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宮野君の提案

 放課後、宮野君と待ち合わせをしている公園に行くと、すでに彼の姿があった。あの少女のことを思い出しながら彼のそばまで行く。


 あれから、あいは彼女に思い入れがあるのか、彼女のことを教えてくれた。

 彼女は一人でいることがほとんどで、あまり友人は多くないようだ。あれだけの美少女だ。男子にもひそかに人気があるが、女にも同じように人気があるらしい。あいを含めて彼女に話しかけられるかといえばそういうわけでもないらしい。

 話すと緊張するとか、遠くから見守るだけでいいといった感情を与えてしまうらしい。


「里崎さんを見たよ。可愛い子だったね」

「可愛いって言えば可愛いんだろうな。あいつは妹みたいなものだからな」


 そのとき、彼の表情が優しくなる。

 昨日、見た笑顔だった。

 わたしに対しては意地悪で、他の人に対しては嫌味なほど愛想がいい。親に対しては素っ気無い。だが、彼女に対してはそのどれでもなく、見守るような姿勢だった。昨日の表情もそうだ。

 二人が一緒にいるのを見たくないと思ったとき、艶のある髪の毛が風になびく。

 彼女は金に近い茶色の瞳を見開いていた。


「渉?」


 昨日聞いたのと同じキーの高く癖のある声だった。少し遅れて、図書館でみた潤んだ瞳がわたしの姿をとらえていた。彼女の目が水を浸したように潤み、小さな声を漏らす。髪の毛を整えると、軽く頬をつねり深呼吸をし、誰にもまねできないような綺麗な笑顔でほほえんでいた。


「のの…」


 彼女の名前を呼びかけた宮野君の声を高い声が掻き消していた。


「武井先輩。はじめまして」


 彼女の足が軽いステップを刻み、わたしのところまで来る。頭を深々と下げると、つやのある髪の毛が地面に一直線に伸びていく。


 白い歯をこぼし、頬を赤く染め、子供のようなあどけない笑みを浮かべている。だが、一度体を震わせると、わたしの隣にいる宮野君の影に隠れてしまった。わたしとののかという少女の間に宮野君が挟まれる形となった。


「ののかは相変わらずだな」


 宮野君はそう苦笑いを浮かべると、彼女の頭に手を伸ばし、乱れた髪を整えていた。そんな彼の仕草を受け、彼女も慌てて自分の髪の毛を整えている。

 その姿は昨日の二人を連想させ、胸の奥をつくような痛みが襲った。


 なぜ、彼は彼女に対してはこんなに優しく笑うんだろう。特別だからだろうか。

 下唇に歯を立てると、痛みが伝わってくる。

 宮野君はわたしをみると、肩をすくめていた。

 その仕草で我に返り、唇をかむのをやめたのだ。


「ののかは君に憧れているんだってさ」


 予期せぬ言葉に彼女を見ると、頬を赤くして宮野君の影からこちらを伺っていた。

 憧れているというのがどういう意味を持つのかは分からないが、悪い意味ではないのだろうか。


「ののかも一緒に帰る?」

「いいです」


 ののかちゃんはのけぞるようにして宮野君から体を離すと、首を何度も横に振る。その反応が小動物を連想させた。


「わたしは帰りますね。邪魔をしてごめんなさい」


 ののかちゃんは頭を軽く下げると、足早に去っていく。彼女の姿を目で追い、彼女を見ている周りの人の存在に気づいた。彼女も宮野君と同じくらいか、それ以上に目立っていた。


「あれで、俺のことを好きには見えないだろう?」


 苦笑いを浮かべた宮野君の言葉にうなずいていた。彼女は確かに彼女は宮野君のことは眼中にないように見えた。


「君のことは家に来る前から知っていたんだよ。ののかにいろいろ聞いてね。面識があるのか気になっていたけど、面識はなかったのか」

「いろいろって」

「今日、君を見たとかそうした感じのこと」


 自分の知らないところで、誰かがそうしてみているということがなんだか不思議だっただけではなく、宮野君に伝わっていたなど想像もしていなかった。彼女はどんな話を宮野君に聞かせたのだろう。


