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第二十一話 死のテロリスト(後編)

 俺と葵姫たんの活躍により、テリーとボブ、そして車内にいた二人も無事逮捕された。

 大使館の周囲はパトカーと報道陣で埋め尽くされていた。


 俺は正門の守衛室近くでチャールズに叱られていた。


「本当にすいませんでした!」


 これでもかというほどに精一杯低く、頭を下げる。

 

 チャールズは腕組みをしたまま呆れたようにため息をついた。


「結果的に何もなかったから良かったものの、大使にもしものことがあったら国際問題になっていたところだ。それはわかっているね?」


「……はい。すみませんでした」


 この言葉はもう何度目なのかわからない。

 ちらりと時計を見ると、すでに午前一時を過ぎていた。

 まさかここまで叱られるとはなあ。


 俺たちがいなかったら今頃大使館は端微塵ぱみじんに吹っ飛んでいたかもしれないのに。

 ヒーローじゃねえのかよ、俺は。

 理不尽だ。ちくしょう!


 おのれ……この恨み、晴らさでおくべきか……!


 朝になったら俺は元の世界へ帰ることになっている。

 もう異世界こっちのせかいのチャールズとは二度と会わないかもしれないから、今のうちにきっちり復讐ふくしゅうをしておきたいものだが……。


「うーん」


 俺はうなった。


「聞いているのかね? 鈴木くん」

「は、はいっ! すみませんでした」


 気まずくてビグザムさんの目が見られない。


 チャールズはカンカンだし、葵姫たんは冷たい視線を向けてくるしで、散々だ。

 くそっ、こっちの世界のチャールズめ。葵姫たんの前で恥をかかせやがって……!

 やはり最悪の一日だ!


「まあ、彼も反省しているのですから、この辺りで……」


 ビグザムさんが助け船を出してくれた。

 あと一時間くらい早く出してほしかったけれど、気持ちは嬉しい。

 顔と筋肉は怖いけれど、優しいんだよな。

 その優しさを凛夏にも分けてやってほしいものだ。


「うむ……まあ、結果的にはテロリストを逮捕できたことは礼を言おう。鈴木くん、元気でな。異世界の私によろしく伝えてくれたまえ」


 ケッ。何が異世界だ。テメーらのいるこの世界こそが異世界だろうが!

 こっちのチャールズは自分の物差しでしか物事を見られないつまらない大人だ。

 フルネームは山田光宙やまだひかゆだったっけか? ピカチュウかテメーは。

 全く、こんな大人にはなりたくないものだ。


「それでは大佐、失礼致します」

「うむ」

「鈴木くん、行くわよ。」


 ビグザムさんはチャールズに頭を下げた。

 心の中ではフルチンでベロベロバーしながら、俺も深く頭を下げる。


「よし、我々は八王子に行くぞ」

「はい」


 チャールズは俺たちに背を向けた。

 ……っておい! 葵姫たん、なんでチャールズの横に?


「葵姫たん? 俺たちの世界に戻らないの?」

「――任務の途中だ」


 ええーーっ!?

 聞いてないっすよ。


 葵姫たんも凛夏の家に泊まって、明日一緒に帰るんじゃねーの?

 二人の葵姫たんの寝顔を見比べながら寝ようと思ったのに!


「やだ!!」


 俺は叫んだ。


「ん?」


 チャールズが振り返ったので、すかさずダッシュしてチャールズと葵姫たんの間に入った。


「やだよ! 俺は葵姫たんともう少し一緒にいたい! つーか一緒にいる! 俺も八王子行く!」

「鈴木くん! お仕事の邪魔をしてはダメよ!」とビグザムさん。


「邪魔なんてしないっすよ! 葵姫たんを屁で気絶させちゃったお詫びがしたい。大使に迷惑かけたお詫びがしたいんす! 俺に手伝えることはないっすか?」

「鈴木くん、ダメだったら!」


「……」

 チャールズはあごに手を当てて黙り込んだ。

 お、考えてる考えてる。

 駄々もこねてみるもんだな。


「鈴木くん」

「はい!」

「君は稀能パーソナリティを持っているんだったね」

「うす!」

「君の稀能パーソナリティの正確な発動条件を理解しているか?」


 正確な発動条件?


「……まあ、多分。一応は」

「どんなものか、話してくれたまえ」


 んー? 何から話せばいいんだだろう。

 とりあえずは……。


「えーと、俺の稀能パーソナリティ絶対時間モラトリアムと言います。俺自身の生命の危機が迫った時、周囲の時の流れがゆっくりになるものみたいっす」

「なるほど。周囲がゆっくりになっている時、君の動きも遅くなるのかね?」

「いえ、俺は変わりません」

「つまり、周囲からすると君の動く速度が上がったように感じられるわけだ?」

「そのようです」


 チャールズは淡々と質問を投げかけてくる。

 しかしそのお陰で自分自身でもあやふやだった稀能パーソナリティについて徐々に整理されていくようだ。


「視点を変えよう。君からすると、周囲の速度はどの程度遅くなるのかね?」

「ケースバイケースっすね。半分くらいの速度になる時もあれば、ほぼ静止状態になった時もありました」


 嘘じゃない。

 敵の攻撃の軌道が見える程度の時もあれば、コマ送りみたいな時だってあったし。


「……ふうむ。状況に応じて変わるというわけか。速度低下現象は、自分の意思で解除しているのか?」

「違います。勝手に元に戻ります」

「それは特定の時間が経過した時? たとえば君の視点で十秒間、とか」


 そうだったかな?

 うーん。違うよな。ビグザムさんの下敷きだった時はすげー長かった気がするし。


「時間経過ではないと思うっす。『助かった』と思ったら勝手に戻ってる、っていうか」

「なるほど、速度の低下具合と関連がありそうだな。たとえば――」


 チャールズは少し考えてから、続けた。


「君が生命の危機にひんした時、確実にそれを回避できるよう周囲の時間を低速化し、猶予ゆうよが与えられる。それは君が危機を脱した時に自動解除される――そんなところか?」


 ――なるほど!

 その通りかもしれない。


「多分それであってます! あざっす! お陰で俺の稀能パーソナリティを再確認できたっす」

「うむ……」


 チャールズは時計に目をやり、すぐに顔を上げた。


「わかった。君たちも来たまえ。君の能力は次の任務に役立つかもしれない。だが身の保障はできないぞ」


 オッシャーーッ!


「わかってるであります!」

「行くぞ。急がなくては」


 チャールズと葵姫たんは駐車場へ向かった。


「やれやれ、もうひと悶着ありそうね」


 ビグザムさんはコキコキと首を鳴らし、「行くわよ」と俺の肩を叩いた。


「うす!!」


 元気よく返事し、俺は彼らに続いた。



 ――これでもう少し葵姫たんと一緒にいられる!

 それと、チャールズには恥をかかせてくれたお礼もしっかりしないとな。フフフ。

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