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第三十一話 アメリカへ

 翌日、俺たちはアメリカに向かう飛行機の機内にいた。

 時々NHJは本当に政府の勅命ちょくめいで動いているのか疑ってしまうことがあった。

 変態ばっかだし。

 だけど、わずか二時間で俺のパスポートを用意してしまうあたりはすごかった。


 うーむ。こんなすっとぼけた面して、やっぱりすごい人なんだろうなあ。

 と、チャールズの横顔を見ながら思った。


「どうした? 緊張しているのかね?」

 俺の視線に気づいたチャールズから話しかけられた。


「……そういうわけじゃないっすよ。つーか、雲、すごいっすね」


 窓の外には一面の雲が広がっていた。


「そんなことを言っても窓際は譲らんぞ。出張時の唯一の楽しみだからな」

「……」


 あんな雲なんてすぐ飽きるわ。ふん。


「すごいよ凡ちゃん! あれ見てー!」

 後ろの席から聞こえる凛夏の声がうるさい。


「隣で葵姫たんが眠ってるんだろ。でけえ声を出すんじゃねえよ」

「葵姫さん、起きてるから大丈夫だよ!」

「……」


 くそー。

 どうして凛夏こいつまでついてくるんだよ。

 足手まといになることはあっても、捜査の役になんて立たねーだろ。


「凡ちゃん、私のこと足手まといとか思ってるでしょ?」

「思ってるよ。なんでお前がついてくんだよ。元の世界に帰れよ」


 俺たちはアメリカ政府が存在を隠ぺいしている極秘の基地に潜入するというのに、凛夏こいつがついてくる理由がわからない。

 役に立たないどころか、人質とかにされて足手まといになりかねない。

 こいつは俺と葵姫たんが仲良くするのを良く思っていない節だってある。

 まさかこいつ貧乳のくせに俺に気があるのだろうか。

 だったら全裸で部屋に尋ねてきて、土下座しながら俺を神とあがめるくらいしろってんだ。

 そしたら俺が心変わりする可能性もゼロではないというのに。


「あたっ!」


 頭にチョップが落ちてきた。


「何すんだよ」

「どうせ私の悪口でも考えてたんでしょ! あれから元の世界に帰ったよ、私」

「じゃあ、どうして異世界こっちに戻ってきてんだよ」

「へっへーん。それはね……」

「それは、彼女が稀能者インフェリオリティとして開眼したからだ」


 チャールズがさえぎった。


 ……へ?

 凛夏が稀能者インフェリオリティ


「またまた~。二人して俺をかついでるんでしょ?」

「嘘ではない。葉月くんは厳正なテストの末、正式に稀能者インフェリオリティとして認められた。これは稀能者インフェリオリティとしての初任務だ」


 はあ?


「……何すかそれ? きゅうすぎません? 下ろしたほうがいいっすよ。そんな胡散臭いテスト受けてねーし」

「うむ。つまり稀能者インフェリオリティとしては君のほうが胡散臭い存在だということだ」


 ……え?


「みんなテスト受けてるんすか? 俺以外。葵姫たんも?」

「うむ」


 なんてこった……!

 俺がこの貧乳におくれをとるなんて……!


「そういうわけだから、よろしくね! セ・ン・パ・イ!」


 ちくしょう。

 何か自分のアイデンティティがひとつ失われたような複雑な感情だ……。


「よろしくって言ってるでしょ!」


 座席の後ろからぽんぽんと頭を叩いてくる凛夏。

 完全に調子に乗ってやがる……。


「チャールズ! こいつの稀能パーソナリティは何すか? 俺のより実戦的なんすか?」

「……え? 葉月くんの稀能パーソナリティ? それは……」

「凡ちゃんには内緒ですよ、チャールズさん!」


 さっきのお返しとばかりに今度は凛夏がチャールズの言葉を遮る。


「チャールズ、こんなヤツの話は聞かずに教えてください」

「ウォッホン、自分の稀能パーソナリティを他人に知られないというのは戦略上重要なこととなる。優秀な稀能者インフェリオリティはやたらと自分の稀能パーソナリティについて吹聴ふいちょうしないものだ」


 何だそれ!

 俺は優秀じゃないみたいじゃねーか!!


「そうよ、あんたは優秀じゃないのよ。残念でした、べー!」


 ぐぬぬ……。

 どうしてこんなに偉そうなんだ、こいつ。

 葵姫たんみたいに静かにしてろってんだこの野郎。


「チャールズさん、向こうについてからの流れを確認させてもらっていいですか?」

「ああ。ロサンゼルスに着いたらまずは米軍こめぐんの現地エージェントと合流する」

「それからエリア5.1に向かうんですね」


 エリア5.1?

 51って言ってなかったっけ。


「エリア51じゃないんすか?」

「ああ。エリア5.1とは米政府もびっくりの、エリア51のパクリ施設だ。我々はここに向かう」

「どうして?」

「これを見たまえ」


 チャールズから受け取ったのは、珍スポの一面だった。

 毛むくじゃらの生物が山の中でハンバーガーを咥えていた。


「『チュパカブラか!? 謎の生物を激写』――これ、珍スポお得意のガセ記事でしょ?」


 珍スポは『日付以外は嘘』と名高い、フィクション系スポーツ新聞だ。

 またいい加減な記事を載せてやがる。

 チャールズがこんなのを読んでいたなんて正直ショックだ。


「落ち着いてよく見たまえ」


 気は乗らなかったが、言われた通りに生物の写真を見てみる。

 どうせ着ぐるみか何かだろ。


「凡ちゃん、これって……ドクターじゃ……?」

「は?」


 凛夏に言われてよく見てみると、確かにこれは……。


「ドクトル……近藤?」


「そういうことだ。この写真が撮影されたのはデス・バレー国立公園の近くだ。ヤツはエリア5.1に向かっていると考えて間違いない」

「なるほど……」


「そこで何をしてるのかしら?」

「エリア5.1ではウンモ星人のテクノロジーを利用し、UFOの研究・製造を行っていると言われている。セグ●ェイを改良しているうちは害はないが、ウンモ星人の技術が悪用されたら世界の軍事バランスは崩れる」

「なるほど……モジャハイ共和国のクーデターにも加担しているし、ウンモ星人とやらは地球人に積極的に介入してくるようになったわけっすね」

「そういうことだ。何が何でも阻止せねばならん」


 よーし!

 やったるでえ!


 ふんっと気合を入れる。


 窓の外にはアメリカの大地が広がっていた。

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