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第三十五話 俺TUEEEEE!!!? その一

 俺は無我夢中で足を振り上げた。


 JJの拳を蹴り上げてはじき飛ば――


「……っ!!?」


 しまったあああああ!!!!


 タイミングが早かった!

 俺の足は豪快に虚空を空振った!


 かかとが一瞬ヤツの拳をかすったと思った瞬間、絶対時間モラトリアムが終わりを告げた。


「!!!!!!」


 凄まじい加速度とともに、景色がぐるぐるとひっくり返った。


 うわーーーーっっ!!?








「いてっ!!」


 ケツに強烈な衝撃を受けて(ヘンな意味ではなく)声が漏れた。


 ……くう。


 いてててて……思いっきり尻もちついた。

 ていうかケツで助かった。

 手や頭だったら大ダメージだ。


 ちくしょー、あの世でもいてぇんだな……。


「凡ちゃん、大丈夫?」


 あれ、この声は?

 

「リンポコ……」

「良かったぁ! 殺されちゃうかと思ったよ! うわああん!」

「いててててっ!」


 痛いから抱き着くな……と言いたいところだが、ぷにぷに!

 こやつ、貧乳の分際でなかなか……。

 ん、待てよ……凛夏がいるってことは……。


「大丈夫かっ、鈴木くん」


 チャールズ! 葵姫たん!

 やばい、こんな姿を葵姫たんに見られるわけには!


 放せ貧乳。


「……!」


 凛夏が険しい顔つきで俺から離れた。

 お、とうとう俺もテレパシーを使えるようになったかな?


 ……ていうか、そういえばどうなってんだ? 俺……。


 死の恐怖で混乱していたのか、全然状況が理解できていなかった。

 たぶんあの世じゃないと思うんだが……。


 だんだん落ち着いてきたので、周囲を見渡した。


 さっきまでと同じアメリカの街並み。

 大勢の野次馬が俺たちを取り囲んでる。


 ――やっぱり、ここは現世ですよね。

 つーことは……。


「JJは!?」


 JJはどうなった?

 蹴りは当たらなかったはずなのに、どうして俺は助かったんだ……?


 チャールズが無言で指差した。


 ……ん? げげっ!?


 俺たちの周囲は何百何千の野次馬たちが集まっているというのに、一方向だけがモーゼの十戒のように真っ二つに割れていた。

 そしてその奥に崩れかけた建物がひとつ。


「な、なんだありゃあ!!!?」


「君がやったんだ」とチャールズ。


 ……は?


「……何言ってるんすか?」

「君に殴りかかった瞬間、ヤツは数十メートル吹っ飛んであのざまだ。新しい稀能パーソナリティに目覚めたのではないかと思ったのだが……自覚はないのか?」

「とんでもねーっすよ! 俺はあいつを蹴っただけっす。しかもかすっただけだし」

「なんだって?」


「キャーーーッ!」


 周囲に悲鳴が響き、野次馬たちが逃げ始めた。


 なんだなんだ?

 葵姫たんが立ち上がり、構えた。


「ヌオオオオオオオ!!!」


 ガラガラと音を立て瓦礫ガレキの山が崩れだし、JJが姿を現した。

 身体中の切り傷からは血がにじんでいる。


「ヘイ、ボオォォォイ」


 お、怒ってらっしゃる……。

 その形相は鬼気迫るものがあった。


 逃げ惑う野次馬たちには気にも留めず、JJはゆっくりとこちらに向かってくる。


「下がっていろ」


 低い声でそうつぶやいて、葵姫たんが俺の前に立ちはだかった。


「ば、馬鹿野郎……!」


 重い腰を上げ、俺は葵姫たんの前に回りこんだ。


「あいにく俺は好きな女に黙って守ってもらうようなチンポヤローじゃねえんだよ。かかってこい、JJ!」


「鈴木くん、無茶だ!」

「チャールズ。俺が死んだらアパートの裏のヤモリの墓の隣に埋めてくれ」


 くう~っ。俺かっけえ!

 葵姫たん、これで俺に惚れたかな?

 ……うわ、凛夏が軽蔑の目で見てやがる。

 貴様に用はない! しっしっ!


「鈴木くん! そんなことをしたら私が死体遺棄でパクられてしまう。やめるんだ!」


 そうこうしているうちにJJはあと数歩のところまで接近していた。

 両手を広げ、葵姫たんは通さない。


 JJは完璧にキレていた。

 顔は血が上って真っ赤に染まり、目は焦点があわず口からはよだれを垂れ流している。


 今まで以上に力のこもった一撃で殺しにくるはずだ。

 俺だって、自殺しようってわけじゃない。


 捕まらなければ、絶対時間モラトリアムで攻撃はかわせる。

 JJの攻撃力が高いからこそ、ほぼすべての攻撃が絶対時間モラトリアムの発動条件を満たす。

 さっきはよくわからないが俺の攻撃が効いたようだった。

 チャールズの見立てどおり、稀能パーソナリティに目覚めたのではないか。

 しかし、それは自分にはわからない。

 だから、時間を稼ぐ。

 時間を稼ぎながら俺の新しい稀能パーソナリティの発動条件を見つけ、ぶっ倒してやる。


 ……自信はないけど。


 なーに、最悪俺がぶっ殺されうになったらチャールズか葵姫たんが助けてくれんべ。

 ふへへへ、ハッタリで男を上げながら生き延びてみせる。


「ボーイ! ファアアアック!!!!!!」


 JJが殴りかかってきた。


「テメーの馬鹿力のお陰で俺は死なずに済むんだよ!」


 周囲の時間がゆっくりになる。

 来たな。


 さっき、俺が蹴ったことでヤツは吹っ飛んだという。

 俺の稀能パーソナリティは蹴り技なのではないか。


 だから、JJのパンチは引き付ける。

 俺とJJはリーチの差がありすぎる。

 ヤツの攻撃を安全圏までかわしたら、俺の攻撃を当てることはできない。

 だから引き付けてギリギリでかわさねーと!