「何か恥ずかしいこととか言ってなかった?」


 少し頬を赤め、彼をみる。


「そうした話は聞いたことないよ」


 その言葉に安堵する。


「前、宮野君の家に言ったとき、聞きかけたのは彼女のことだったの?」


 彼はうなずいていた。


「学校で会ったら声でもかけてやってよ。昔から人見知りが激しい子で、友人もあまり多くないんだ。最初は逃げるかもしれないけど、嫌がっているわけじゃないから」


 彼の言葉にうなずく。

 二人の関係は少なくとも今は自分が考えているより淡白なものだったのだ。だが、その関係は考えようによっては想像以上に近い。

 だが、気にすることはないんだろう。


 よく考えると今朝ああいうことを言う必要はなかったわけで、そう考えるとキスをする必要性もなかったわけで。

 考えれば考えるほど、顔が赤くなってくる。

 宮野君と一緒にいるときは空回りをしてばかりだ。


「君って成績あまりよくないんだよね」

「何の話?」


 一瞬で今まで考えていたことを忘れ去る。

 成績がいいかと言われればいいとはいいがたいだろう。

 そもそも何で勉強の話になったんだろう。


「テストまで三週間か」

「どうして?」

「ののかが言っていたから」


 彼はあごに手を当てると、首をかしげる。


「放課後や休みの日に勉強をしようか」

「勉強……?」


 恋人同士が一緒に勉強はありえそうなことだと思う。

 だが、宮野君は女の子よけのためにわたしを彼女にしたわけで、厳密には彼女とは違う。


「どうして急に」


 彼はあごに当てていた手をポケットに突っ込むと、わたしの顔をのぞき込んでくる。彼との距離は拳一つ分しかない。

 今朝のキスを思い出し、思わず身をのけぞらせていた。

 彼はそんなわたしの反応を確認したように、にっと笑う。


「キスでもされると思った?」

「そんなことないです」


 勢いよく言おうとしたが、声が自然と震えていた。

 肩を震わせる宮野君を見て、体が熱を持ったように熱くなる。


「宮野君って軽い。今まで何人にそういうことをしてきたの?」


 彼は顎に手を当てると、眉根を寄せる。


「一人目?」

「今日じゃなくて、今まで何人にキスしたり思わせぶりな態度をとってきたの?」

「だから君一人だって。今まで彼女いたことなかったし、キスしたこともない」


 平然と答えた彼をじっと凝視する。彼に今まで彼女がいるという噂は聞いたことがなかった。だが、そうであればあんな方法で人をからかうのだろうか。


「初めてだったの?」


 彼は首を縦に振る。


「意外だった?」


 今度はわたしが頷いた。


「突然、キスをしてくるくらいだもん。慣れているのかと思った」

「君がしろって言ったからしただけ。誰かれ構わず手を出しているわけでもないんだし」

「ほかの子がいいと言ったらキスするの?」

「他の子には聞かないから」


 そんな会話の間も彼は表情を崩さない。

 彼という存在がよく分からなくなってくる。

 だが、同時に知りたいという欲求が強くなってきた。

 その気持ちが強くなり歩き出した彼の腕をつかんでいたが、澄んだ瞳に見つめられ、我に返ってその手を離していた。

 宮野君はわたしを見て笑う。


「勉強の話は考えておいて。悪い話じゃないと思うから」

「そんなことをしても宮野君に何のメリットもないと思うよ」


 彼はわたしよりもずっと成績がいい。通っている高校のレベルも宮野君のほうが上だ。


「メリットはないだろうね。君にもデメリットはないと思うよ。俺の彼女なんだから変な点数は取ってもらったら困るんだよね」

「別に変な点数なんてとっていませんよ」

「平均で充分とでも思っていそうに見える」


 彼の言っていることは当たっている。

 何でそこまでしてくれるのだろうか。

 ただ、困るからなのだろうか。

 わたしにはよくわからなかった。


「送るよ。帰ろうか」


 彼はわたしの疑問には答えてくれずに颯爽と歩き出し、わたしはそのあとを追うことになった。


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