表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/100

第二十七話 口にしてはいけない寝言

 帰りの車内で俺はまどろんでいた。

 本当に長い一日だった。


 テレビで葵姫たんを見て、鍾乳洞まで行って。異世界にワープしちまって、ヤンキーにボコられて。

 リンポコが裸ですっ転んで、葵姫たんとムードたっぷりデートして、テロリストを逮捕して――。


 ……。


 ……。


 そういえば……こっちの世界のドクトルは獣みたいだったな……。

 変な言葉をしゃべってたけど、あれはモジャハイ共和こくのことばなのかな……。

 チンポロですら……あんなににほんごうまいのに……。


 どぅ うんも、だっけ……へんなこと、ば……。


 どぅ うんもうんも……。


 ……ああ……きもちいい………………ぐぅ。


 ……。


 …………。


 ………………。


「鈴木くん!」


 ……なんだぁ?


「鈴木くん、起きてくれ! 鈴木くん!」


 んんん……。チャールズか? みみざわりなこえだ……。

 うる、さい……だまってろ……いんぽやろう……。

 ……ねかせてくれ……!

 ムニャムニャ。


「なんて寝言の多い男なんだ。葵姫くん、君からも頼んでくれないか?」


「わかりました――起きなさい」


 ……!!!? ――こ、この美しい声は!? 葵姫たん!?


 〇.三秒で起き上て敬礼!


「おはよう葵姫たん!」


 うーん、天使のささやきで始まるなんて良い朝だ。

 と思ったのに、目の前に現れたのは天使ではなかった。


「おはよう、鈴木くん」


 寝起きからチャールズのどアップかよ。

 つーか異世界こっちのせかいのチャールズは、正直苦手ねんですけど。

 あーーっ、葵姫たんはどこかに行っちまうし! カムバックマイエンジェル!


 ていうか、どこだここ。

 教室程度の広さの部屋に、たくさんのベッドがひしめきあっている。

 医務室、というより仮眠室みたいな感じ?


「……」


 チャールズが見てる。

 何か挨拶あいさつしないと。


「……おはようございます。何すか?」


 ふてくされながら俺は言った。

 言っておくが俺は寝起きが悪い。

 せっかく気持ちよく眠っていたのに、つまらん現実に引き戻しやがって。


「鈴木くん。起こしてしまってすまなかった。君は異世界こっちのせかいの私に、いつもそんな態度なのかね?」

「……何の話すか?」

耳障みみざわりなインポ野郎で申し訳ないが、私の話を聞いてくれないか?」


 血の気が引いていった。


「な、何故そのことを……?」


「君は少し自分の寝言の多さに自覚を持ったほうがいい」


 何っ!?

 寝言を言ってたのか!?


 うーむ、自覚してなかった……これからは気をつけよう。

 どうやって気をつけるのか知らんけど。


「す、すみませんでした。チャールズ……あれ?」


 何か違和感がある。


「私の顔に何かついているかね」

「いえ、あの、その……あっ! も、もしかしてチャールズ? 現実世界のチャールズじゃないっすか!?」

「……うむ、私は君の知っている世界のチャールズこそ山田光宙だ。久しぶりだね」


 うおー! 久しぶりだ。

 あれから一週間以上会ってなかったからなあ。


「ってことは、俺は元の世界に戻ったんすか?」

「いや、そういうわけではない。私がこちらに来たのだ」

「そうだったんすか」


 えーと。

 ということは……いま異世界こちらのせかいには、チャールズが二人いるってことか。

 うわあ、紛らわしいなあ。


「ところで、俺に話があるって何すか?」

「インポ野郎の私の話を聞いてくれるのかね?」


 うわっ! 根に持ってらっしゃる。


「や、やだなあ。冗談っすよ、冗談。俺はいつだってチャールズを尊敬していますから! あなたの命令ならどんなものでもしゃぶってみせましょう」

「……君は他人の褒め方をもう少し勉強したほうがいいな」

「ハハ、ハ……精進しょうじんします」

「うむ。ところで、昨日は大活躍だったようだな。モジャハイ共和国のテロリストたちを一網打尽いちもうだじんだったそうではないか」


 おっ、もう耳に入ってるんだな。

 うんうん、確かに大活躍だったよな。昨日の俺。


「ハハハ! 楽勝っすよ! あの程度で良いならいくらでもかかってきやがれですよ」

「本当だな?」


 ……え?

