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第二十二話 廃墟

 俺たちを乗せたワゴンは、高速を降り夜の国道を走っていく。


 今度の車は窓が埋められていなかったので、俺はぼーっと外を眺めていた。


 深夜だというのに、街はにぎやかだ。

 色とりどりのネオンが視界を埋め尽くし、数えきれないほどの人々で道はあふれていた。


 そういえば、こんな風景を見るのも久しぶりだな。

 俺たちの世界じゃ、繁華街ですら夜八時を過ぎるとほとんど誰も歩いていない。


 っていうか昼間の新宿でもこんなに歩いてねーよ!


 異世界こっちのせかいも悪くないかもな。賑やかで、楽しそうで。


 そういえば、中学生の頃に大人ぶって夜中に新宿まで行ったことがあった。チャリで。

 あの時もこんな感覚を味わった気がする。


 当時の大人からすりゃ当たり前の風景なんだろうけど、夜の街はキラキラと輝いて見えたのを覚えている。

『高校生になったらバイトして、夜遊びするぞ!』そうちかったもんだ。

 いざ高校生になったら、そんな面倒なことしないで半分引きこもり状態だったけどな。


 異世界事件が発生し、街からは急激に人が消えていった。

 

 だけどここには――今の俺たちの世界で失われてしまった風景がここにはある。

 ちょっとワクワクしちゃうよなあ。


「――というわけだ。いいかね、鈴木くん?」


 ……ん?


 チャールズの声で俺は現実に引き戻された。


 運転手を除く全員が俺を見ている。


「聞いてませんでした」なんて言ったら車外に放り出されそうなシリアスなムードだ。


 あかん。


 だから俺は元気に言い切った。


「もちろんっすよ! なあに、大船に乗った気持ちで任せてください!」


「そう言ってもらえると心強い。君が参加してくれたお陰でより効率的な作戦に変更できたことを感謝している。期待しているぞ」


 そう言ってチャールズは目元をゆるめた。

 異世界こっちのせかいのチャールズの笑顔を見るのは初めてかも。


 つーか、やっぱりヤバイ。

 期待されるのは非常にヤバイ。

 そもそも俺は『どこで誰に何をする』役なのかすら知らんぞ!?

 だって何も聞いてなかったもん。


 アイコンタクトで救いを求めると、ビグザムさんは


「汚名返上できそうね。頑張っていきましょう」


 とニッコリ。


 ちょっと待て!

 何だその女神みてーなスマイルは!


 全然アイコンタクトを理解できてねーじゃねーか!


「何も聞いてませんでした! ワンモアプリーズ!」


 なんて言えるわけがない!


 いやな汗がほおを伝う。


「間もなく現場に到着します」


 車は小道を曲がり、小高い丘を上っていった。

 ヒビ割れたアスファルトがガタガタを車をらす。

 窓の外は草木がぼうぼうに生い茂り、夜のジャングルに迷い込んだような気分になってきた。

 ヘッドライトが赤くびた鉄門を照らした。


 門の脇には小さな小屋があり、これもボロボロにちている。


「幽霊でも出そうな雰囲気ね」


 ボソッとしゃべるビグザムさんの顔は、ぶっちゃけ幽霊よりも怖い。


 広大な駐車場に車は停まった。


 奥には五階建てくらいの巨大な廃墟がそびえ立っていた。

 手前には、赤色灯をまわしたパトカーが何十台も並んでいる。

 その横では警察官や機動隊員みたいのがたくさんいて、盾を構えて壁を作っていた。


 ただ事じゃない雰囲気。

 なんだなんだ?


 車を降りるなりチャールズは懐から拳銃を抜き、俺に渡した。

「護身用だ。悪いが時間に余裕はない。作戦通りいくぞ」


「了解」

「はい!」


 左右に分かれた葵姫たんとビグザムさんは、敷地を囲うように群生している森の中に消えていった。


 ――俺、何するの? これ。


「鈴木くん、緊張しているのか?」

「え、いや、あの……だ、大丈夫っす」

「安心した。左側の入り口から頼むぞ」


 チャールズの合図で機動隊員たちが道を開けた。


 非常にやばい。

 この奥を進んでいって、俺は何をするの?

 この拳銃は何に使うんだ?


「作戦内容は何も把握していないでござる! もう一度お願いするでござる!」

 と言ったら、射殺されるだろうな。

 車の中で確認すればよかったかも……。後悔先に立たず。


 全くもってわけがわからないけど、左の入口とやらに向かえと言われてる。

 うぇ~……廃墟に入れってことだろ。しかも拳銃まで渡されるってことは危険が待っている証拠だ。

 そんなの嫌だ。


 ひとまず皆の視線が気になるので、奥のほうまで行くことにしよう。

 ここから見たところ正面玄関しか見えない。入口とやらは曲がり角の奥にあるということだろう。

 角を曲がっちまえばチャールズから俺の姿は見えないはずだ。


 そしたら、逃げられるのではないか。


 国道から見た感じだと、丘の広さは平均的な大学のキャンパス程度だろう。

 そして標高は十階建ての建物くらいか……?

 曲がり角の奥に進んだら、丘を下る道を探そう。

 最悪坂を転がり落ちることになったとしても、絶対時間モラトリアムが発動すれば死にはしないはず。


 決めた、そうしよう!

 逃げるぞ!!



「鈴木くん、大丈夫か?」

「――安心してください。武者震いをしていただけです。任せてください!」

「それは頼もしい。だが、油断はしないでくれよ」


(頼もしくないでちゅ。許してくだちゃい)


 チャールズたちに見守られながら、俺は歩き出した。

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