第三十話 ウンモ星人の野望
「……ふう」
シャワールームで身体を洗い流し、ようやくスッキリできた。
昨日も覗きに気をとられて風呂入れなかったからな。
奇想天外なことが次々と起こるから忘れていたけど、夏場にシャワーすら浴びられないのは耐えられるものじゃない。
「ボンチャーン! 着替え置いとくにょろ♪」
栗本さんの声が外から聞こえた。
着替えまで用意してくれるとは、気が利くな。
基本的には悪い人ではないのかもしれない。
つい連打してしまったけど、トドメまで刺さなくて良かった。
廊下で合流したチャールズは、風呂上りだというのに俯いていた。
「どうしたんすか?」
「……私は最低の人間だ」
「? どうしてです?」
「死の危険を感じたとはいえ、栗本さんに手を上げてしまった……自分を律することができなかった自分自身が憎くて情けないのだ……」
栗本さんを殴ってしまったことを悔やんでいるらしい。
「何言ってるんすか、仕方ないっすよあれは。食虫植物に殺されるところだったんすから、俺ら」
「しかし……だからといって他人に手を上げていいわけではないのだ」
「後悔したって何にも生まないっすよ、後悔するくらいなら反省したほうがいいっす。次からは気をつけましょう」
「……鈴木くん……」
「それにノリノリでぶん殴ってたじゃないすか。あんな生き生きしたチャールズ初めて見たっすよ。たまには羽目を外してパーッとやるのもいいんじゃないすかね」
「……」
「気にしないで楽しくいきましょう。栗本さんなら何発ぶん殴っても誰も文句言わないと思いますよ」
「……鈴木くん、ありがとう」
奇妙な友情を育んだ俺たちは、ようやく視聴スペースまでたどり着いた。
平均的な映画館と同程度のスペースだろうか。
「適当な席に座って待ってくれたまえ」
えっと、ここでビデオを見せられるんだっけ。
確か、宇宙人と地球の関係だとか言ってたよな。何が宇宙人だ、馬鹿らしい。
そんなの胡散臭い特番だけで間に合ってるわ。
シートに腰掛けていると、チャールズがポップコーンとコーラを持ってきてくれた。
「つまらん映像だから、退屈するといけないと思ってな」
「あ、どもっす」
「気にしないでくれたまえ。だから、その……私が栗本さんに手を上げたことは皆には内緒にしておいてくれよ」
まだそんなこと気にしてやがったのか。
世間体が気になるなら殴らなければ良かったのに。
とても嬉しそうに連打していたチャールズの姿を思い出す。
「わかったっすよ。代わりに今度、仲人を頼んでもいいっすか?」
「仲人……?」
「葵姫たんと結婚することに決めたっすよ。その時はお願いするっす」
「そ、そうか……その時は任せてくれ。結婚できるといいな。ははは」
そんな話をしていたら、ブザーが鳴って室内が暗くなり始めた。
「上映始っめるよ~ん! 暗いからってBLしちゃダメぽよ! うっふ~ん」
栗本さんの喋り方は、どういうわけだか異常にムカつく。
「チャールズ、後悔も反省もいらないっすよ。上映終わったらもう二、三発殴ってやりましょう」
「気持ちはわかるんだが、その……世間体がな」
「……そんなの気にしなくてもいいのに」
スクリーンに画面が映し出された。
『緊急特番! 宇宙人はすでに地球にやってきている!!』
「チャールズ」
「なんだ?」
「これ、本当に教育用のビデオなんすか? メッチャ胡散臭いんすけど」
「いいから、黙って観たまえ」
『一九四七年。ニューメキシコ州ロズウェルの牧場に空飛ぶ円盤が墜落しました。墜落した円盤からは四体の生物がフルチン姿で回収されたといいます』
「ちょっと待てチャールズ!」
「何だね?」
「いくら宇宙人とはいえ、こんなビデオは見たくなかった」
「うむ。一人二本であわせて八本。確かに目の毒だな。モザイクを入れられないか、映像編集部門送っておこう」
『調査の結果彼らは地球外からやってきたことが判明し、この事件によって初めて政府レベルで地球外生命体の存在が確認されたのです』
「マジか! 二十世紀のうちに宇宙人の存在って確認されてたの?」
「表向きは公表していなかったが、そういうことだ。君は黙って映像を見ることができないのかね?」
ビデオが進むにつれ、内容はより荒唐無稽さを増していった。
宇宙人に関する情報やテクノロジーを独占するための委員会をアメリカが作ったとか何とか、怪しいオカルト雑誌で特集を組まれそうなトンデモ系の話題でいっぱいだった。
最初は楽しかったが、だんだん慣れてきたというか、飽きてきた。
「もっと面白いビデオないのー?」
「いいから黙っていたまえ。ここからだよ」
『一九六〇年代には、ユミッポと名乗るウンモ星人から世界中の研究者たちに手紙が届き始めました。ユミッポから電話を受けた人物も多数いると言います』
「ウンモ星人? 頭おかしーんじゃねーの、こいつら」
「しっ。もう少しでウンモ語講座が始まるから、静かにしていてくれたまえ」
『ウンモ語では「私はウンモ星からやってきて、宇宙船は南フランスにやってきた」は、このように表現します。DO UNMO DO DO UNMO UNMO DO DO DO』
はあ?
