJめがけて倒れる。


 派手な破壊音とともに、信号機がJJの頭を直撃した。

 そしてヤツはそのままよろめく。


 よし、トドメだ!


 俺は全身全霊の力を込めて、顔面めがけてトーキックをぶち込んだ!


「ギャアアアアアアアアアアア!!!!!」


 叫び声が響き渡った(俺の)。

 か、固え!!!!


 鋼のような筋肉に跳ね返され、俺は突き指してしまった。

 片膝をつきつつも、俺に手を伸ばしてくるJJをかわす。

 危ねえ! 捕まってたまるかよ!


「グブッ」


 JJは血を吐いて倒れた。

 よっしゃ! 蹴りのおかげか信号機のお陰かわからねーけど、勝った!


 しかし……痛ええええええええええええ!!!!!


「いてえええええよ!!」


 俺のスーパーダイナマイトストロングデリシャスキックが効かねえ……!

 稀能パーソナリティが発動してねえって……どういうことだ!


 ちくしょう、どーなってんだ! 思いっきり蹴ったはずだぜ!?

 さっきの絶対時間モラトリアム中と違って、体勢にも無理がなかったし、思い切り力は乗せられたはずだ。


 しかも顔面だぞ、顔面!!

 なんであんな固えんだよ! 頬の筋肉か!?


 ……っていうか、そんなことよりマジで足が痛えええええ!!


「鈴木くん! 君はアホか! 戦闘中に靴を脱ぐんじゃない!」

「うるせー! 痛いよ痛いよー! ふーふー」


 JJは倒れてるんだからいいじゃねえか……って、あれ?

 さっきまで倒れてた場所にJJがいねー?


「ハッハーア! ツカマエタァヨ、カワイイオケツ」


 しまった!

 JJに捕まった!


 今度は完璧に羽交い絞めにされている。


「コノママ、テンゴクヘ、イッチマウカ、ボーイ」


 せ、背中に何か固いものがあたってる……!


「葵姫たーん! 助けてえーー!! 俺の純潔があああ!!」


 葵姫たんは黙ってうなずき、ゆっくりと近づいてきた。


「オット。ウゴクナヨ。コイツガドウナッテモイイノカー?」


 葵姫たんは黙ってうなずいて、ずかずかと歩いてきた。


「ウゴクナトイットル! トマレー、ゲイシャガール!」


「ダメだよ葵姫たん! 君は俺のお嫁さんだろ! 旦那の純ケツは守ってえええええ!!」


 耳元でJJの荒い息遣いが聞こえるんだよ!

 こいつは本物ホモなんだよ!!

 全身の細胞がSOS信号を発している。


「助けてえええええ!!!」


「トマレエエエエエェエ!」


 葵姫たんは目の前まで来ると、歩みを止めた。

 そして、その場に体育座りした。


 な、なんだ?

 何か秘策があるんだよな?

 さすがだぜ葵姫たん。


「ハッハー、JJよ! このお方を怒らせたのが貴様の運の尽きよ! やれるもんならやってみやがれ! ……死ぬことになるぜ?」

「グヌヌ……オンナ、ナニスルキダ?」


「……見ている」


 は?


「葵姫たん、そりゃあ見ているのはわかるけど……人が悪いな、ハハハ。もちろん助けてくれるんだよね?」

「……」


 葵姫たんは真顔のまま俺たちを見ていた。


 周囲の野次馬たちも、静まり返った。

 何が起きるのかを固唾をのんで見守っているのだ。


 早く! 助けてくれ……!


「J×鈴か、鈴×Jか。どちらでも構わない。気にしないでどうぞ」


 ……???


 周囲がドッと笑いに包まれた。

 さっきまで破壊行為に怯えていた観光客たちも、楽しそうに笑っている。


「センキュー! センキューエヴリワン! ……グブッ」


 JJからも殺気が薄れた気がする。

 何かお礼言ってるし。


 なに、なに、どういうこと?


「チャールズ! どういうこと!?」


 羽交い絞めにされたまま、車の陰に立っているチャールズに救いを求める。


「……」


 チャールズは銃をしまって、両手を叩き始めた。

 最初はチャールズだけだったけど、それは周囲に伝染し、とうとう通りは何千もの拍手の音でいっぱいになった。

 店員も、観光客も、いつの間にか駆け付けたポリスメンも、みんな幸せそうに俺たちを見つめ拍手する。


「何のドッキリだよ! 勘弁してくれよ!! 頼むから助けてくれ!!」


 凛夏が車の陰から顔を出し、JJを警戒しながらゆっくり近づいてきた。

 JJは凛夏に気づくと、殺気を向けた。


 凛夏は敵意がないことを必死にジェスチャーで伝えると、俺に聞こえるように言った。


「凡ちゃん、よく聴いて! ×っていうのは腐女子用語よ! 鈴×JはあんたがJJを……で、J×鈴は逆の意味なの!」


 マジスカ!!?


 どういうこと?

 葵姫たん! なんでそんなクソみてーな用語を知ってるの!?


 あいかわらず無表情なまま、俺たちを見つめ座っている葵姫たんに「質問たーいむ!」。


「葵姫たん、あの……その、ですね……」

「……」

「なんていうか……その……ア、アーユー、腐女子?」

「……」


 葵姫たんは眉ひとつ動かさずに動かした。「何を当たり前のことを」って感じで。

 ……つまり、なんだ。アレか?


「葵姫たんは俺がJJにられちゃっても、OK?」

「……」


 こくん、とうなずく葵姫たん。

 ……いけないよ、それは……残酷だよ。


「チャールズ! マジで言ってるんすかね、これ」


「ああ! 争いより、愛だ。愛はいい。オールユーニードイズラブだ」


 チャールズは涙を流していた。

 周囲の人たちも泣きながら拍手を続ける。

 どうしてこいつらみんな日本語の腐女子用語とか知ってんだよ……。

 イカれてる……!


「ぼ、凡ちゃん……私は凡ちゃんの味方、だから、ね?」


「うるせーーー!」


 泣けてきた。

 肝心の蹴りは通用しねーし、JJはホモだし、初体験がこんな大勢の見る前なんてヤダ……しかも葵姫たんアリーナ席におるし。


「ヘイ、ボーイ……アイラヴユー」


 耳元にJJの獣臭い吐息がかかった。

 鳥肌が全身を駆け巡った。


「ちくしょー! 放せっ! 放せったら!!」


 すごい力で締め付けられているので、当然放せない。


 JJが首筋に顔を近づけてきた。

 やばい!! こんな化け物にキスマークをつけられたら一生の汚点だ!!


 なんとかせねば!


「凛夏ー! 助けてくれ! おまえだけが頼りだ!」


 JJの間合いの外で心配そうに俺を見つめるこいつしか味方はいない。


「お願い! なんでもするから、助けてーー!!」

「無理だよ、凡ちゃん……!」

「ヤダヨーー! 初めてがこんなのヤダァーー!!」


 俺は泣きじゃくった。


「……でも……」

「凛夏ぁーー!! 助けてくれーーえ!! 背中に何か当たるんだよ! マジで!!! 出される前にらねーと、本当に俺は汚れちまうーー!!」



「……わ、わかった。や、やってみる、ね……」


「ムダダァーヨ! オマエジャ、オレワ、タオセネーヨ! HAHA……っ!?」


 凛夏の手に握られたそれを見た、JJの笑い声が止んだ。


 それは、拳銃だった。

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