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第二十六話 人類総二本槍化計画

 廃屋の屋上。

 月明かりを浴びながら、俺たちは並んで壁によりかかっていた。


「すまなかった」

「……」


 いくら頭を下げてもチンポロは無言のまま顔を背けたままだ。

 クールなイケメンタイプかと思っていたのに心の狭いヤツだ。


「本当に申し訳ない!! 殺されかけた恐怖でおかしくなってたんだって! な、許してくれチンポロ……ブヒャーッヒャッヒャッ!」


 ……やべ、しまった、つい……。


 つーか何で俺を殺そうとしたヤツを励まさなくちゃいけねーんだよ。

 意味わからんわ本当に。


「……」

「……ごめんなさい。もう笑いませんから。ね? まず、君たちの組織の活動内容を聞かないと判断しようがないからさ……」

「……」

「活動に誇りを持ってるんだろ? だからさ、な? 頼むよ。教えてくれ」

「……」


 チンポロはプクーッとフグのようにふくれている。

 ドクトル近藤は屋上まで引きずってきたのに起きねえし。

 何やってんだろ、俺……。

 葵姫たんはどこ行ったかわからねーし、こんなことなら凛夏の家に泊まってもう一人の葵姫たんの寝込みをイタズラすれば良かった。


「……はあ」


 俺は深くため息をついた。

 月は静かに光をたたえている。


(すげえな。二十年の人生でここまで無駄な時間を過ごしたことはなかった)


 俺は立ち上がって、屋上の淵から下を見上げた。

 美しい夜景がパノラマで眼前に広がった。


 綺麗だな。

 確か五階建てだったから、屋上は六階か。

 ……ああ、その割に景色がいいと思ったけど、病院が丘の上にあるからか。


 夜風が心地いい。

 夏であることを忘れてしまいそうな涼しさだ。


 眼下では十数台のパトカーが相変わらずピカピカ光ってやがる。

 ていうか、結局俺の目的は何だったんだ?

 チンポロとドクトルの逮捕なのか?


 ま、どうでもいいか。

 疲れたから帰って寝たいわ。


「……鈴木」


 背後でチンポロが口を開いた。

 ようやくって感じだけど。


 俺はチンポロに駆け寄った。


「俺を許してくれるのか?」

「……もともと怒ってなんかいない。少し考えていただけさ。祖国のことを――」


 チンポロは遠い目をしていた。


 嘘つけ! 思いっきりほおを膨らませて怒ってたじゃねーか。

 何が祖国だ!

 俺はそういう思わせぶりなセリフが一番嫌いなんだよ!


 もうやめだ!

 こんなヤツの相手するのやめて帰る!


「どこへ行く? 鈴木。俺は祖国を――」

「わかったよ。俺は興味ないからあとで取調室でカツ丼食いながらゆっくり話しなさい」


 ポケットからスマホを取り出し、チャールズにかけ――ようとしたら邪魔された。

「何だよ!」

「鈴木。俺の話を聞いてくれ」


 チンポロは真顔だった。


「やだね。もういい。下の人たち呼ぶからおとなしくしててね」

「鈴木!! おまえになら話してもいいと思ったんだ」

「……そういうメンヘラっぽいもったいつけかた嫌い。だから話さなくていいよ。さてと電話、電話……」

「頼む!! 聞いてくれ」


 そういってチンポロは土下座した。


 なんだこいつ。イケメンキャラじゃねーのか。

 しかしこうして土下座されるのも悪くないな。


「……仕方ないにゃあ。」

 慈悲深い俺はヤツの話を聞いてやることにした。

「ありがとうございます!!」


 そう言ってチンポロは俺をおがみ始めた。

 うむ。苦しゅうない。


 深呼吸してから、チンポロは顔を上げた。


「実は俺は、モジャハイ共和国の第二王子だ。共和国なのになぜ王子がいるのか気になるだろう?」

「いや別に」

「……気にならないのか?」

「あまり興味ないからな。続けたまえ」

「……実は共和国とは名ばかりで、実質的には――(中略)


 チンポロが何かしゃべってるけど、社会科の授業みたいで眠い。

 目が覚めること考えないと……・


「(中略)俺たちはクーデターを起こし政権を奪取しようと考えたのだ。そのための足掛かりが例の大使館爆破だった」

「ほうほう」


 葵姫たんはどこに行ったんだろう。

 この建物には入ってるんじゃないかと思うんだが……暗いとこで転んで怪我してないだろうな。心配だ。

 怪我してたら俺が傷口をペロペロして治してやらんとな。


「――しかし目論見もくろみは失敗に終わった。実行犯が逮捕される中、俺たちはアジトまで逃げてきたというわけだ」


 そういえば夕飯食ってから何時間経ったんだろう。

 あれから凛夏の裸見たりテロリストを逮捕したり、色々あったなあ。

 長い一日だった。


稀能者インフェリオリティの噂は聞いていたが、まさかこの目で見ることになるとはな――俺の完敗だ」


 ……つーか眠いな。

 あくびが止まらない。

 さすがにこれだけ動くとしんどいわ。


「俺は出頭する。これで王位継承問題も解決するだろう。ただひとつ気がかりなのは、俺のせいでチ●ポが二本になってしまった国民たちのことだ」


 三時かあ。なかなか微妙な――えっ!?


