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第十六話 いないのは、アイツ

「お母さんにヘンなこと吹き込まないでよ、偽者!」

「偽者はあんたでしょ! その特殊メイク、がしなさいよ!」

「ちょっ……! 痛いって! やめろっつーの!」

「いたたたた……! 偽者のくせに生意気よ!」


 異常な光景だ。

 自宅の居間でお互いのほおをつねりあう凛夏が二人。

 顔も声も貧乳もどこからどう見てもそっくりで、同一人物にしか見えない。

 ていうか同一人物だろう。普通に。


「どっちが本物だと思う?」

「ええっ……?」


 葵姫たんに意見を求めるも、困惑するばかり。

 まあ、さっきから仲裁ちゅうさいしようとして何度も失敗してるし、仕方ないよな。


 凛夏の母ちゃんは隣の和室で眠っているし(ちなみに二人の凛夏を見て気絶した)、話が進まない。


 カチャリとドアが開いて、ビグザムさんが入ってきた。

 二人の凛夏はそれに気づいていない。


「どこ行ってたんすか?」

「……鈴木くん、ちょっと来てもらえる?」

 と、神妙しんみょうな顔つきで俺を呼ぶ。

「まさか……告白とか?」

 冗談じゃないぞ。


「いいから来て」

 ――こりゃただ事じゃないぞ。


 力ずくだったらかなうわけがない。

 最悪、くちびるくらいはうばわれる覚悟をしておいたほうが良いかもな。

 しかしそれ以上はやらせはせん! やらせはせんぞ!


 葵姫たんが俺を見ている。

 そうか、心配なんだな。ありがとう。

「大丈夫、ハートだけは死守ししゅするから、心配せずに待っていてくれ」

「は、はあ……?」


 和室に移動すると、ビグザムさんは慎重にふすま閉めた。

 凛夏の母ちゃんも座っていた。


「あ、どもども。生きてたんスか。お邪魔してます」

「あら……あなた、どこかで……」

 額に手を当ててうーんと考え込む母ちゃん。

 こういう大袈裟な動きは凛夏そっくりだ。


「昔近所に住んでいた鈴木凡太っすよ。覚えてます?」

「すずき……えっ!? あなた、もしかして……凡ちゃん!?」

「そ、そうっす。どうもお久しぶりです」


 目を真ん丸に見開いたと思ったら、今度は満面の笑みで俺の肩を叩いてきた。


「本っ当に久しぶりね! 驚いたわ、こんなに大きくなって。今は何をやってるの?」

「いやー、今は大学生やってます。慶包の」

 せっかくなので大学名をアピってみる。どうだ!

「またまたぁ! 冗談がうまいんだから。でも元気で良かったわ。お母様はお元気?」

「うーん、最近会ってねーからわかんないっすけど、多分元気っすよ。去年は泳いでロシアに行ったみたいだし」

「そうなの。相変わらずアクティブな人なのね!」


「感激のご対面の最中申し訳ないのですが、先ほどの続きをよろしいでしょうか」

 話に割り込んだのはビグザムさんだ。

「あら、それもそうね。ビグザムさん、凛夏の件ですが、凡ちゃんも関係あるんですか?」

「おそらく……そうだと思われます。鈴木くんも座って」

「は、はい」


 木製のテーブルに三人で座った。

 うーむ。ビグザムさんが和室に座るとメトロン星人みたいで不気味だな。


「さて。鈴木くんにも来てもらったのでおさらいしつつ話を続けようと思います」

 あらたまった口調で話しながらビグザムさんは俺に目配せした。

「なんかよくわからないっすけど、どうぞ」


「まず、結論から申し上げます。凛夏さんのうち一人と、私は異世界の人間です。あ、鈴木くんも異世界からやって来ました」


 !?


 凛夏の母ちゃんはうなずいている。

 どういうことだ?


