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愉快な美人

「早く!早くー!」

 俺達は前を歩く女性に急かされて、坂道を登っていた。

 何故こんな事になったのかと今日の出来事を思い出していく。




 朝目を覚まして、朝食を済ませると。頬を赤く染めながらちよりから礼を言われた。

 それに対して笑顔を返し、ちよりも笑顔を返し朗らかな雰囲気を漂わせた所に変化が訪れる。

 最初に気付いたのは、上流側を向いていた俺だった。


 河原を此方に向かってくる影が見えた。

 余りにも遠く込め粒のように見えるが、気のせいではないだろう。


「ちより、何か来たみたいだ」

「えぇ!ど、何処ですかっ!?

 ……あれ?」

 辺りをキョロキョロと見渡していたが、俺が向いている方を見て気の抜ける声をあげた。

 警戒、というよりは理解出来ないといった感じである。


「何処にもいないじゃないですか……」

「向こう側に黒い影が米粒のように見えるだろう。

 さっき見てた時よりも大きくなってるんだよ。

 此方に向かって来てるんだろうね。

 まだまだ遠いみたいだけど……」

「……あっ、本当ですね。ジンさんよく分かりましたね!」

 尊敬したような目で俺を見てくるが、偶々気付いただけなので純粋には喜べなかった……。


「さて、あの影が何かは分からないけど対応出来るようにしないとな」

「対応……ですか?」

「あぁ、獣なら撃退出来るように。

 人なら……相手の状態によるな。

 危機的状況で暴力的になるなんて良く聞く話だろう?」

 ちよりも合点がいったのだろうか、少し怯えた顔をして頷いている。



 ちよりには、もしもの為に洞窟内に入ってもらった。

 俺は相変わらず上流を注視している。

 更に近づいて来たのだろう、米粒だった影は人の形を成していた。

 取り合えず獣に強襲される可能性は無くなったようで一安心だろうか。


 影、いや彼女というべきだろう。目と鼻の先まで近づいて来た姿を観察していった。

 足には、木の皮と思えるものが巻き付いている。

 視線を上げていけばやはり、俺達と同じように黒い服装をしている。その胸元部分は、やけに激しい主張をしているが。

 ちよりと比較するのも可哀想なくらいに、デカイ……。

 顔は可愛いと言うよりも、綺麗と言う言葉が似合う程に整っていた。日本人だとは思うが、光の加減で茶色くも見える髪からはハッキリと判断することは難しい。


「いやー、どうもおはようー!

 まさか本当にいるとは思わなかったんだけど、来たかいあったね私!」

 観察していると、彼女が此方に向かって朗らかに話し掛けてきた。


「………あー、一応聞いておくけど。

 君もアンケートに答えて、気付いたら此処にいた感じかな?」

「うん、そうだよー。

 部屋にいた筈なのに、一瞬の内に山の上だったから驚いたよ!」

「……砂浜じゃなかったのか?」

「んー?山の上だよ?

 イキナリ低酸素になったせいか倒れてだんだけどね。

 いやー、どのくらい寝てたか分からないだけどさ。

 起きて周りを見たら……あ。

 そういえば、もう一人はいないの?」

 キョロキョロと周囲に目線をやり確認している女性。


 見えていた?いや、距離的に流石にそれはないか。

 俺は万が一の為、右手を後ろに回し「出ろ」と小声で呟く。

 右手にナイフの重みが加わった。


「……何故もう一人いると思ったんだ?」

「山にある地図に書いてたよ?」

「……地図?」

「うん、地図だよ。

 やけに未来っぽい3D映像で出てきて驚いたけどね!

 動く点がいくつかあったんだけど、同じ場所に2個点があって動かないから気になって来ちゃった!」

 彼女は敵意の欠片も現さず笑顔で此方の問いかけに答えてくれる。


「……消えろ」

 こんな状況に陥っていても笑顔である事は異常な気がする。

 それでも、その表情からは狂っているような気配もない。

 恐らくは、大丈夫だろうと判断しナイフを消してしまう。


「腰を落ち着けて話をしようか?」

 竈に案内し座るように彼女を誘導する。


「あの……、ジンさん大丈夫ですか……?」

 竈前に移動したことで、ちよりも気付いたようだ。

 洞窟から此方を覗いている。


「きゃぁぁぁぁあ!