「おい!」


 俺はチンポロに詰め寄った。


「いま、チ●ポが二本になったと言ってなかったか!?」

「ああ。俺たち『お下劣爆芯会』は人類総二本槍化計画を掲げて活動していたからな」


 国民総二本槍化プロジェクト!?

 なんだその素敵な響きは!


「二本槍について詳しく教えてくれ!」

「いやに食いつきがいいな、鈴木。二本槍とは聖モジャハイ真教の神で、股間に二本の聖なる腕を持っていらっしゃる。片方は『生命』片方は『賢者』を現していて――」

「そんな経緯はどうだっていい! チ●ポが二本になるってことで間違いないな?」

「あ、ああ。間違いない。我々は人工的に二本槍を生み出す手術を実用化している。側近の近藤も手術済みだ。見ての通り全身が毛深くなり知能が半減するという副作用があるのがたまきずだが、本人の幸福度は確実に上がる」

「マジで!? いーじゃんいーじゃん! 俺にもそれをほどこしてくれ!」

「えっ?」

「だから俺にもその手術を施してくれっての!」

「毛むくじゃらの馬鹿になっても良いのか?」

「もちろんだとも! 馬鹿になれば自分が不幸なことにも気づかないし、全然問題ねーっての!」


 オラ、ワクワクしてきたぞ!

 二本槍になったら夜の楽しさも葵姫たんとエロゲで二倍!

 人生の楽しさも二倍!

 ヒャッホー!


「そ、そこまで言うのなら構わないのだが、本当にいいのか? 君は聖モジャハイ真教の信者ではないだろう?」

「改宗する! 改宗するから俺のチ●ポを二本にしてくれええーーーーっっっ!!」


 そこまで叫んだ時点で、ようやく気付いた。

 屋上の出入り口に葵姫たんが立ってこちらを見ていることに。


 ――あっ!


 き、聞かれた!?


 まばたき一つせずに葵姫たんはこちらを見ていた。

 やばい、多分あれは軽蔑けいべつの目だ!


 チ●ポが二本ある男はお気に召さない!? 大変だ!

 急いで誤魔化さないと!


「おい! チンポロ!」


 俺はヤツを指差した。


「チ●ポの本数だけが人の価値だと思っているのなら、それは大間違いだ!!」

「え? 君もさっき手術してほしいと――」

「黙らっしゃい!! 貴様を試しただけだボケ!! いいか、よく聞けよこのチ●ポヤロー」


「試し……? 俺を?」

「貴様ら聖モジャハイ真教とやらはチ●ポを増やすことを幸福だと思っているようだが、それは大間違いだ!!」

「なんだって……?」

「チ●ポとは生命そのもの。一度しかない生命が輝くのと同じで、チ●ポもたった一本しかないからこそとうとく輝くのだ!」

「か、輝く……?」

「そうだ。それなのに人工的にチ●ポを増やして幸せを得ようだなんて、片腹痛いわ! チンポロ! 貴様らは間違っている!」

「……ば、バカな……! チ●ポを増やすのは間違っているというのか……?」

「ああ。それから先はブタ箱の中でゆっくり考えるんだな」

「……」


 チンポロはがっくりとうなだれた。


「これでよし、と。葵姫たん。こいつを逮捕すればミッションコンプリートだろ?」


 葵姫たんはうなずいた。

 軽蔑の色は薄れた……と信じたい。


「建物内に潜伏していたテロリストの残党も私たちが片付けた」


 ほっ。良かった。

 これで大使館の件の汚名は返上できたな。


 テロリストたち、そしてそれを束ねるモジャハイの第二王子、ついでに異世界こっちのせかいのドクトル近藤も逮捕。

 クーデターを未然に防いだ俺は葵姫たんを妃に迎えるにふさわしい実績をあげたと言っていいはずだ。


 自信がついてきたぞ。

 病院から出た俺をチャールズやビグザムさんが笑顔で迎えてくれた。


 俺は片手を上げて彼らにこたえる。

 よし、帰りの車の中でチャールズに仲人を頼もう。


 東の空がうっすらと白み始めていた。

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