『「私の名は太郎です。あなたはウンモ星人ですか」は以下のようになります。 DO UNMO UNMO DO UNMO DO DO UMMO DO UNMO UNMO DO DO UNMO DO DO』
ウンモウンモうるせーよ。
DOとUNMOしか言ってねーじゃねーか。
アホか!
「鈴木くん、すごいと思わんかね?」
「本当にすごいっすね。基地外のヨタ話っす」
「……そうではない。ウンモ語は完成された言語だ。DOとUNMOの二つの単語さえ覚えれば、日常会話ならほぼ不自由なく話すことができる。残念ながら地球上ではここまで優れた言語は存在しない」
は?
「じゃあ、『鈴木凡太』ってウンモ語ではどう表現するんすか?」
「私はウンモ語は得意ではないんだが……UNMO UNMO DO UNMO DO DO DO UNMO DO DO DO DO UNMO DO UNMO UNMO DO DO UNMO DO、だと思う」
「不便じゃないすか?」
「何がだ」
「そんな長いの、不便じゃないすか?」
「……大事なのは長いか短いかではない」
誤魔化しやがった。
「君は最近ウンモ語を耳にしていたはずだ。覚えはあるだろう?」
「ええーっ? ウンモ語? こんなの話すヤツいないっすよ」
「ほら、いただろ? 昨日だよ昨日。思い出したまえ」
「いや……いないっすね。昨日は葵姫たんとデートしただけですから」
「そのあとだよ! 聞いたんじゃないか?」
「聞いてないっすね。勘違いじゃないすか?」
「……直接言わないとわからないのかね?」
「だから本当に知らないっすよ!」
「……ドクトル近藤だよ」
えっ。
ドクトルとは会ってな……あ、会った!!
そうだ、昨日の廃墟にいたじゃん。
「そういえばウンモウンモ言ってたような気がします」
「だろう? そうだろう?」
「それが何か関係あるんすか?」
「私たちを裏切ったドクトルはウンモ語で交信している姿が目撃されている。異世界の近藤もウンモ語を話していたという。そして……」
「そして?」
「ロズウェルで捕獲された二本槍の宇宙人。モジャハイ共和国の人類総二本槍化計画。すべてが繋がったと思わんかね?」
――確かに。
「地球上に飛来した宇宙人は十種類を超えている。しかし本格的に人類に干渉しているのはたった一種類。ウンモ星人だけだ」
こんな二本槍野郎が本格的に人類に干渉していたとは……非常に迷惑で不愉快な話だ。
「嫌な感じっすね」
「非常に嫌な感じだ。とはいっても、ウンモ星人のもたらした技術が我々の生活を飛躍的に進化させたのもまた事実」
「えっ! そうなんすか?」
「もちろんだとも。米政府はウンモ星人と密約を結び、動物実験を黙認する代わりに、彼らの持つテクノロジーを独占したんだ」
キャトルミューティレーションってアレだろ?
牧場の牛とかがUFOに殺されるやつ。
密約!?
独占!!?
「アメ公どもめ……! だからあいつらすげえモンをいっぱい発明しやがるんだな! わかった! インターネットやスマホはウンモ星人の技術なんだ」
「いや、違う」
「じゃあ、どんなのがウンモ星人の技術なんすか?」
「……セグ●ェイとか」
「他には?」
「…………まあ、そんなものかな」
「セグウ●イだけっすか?」
「まあ、今のところはな」
「セグ●ェイなんかのために、牛がたくさん殺されたんか!!? 牛かわいそうやんけ!! 許せねえ!!!!」
「うむ。全く同感だ。そして奴らはモジャハイ共和国のクーデターにも関与していた」
「えっ、なんで?」
「チンポロスキーや近藤を裏で動かしていたのはウンモ星人と考えて間違いないだろう。米軍では、ウンモ星人は本格的に地球文化への干渉を始めたとみて、警戒している」
「なるほど……」
「今こそウンモ星人と戦う時が来たのだ。鈴木くん、君の力を借りられるか?」
また面倒事に巻き込まれてしまうのか……。
「ちなみに、今回の作戦には葵姫も参加する」
「マジっすか!? 任せてくださいよ!! ウンモ星人なんて根絶やしにしてやりますよ!!」
「おお、本当か。それは心強い!」
「で、どこで何すればいいんすか? ウンモ星人はそこらにいるんすか? 見つけたらぶん殴っていいんすか?」
「落ち着きたまえ、鈴木くん。それでは通り魔だ。奴らの本拠地に乗り込んでやるしかない」
本拠地!?
「ウンモ星っすか!?」
「いや、地球上だ。君にはアメリカまで行ってもらう」
「アメリカ!?」
「名前くらいは聞いたことがあるはずだ。ネバダ州のグルームレイクに存在するという極秘基地、エリア51を」




