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黒熊と槍

 考えてみるも、やれることは一つのみ。

 逃げれないのなら、戦うしかないだろう。

 黒熊()に届く攻撃はジャベリンただ一つ。だが炎を前にしては、それも叶わない。


「消えて、出ろ」

 手元に再出現させたジャベリンを握るも、正直心許ない。しかし他に手がない以上ジャベリン(これ)に頼るしかないだろう。


 俺は黒熊()目掛けて槍を放つ。熊は歩みを止め、やはりその前方の空間には炎が発生した。炎の爆発力によって明後日の方向に飛ぶ槍。まるで先程の焼き増しの様に変わりがない。

 槍が外れたのを認識したのだろう。黒熊は炎を消して歩み出す。


 ……あれ?炎は動かせないのか?そういえば先程も炎を消してから歩き出していた。……試してみるべきか。


 ジャベリンを右手に喚び出し、再度放つ。

 結果は先程と同様の結果だった。やはり動きを止めなければ、炎を出せないのだろう。動きが止まるのなら二人の体調が良くなるまで足止めするまでだ。


 ジャベリンを喚び出し、投げる。喚び出し、投げる。喚び出し、投げる。喚び出し投げる。喚び出し投げる。喚び、投げる。喚び投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる投げる投げる投げる…………。




「ジ、ジンさん……?」

 声を掛けられ、我に帰った。

 後ろを振り返れば、ちよりと、いつの間に移動したのかセンが居た。

 何故か戸惑ったような表情をしている。オマケに心なしか腰が引けている?


「大丈夫なんですか?」

「ん?何がだ?……って呑気に話してる場合じゃない!逃げるぞッ!」

「ちょっ、待って!ストップ!ストーップ!」

 直ぐ様逃げる態勢に入った俺に、センが停止の呼び掛けをしてきた。


「逃げるって何から?熊はどうみても動かなそうだよ……?」

「はぁ?」

 森側に逃げる為に向けていた顔を思わずセンに振り向ける。


「え、もしかして気付いてないの?……さっきの雰囲気からトランス状態にでもなってたのかなー、いやでも……」

 当の本人は、俺の反応に対して何事かブツブツと言葉を漏らしている。


 あ、これはダメだと判断してちよりを見る。

 それで理解できたようで「ジンさん。あれですよ」と、ちよりが指差した方向に視線を向けた。


 視線の先には穴だらけの黒い塊があった。

 ……あ、黒熊か?手足らしきものがあるのが目に入った。


「……もしかして、俺がやったのか?」

「もしかしなくてもジンさんです……。

 私達が起き上がれる頃には、無言で槍を投げてるジンさんがいました……。」

 正直恐かったです、と青い顔をし俺の疑問に肯定するちより。

 恐ろしかったというのは、俺の事なのか黒熊の事なのやら。聞きたい所ではあったがやぶ蛇だろう。


 いつの間にかピアノ線も無くなっていたので、そのまま黒熊まで近づいていく。流石に生きてるとは思えないがウサギの件もあった為、少し距離を開けジャベリンを出して刺してみる。やはり反応はなく完全に死んでいるようだ。


 黒熊は穴だらけで辺りには赤黒い液体が周囲の地面を染めていた。腕と思われるモノに触れてみるも既に冷たくなっている。死んでからだいぶ時間が経っているようだ。ちよりの言い分を信じれば、死んでからもジャベリンを投げ続けていたと云うことか。俗にいう死体蹴り(死体刺しか?)を行っていたのだろう。襲ってきた相手とはいえ、申し訳なく感じる。


 使える部分はないかと黒熊を見てみる。

 流石に穴だらけの毛皮は使えない。肉は食べれるだろうが、穴だらけの状態を解体するのも一苦労だ。ちよりは恐らくはやってくれないだろう。

 ふと血とは違う赤い物が目に入る。


「宝石か……?」

「おぉ、綺麗だね!見た目はルビーみたい!」

 思わず呟いた言葉に、すぐ背後から返答が来た。

 後ろを向けばいつの間にかセンがいた。聞きたいことがあったので丁度いい。


「セン、先程遭遇したのは二回目のような発言をしていたが、本当にコイツと同じだったのか?下手してたら此方が死んでたぞ?」

「え、うん。見た目も同じだったよ?遠くに見えたから罠張ってたら、此方に気づいて凄い速さで突っ込んできたから簡単だったんだけど……。

 あの時は叫んだりしなかったし……。

 あ、そういえば頭に付いてた宝石が違うかも?」

 何を思ったのか唐突に自分の胸元に手を伸ばしゴソゴソと動き始めた。


「っ!何やってるんだよ……」

 思わず焦ってしまう。

 目の前には大きな膨らみが揺れているのだ当然だろう。


「んー?