「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。何うなずいてるんすか!? いきなり話についていけないんすけど」

 ビグザムさんに食ってかかる。

「鈴木くんにもわかるように説明したいから、待っててね。私たちにとっては、ここが『異世界』なのよ」

「はあ?」


 異世界ってホラ……アレじゃねえの?

 スライムだのドラゴンだのがいて、魔王に支配されてるような世界。

 ああいうのを言うんじゃねーの?


 現実と変わらない異世界とか、地味すぎるわ!


「私は向こうの世界で上司から異世界の調査を命じられていました。凛夏さんと彼は偶然こちらの世界に迷い込んだようです」

「……荒唐無稽こうとうむけいな話に聞こえますが、娘が二人いるところを見ると信じざるを得ません」


 二人は納得してるみたいだけど、何のことやら。


「何のことやらさっぱりなんですが。すみませんが俺にもわかるよう話してくれないすか?」


 ビグザムさんは凛夏の母ちゃんをちらっと見やった。

「……私はさっきある程度聞きましたから、凡ちゃんにもわかるように説明してあげてください」


「わかりました。鈴木くん、聞いての通り私はチャールズから命じられて調査に来たのよ。まさか君までこっちの世界に来てるとは思わなかったけれど」

「いや、来たくて来たわけじゃないんすけど……どうやって来たのかもわからないし」

「鍾乳洞に行ったんでしょ? 葉月ちゃんから聞いたわ」


 葉月ちゃん? ああ、凛夏の苗字だっけ。


「行ったっすけど……何か関係あるんすか?」

「あそこが異世界の出入り口なのよ」

「は?」


 ……いや、待てよ。

 確かに、つじつまがあうかもな。


「ビグザムさん。ひょっとして葵姫たんもこっちの世界に来てたりします?」

「ええ。チャールズの指示でね」


 やっぱり。

 そもそも俺は葵姫たんを追って鍾乳洞に行ったわけだけど、彼女は異世界に行くためにあそこにいたのか。

 なるほど。


 えーと……そっから先も整理しねーと。

 鍾乳洞に入って……凛夏が消えたんだった。

 で、俺も気絶して気づいたら外に……あっ!


「そういうことか!!」


 思わず口に出していた。

「なるほど。あの時俺はこの世界にやって来たんだな。バイクに載せた凛夏と、タクシーで泣いた凛夏は別人だったのか!」


 ようやく見えてきたぞ。

 まとめてみよう。



 まず、俺は今、異世界にいる。

 異世界は現実世界と酷似している。

 異世界にも現実世界と同じ人物がいる。

 呪文を唱えなくても異世界に行き来する方法がある。


 ――こんなところか。


 俺を介抱してくれたのも、異世界こっちのせかいの葵姫たんと凛夏だったのか。

 現実世界の彼女は稀能者インフェリオリティだけれど、こっちではただのJKだったというわけだ。

 で、凛夏はどっちの世界でも変わらずに貧乳で乱暴者なんだな。


 うんうん、なるほど。

 わかってきたぞ。

 そしてここが異世界だと聞いた時はドキドキしたけれど、少しだけ安心もした。


 NEETS主力の葵姫たんやビグザムさんが派遣されるってことは現実世界に帰る方法は心配なさそうだから。


 しかしそれでも疑問は次々と浮かんでくる。

 この世界が現実世界とどの程度異なるのかも気になるし、それ以外のことも。


「ビグザムさん、チャールズはこの世界にいるんすか? NHJのその他のメンバーも」


「……チャールズはいるわ。NHJのメンバーもそれぞれ私たちの世界とは確かに存在しているわ。だけど……」

「だけど?」

 俺は復唱する。


「一人だけ、いないのよ。戸籍は存在するのに、この世界のどこにもいないの」


 一人だけ?

 そりゃ悲惨だな。


「誰すか? わかった、ドクトルだろ。あの毛蟹みてーなキモいフォルムが二人もいたらたまらん」


「いいえ。いないのはあなたよ。鈴木凡太くん――」

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