 JJのパンチが迫る!


 葵姫たんが俺の真横に並んでいた。

 俺がられると思って飛び出したらしい。


 葵姫たんとぶつからないように、俺はあっちに避けねーと。

 そして攻撃を避けた瞬間に蹴りをぶちこむんだ。


 いくぞ。


 ……心臓が高鳴る。

 当たったら即死するパンチをギリギリまで引き付けるんだ。

 さっきのようにタイミングははずさないぞ。


 ドクン。ドクン。ドクン。


 もう少し……あと少し……「今だ!!!」


 パンチが顔面にかするかどうかの間際、最小限の動作で身体をひねる。

 そしてヤツの腹めがけて思い切り蹴りをぶちこむ。


 時間の流れが戻った。


 ヤツのパンチが顔の真横をすり抜けた。

 風圧がブォンと大きな音を立て、髪の毛が数本持っていかれた。


 凄まじい威力だ。


 そして同時に、渾身こんしんの俺の蹴りがヤツの腹に突き刺さっていた。


「ぐぼォォォォッッ!!!????」


 ペンキみたいな量の血を吐き出し、JJは数十メートル吹っ飛んだ。


 車道を越え、数台の車を跳ね飛ばしながら反対車線へ転がっていく。

 ガラスが砕け、破壊音を鳴らしながらJJの姿は向かいの建物に消えた。


「……は?」


 蹴った俺自身が驚いていた。

 なんだ今の蹴り。


「ウオオオオオオオ」


 野次馬たちが歓声を上げた。

 そりゃあ上げるだろうよ。


 物理法則を無視したような凄まじい蹴りを、冴えない東洋人がぶち込んだのだから。

 動画サイトに乗ったら百万アクセスは軽いぞ……いや、CGだって疑われるかな?


 自分でも信じられないほどの破壊力。

 トラックで跳ねたような蹴り。


「うおおおおおおっしゃあ!!!!」


 気分が高揚してきて、俺は怒号を上げた。


「す、鈴木くん、何だ……今のは?」


 葵姫たんと凛夏はぽかんとしていた。


「まあ、こんなもんっすね。余裕っすよ。これが本当の僕ちゃんです。葵姫たん見てくれた? 強いっしょ、俺!」


 天狗になって髪をかき上げる。


「……自分でも驚いてるくせに」


 ようやく口を開いたと思ったら文句かよ。凛夏のバカは。

 まあ図星だけど。


「フッ。俺は新しい稀能パーソナリティに目覚めていたのだよ。余裕よ、余裕! これで葵姫たんとお似合いになれたわけだ」

「……凡ちゃん。じゃあ、どんな稀能パーソナリティなのか言ってみてよ」


 ギクッ。


「え? そ、その……すげえキックが出る稀能パーソナリティだよ。名づけて『ハイパートルネードキック』だ」

「……やってみて」


「は?」


「もう一度やってみてよ。そのポスト壊せる?」


 ギクギクッ。


 だから俺自身発動条件がわからねーんだっつーの。


「ば、バカ。公共物を壊せるかよ。それに、JJを倒せたかどうかもわからねーんだぞ」


 反対車線を見ると、半壊した店に野次馬が群がってる。

 店主みたいなツルッパゲが店の前で「オーマイガー」と泣いていた。


「うーん……いくら俺が強すぎるとはいえ、あの土産物屋に悪いことしたな」

「安心したまえ。店の修理費用はNHJのほうで補償する」

「そっか」


 さすがチャールズ。


「JJも倒したみてーだし、目的地に行こうぜ。何か用事があるんすよね? ここに」

「うむ……ここタイニーズシアターには世界中のスーパースターたちの手形があってな。その手形にチ●ポを……」


 チャールズがそこまで言いかけたところで周囲は再び悲鳴に包まれた。


「なんだ?」


「ギーーガーーー!!!!」


 妙な雄叫びを上げ、瓦礫の山(さっきのとは別の)から、JJが三度姿を現した。


 ゴリラのように胸を叩き、えている。


「なんてしぶとい野郎だ……いい加減にしねえとトドメ刺しちまうぞ?」


 強がりながらも、稀能パーソナリティの発動条件がわからない俺は心臓バクバク。


「凡ちゃん……逃げたほうがいいんじゃ」


 服のすそを凛夏が引っ張る。


「馬鹿野郎! 男と男の勝負を逃げられるわけねーだろーが!」


 葵姫たんに弱い男と思われたくないしな。


「ファッキューー!!! アイムゲイ!!!」


 ……なんか物騒なこと言いながらJJが車道に飛び出した。

 クラクションが鳴り響くが、JJは車を破壊しながらこっちに向かってきた。


 マジかよ!!!

 平気で前言を撤回できるタイプの生き物である俺は、逃げることを考えた。


 ……しかし、葵姫たんが再び構えをとる。

 逃げないんすか!!?


 ううううううう。

 葵姫たんが逃げないなら、やるしかねー。


 今度こそ、稀能パーソナリティの発動条件を見つけねーと……!


「チャールズ! リンポコ! 下がっててくれ!!」


 俺は亀仙流の達人になった気分で、適当な構えをとった。


(来るなら来い……! でも、できれば来ないでくれ……!!)

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