 確か内側に入れてたんだけどなー……。あ、あった!」

 これだよ!とセンは、胸元から手を出して此方に向けてきた。その手の内には緑色の宝石が収まっている。

 どうやら内側にポケットが有ったようだ。確認してみると自分の服にも内ポケットがあった。


「エメラルドみたいで綺麗でしょ!

 これも黒熊の頭に付いてたんだよ?」

「わぁ、綺麗な宝石ですね!」


 近付いてきた、ちよりが横から宝石を覗きこんできた。

 一人で離れているのは寂しかったのだろうか。

 手元にあるルビーらしき宝石をちよりに渡してみた。


「こっちの宝石も綺麗ですね!」

 どうやらお気に召したみたいだ。

 特に異常も無い様なので危ない代物では無いだろう。


 宝石によって行動が違うのかは再度会わなければ分からない。とはいえ、もう一度会いたいとも思わないが……。



 黒熊の処理も必要だが、それよりも問題はどうして倒せたのかだ。

 ジャベリンを投げて時間稼ぎをしようとしたのは覚えている。そのあとは……。


 なんとなしに手元にジャベリンを出現させてみる。

 先程から何か違和感があると思えば、声に出さずにジャベリンを出し入れしていた。


「開示」ステータスを表示させ、解放済タブの一覧からジャベリンの項目を探していく。

 何個か覚えの無いものが増えていたが、あとに回してジャベリンを見つけた。


 目に入るのは『ジャベリンⅤ』の文字。いつの間にかレベルが上がっている。……黒熊が原因だろうか。

 文字に触れて詳細を開けば予想通り変化があった。


『特徴:切れ味上昇Ⅴ・動作性上昇Ⅴ・投擲能力上昇Ⅴ・貫通能力上昇Ⅳ・速度上昇Ⅲ・召喚短縮』


 軒並みレベルが上がっている。おまけに見覚えのない特徴が増えていた。

『速度上昇Ⅲ』と『召還短縮』の二つだ。


『速度上昇Ⅲ:投擲時のみ射出速度が上昇』

『召還短縮:思考召還並びに思考送還が可能』


 詳細を確認してみるも名前通りであった。

 黒熊に繰り返し投げた事でレベルが上がり、新しい特徴が付いたのだろうか。あまりにも都合の良い特徴が追加されたものだとは思うが……。


 特徴の下には、以前は存在していたゲージが消えていた。これ以上はレベルが上がらないのだろう。

 最高レベルでの威力も確認してみるべきだろう。

 試し打ちをするからと、ちよりとセンに下がるように言う。


 少し離れた位置に立つ木目掛けて、ジャベリンを本気で投げつけた。以前であれば、転がっていた筈の身体は揺れる事もなく平然と立てている。動作性のレベルが上がった事で無駄な動作が無くなったようだ。


 投げた槍は手元を離れた瞬間、凄まじい勢いで真っ直ぐ木に向かい飛んでいく。木に刺さったと思いきや、大きな音を出しながらも障害物がないかの様に木を貫通しジャベリンが見えなくなってしまった……。


「そんなバカな……」

 流石におかしいだろう。普通の投げ槍で木を貫通させる威力なんて出せない。……そもそも色々普通じゃないから問題ない気がしてきた。


 一応木に近寄り後ろを見るも、先にある木も同じ様に貫通した跡だけが残っていた。どこまで貫通したのかは面倒なので見には行かなかったが威力が十分以上にあることは理解した。



お読みいただきましてありがとうございます。

次回話もよろしくお願いします。

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