 何この子可愛い!」

「にゃ!ちょ、イヤ!何処触ってるんですかー!」

 彼女も気付いたようで、あっという間にちよりの元まで奇声をあげて走りより抱きついていた。

 ちよりは、本気で嫌がり涙目になっている。


「良いではないかー、良いではないかー!」

「あっ!服の中はダメです!!」

 あ、胸元に手を突っ込んだ。


「おい、やめろ。……流石にやり過ぎだ」

「えー、もうちょっと!」

 名も知らない彼女をちよりから引き剥がし竈前に無理矢理座らせた。

 彼女は不機嫌そうに言葉を漏らすが無視を決め込む。

 ちよりも、気にはなっているようで洞窟内から出てきて竈に近づいてきた。

 どうやら警戒をしているようで、俺の背後に隠れてしまった。


「さて、詳しい話をしようか」

 まず、地図の事を聞こうとしたのだが自己紹介から始める事になった。


 自分達の紹介も終えて彼女の事を聞く。

 しかし彼女も類に漏れず、記憶が無かった。


「んー、まぁ良いんじゃないかな。現状何か不便が有るわけでもないし。その時になったら考えれば良いよね」

 とは、記憶が無いと発覚した彼女の言だ。


「なんと言うか、ジンさんも貴方も楽観的過ぎじゃないですか……?」

「そうか?」

「そうかなー?」

 はぁーと溜め息を吐き頭を抱えているちよりがそこには居た。


 名のない女性、いや『セン』と名乗る事にした彼女はどうやら俺達とは最初の状況が違ったようだ。


 最初の場所は、山の山頂だったらしい。

 側には、選択した物がある。周囲には、果実が実っている木々が成り、湖が有る。

 彼女は、一瞬楽園の夢とも思ったそうだ。


 近辺を探索してみれば、四角く削られた石板がある。

 それに触れると、島(やはり無人島らしい)の全体図と思われるものが立体的に表示されたという。

 地図上には、動く赤く光る点が幾つも有る。その山頂には自分を指しているらしき赤い点が有った為、恐らく人だと判断したとの事だ。

 ふたつの点が、同じ場所に戻っている事に気付きここまで来たのだとか。


 そして、選択した物に付いて聞くと。

 彼女は何も『言わず』、右手前の空間から『ピアノ線』を出していた。


「なっ!何故何も言わずに出せる!?」

「え?

 いや最初から考えれば出せるよ?

 君達もそうじゃないの?」

 どうやら意外だったのだろうか、驚いた表情で此方を窺っている。

 本当に知らないようだ。

 一応試してみるもダメだった。先日調べていたのでそうだとは思っていたが。


「ステータス見れば分かるんじゃないでしょうか?」

 ちよりから、良い意見が出た。

 当の彼女は、首を傾げている。どうやらステータスに関しては知らないようだった。


『ステータス開示』やはりこの言葉で彼女にもステータス板が出てきたようだ。

 これに関しては恐らく同じなのだろう。

 しかし、ステータス内容を聞くと全くの別物だった。


 俺達とは違い。一枚の板が半分に別れているということがない。

 一番上に、『ピアノ線Lv3』と記述。

 名称の下には、謎のゲージ。恐らくは俺達のローマ数字と同じように経験値であろう。

 ゲージ下には、

『本数Lv1』

『強度Lv1』

『操作Lv1』

『動作Lv1』

 と書かれているそうだ。


 隣ではちよりが「やっぱりゲームみたいです」と呟いていた。

 当の本人は「異世界!」とか言っている。

 はっきり言って訳がわからない。


「あ、レベル上がっちゃった」

 センが、手元を動かしているとポツリと言葉をもらした。


「悪い、それはどういう事だ?」

「ジンさん、つまりは成長したって事ですよ!」

 ちよりから、フォローが入るがそうじゃない。

 流石に俺でもレベルアップの意味くらい分かるわ。


「弄ってたら何か出てきたからYesって押したんだけど。

 そうしたら本数Lv2になったよ!」

「……本数ってことは出せる数が増えるのか?」

「さぁー?試してみるよ。あっ、2本出せた」

 センは思案顔で、両手前の空間からピアノ線を出した。


 調理道具一式と刃物でも違う所はあったが、更に別物のようだ。

 他の物へは変わらない。

 個数も変動。

 発言しないでも出せる。

 共通点があるのか、無いのかすら分からなくなってきた。


 複数系の解答と、単品系の解答の違いか?

 何となくそんな気もする。


 そんな考えをしていたら、センは更に操作のレベルアップをしたらしい。

 目の前で、ピアノ線が一人でに動いていた。

 思った通りに少し動くと言うのだが、見てる分にはミミズが動いているようにしか見えなかった。


「よし、それじゃあ早速皆で山に登ろう!」

 センは満足したのか、ピアノ線を仕舞い驚きの内容を口にする。


「……いや、いつか登ろうとは思っていたが今からか?」

「え、登る予定だったんですか!?」

 あ、ちよりに言った記憶がないや。

 まぁ、今言ったし大丈夫だよね。


「そうそう、今から!

 石板に、生存者を集めろって書いてたんだよ。

 何か起こると思わない?」

「そういう重要そうな情報は先に言え!」

 この島に連れてこられ原因などが分かるかも知れないとすぐに準備を開始した。





 あぁ、そうだったと元気に前を歩むセンを見る。

 鼻歌混じりで、坂道を歩いている。

 その背後には、鹿肉の燻製や毛皮がピアノ線で持ち上げられている。

 異常な光景ではあるが、荷物を持たなくて済み楽ではある。


 ちよりはと言えば、疲れて歩けないようでおんぶして運んでいる。

「ジンさん、すみません……」

 気にするなと呟いて、センに置いて行かれないように足を進め出した。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回話もよろしくお願いします。

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