 な、なんだろう。ちょっと嫌な予感がするけど今さら引っ込めるわけにもいかない。


「も、もちろんですとも! 稀能者インフェリオリティとして当然っすよ!」

「嘘はついていないか?」

「イエスッ!」


 めっちゃ嘘ついてますけど、笑顔で親指を立てる。


「神に誓って?」

「もちろん!」

「……わかった。ありがとう。そう言ってもらえるととても心強いよ」

「ま、任せてくださいよ。はは、は……」


 うーむ、マジで嫌な予感がする。


 そう思っていたら、ぐう~っと俺の腹が鳴った。


「ん、お腹が減っているのか。気づかなくてすまなかった。起きてすぐに重い話もするのもなんだし、まずは食事でもとろうか」


 重い話なのか……。

 気が滅入ってきた。


「あの、メシっておごりっすか? 貧乳にタクシー代を払わされて無一文なんすけど……」

「もちろんだとも。ついて来たまえ」


 チャールズは部屋の出口へ歩いていった。

 ベッドから降りてそれに続くと、鈍い痛みが背中に走った。


「っ……!」


 そういえば廃墟で怪我したのを忘れていた。


「どうした? 鈴木くん」

「いえ、あの……ちょっと怪我していたようで。ドクトルは連れてきてないんすか? 毛を抜いて治すやつできないっすかね?」


 ドアノブに手をかけたまま、チャールズはぴたりと足を止めた。


「……」


 チャールズは何かを考えているように見える。

 こういう重い空気は苦手なので、茶化すように俺は言った。


「いないんならいいっすよ。異世界こっちのせかいのドクトルを逮捕しちゃったし、気まずいっすよね」


「鈴木くん」


「は、はい?」


「ドクトルは、裏切った」

「……へ?」


『ドクトルは、裏切った』


 チャールズの言葉を脳内で繰り返す。

 ドクトルが裏切った?


 どういうことだ?

 ていうかそもそもドクトルは味方なのか敵なのかよくわからないところがある。

 確認しなくては。


「すんません、ちょっと整理させてもらっていいすか?」

「うむ」

「えーと、まず俺はドクトル近藤を二人知ってるわけっす。チャールズの部下のドクトルをAとします。ドクトルAは稀能者インフェリオリティで、髪の毛を代償に他人を治療することができる」

「その通りだ」

「葵姫たんは男性恐怖症で素肌が接触すると仮死状態になってしまうことがある。それを蘇生してたのもドクトルAっすよね?」

「うむ」

「次にBです。異世界こっちのせかいに住むドクトルBはモジャハイ共和国第二王子のチンポロの部下っす。稀能者インフェリオリティではないし、ハゲてて獣みたいに毛深くてチ●ポが二本生えてる。おまけに昆虫並の知能しかない」

「そうだな」

「ドクトルBは逮捕されましたよね?? なんかわけわからないんすけど」

「裏切ったのはドクトルAだ。そしてドクトルBは姿を消した」



 ???????????????????????????

 頭の中にハテナマークが二十七個くらい浮かんだ。


「えっと、ドクトルAってNEETSのメンバーっすよね? それが裏切った? ドクトルBはブタ箱から消えたんすか?」

「残念だが、その通りだ……」


 チャールズはうつむく。


 オッシャーーーーーーッ!!!!!!!


 俺は心の中でガッツポーズした。


 毛蟹の生まれ変わりみたいな変態ビキニが葵姫たんの視界に入るのは我慢ならなかったのだ。

 いつか始末しようとは思っていたが、自ら裏切ってくれるとは想定外のラッキーだ。

 ようやく運が回ってきたぜ!

 なあに、葵姫たんが仮死状態になることがあったら、俺がマウストゥーマウスで蘇生してくれるわ。


「いやあ、ドクトルAがいなくなって本当に残念っすね! ドクトルBはどこに消えたんすかね?」


 チャールズは俺に背を向けたまま口を開いた。


「我々にも……わからないのだ。しかし、現実世界と異世界の間に何かが起きている……」


「へ? そりゃ起きてるんじゃないっすか? 異物マターとか現れまくってるんでしょ?」

「そんなことではない」


 チャールズは振り返り、険しい顔でつぶやいた。


「DO UNMO……」


 ん? どこかで聞いたような響きだぞ?


「おそらく――そのカギはドクトルBが握っている」


 言い放つ彼の額を、大粒の汗が伝い落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