自分の名前
翌日、天井にある穴から光が射し込み目を覚ます。
地面が固いせいか体が強張っていた。
体を動かして解しながら周囲を確認すると、洞窟内に少女が居ないことに気付いた。
耳を澄ますと、洞窟の外から物音が聞こえた。
様子を見に洞窟外に出てみると、竈の前で少女がぶつぶつと独り言を言っている。
「……数字はレベルでしょうか。けど無いのもありますね……。」
言っている意味は分からない。
俺が近づいて来たのに気付いたのか、少女は此方に挨拶をしてきた。
「お兄さん、おはようございます!」
「あぁ。おはよう。」
挨拶を返して、竈を覗いてみる。
やはりというべきか、火は消えていない。
昨日見たときよりは、灰になっている部分が多いようだ。
「お兄さん、お兄さん!
朝御飯は何ですか!」
「ない」
期待したような目で此方に語りかけてくるも、返せる言葉はこれだけだ。
「そんな……」
実に残念そうだ。
とはいえ、実際に食べるものはない。
桃モドキでも取りに行けば話は別だろう。
問題といえば、ここから一時間半程掛かるくらいだろう。
「ここからだと時間が掛かるけど、食べれる果物があるから一緒に取りに行くか?」
一応聞いてみる。
断られても1人で取りに行くつもりだった。
彼女は、目を輝かせて頭を縦に何度も振る。
取りに行くことが決まったようだ。
入れ物がわりになるだろうと、体に巻いておいた大きな葉と蔓を外して彼女に渡そうと思ったのだが。
蔓はともかく、葉はボロボロになっていた。
付けたまま寝てしまった為、恐らく寝返りが原因だろうと当たりを付けるも、後の祭だ。
途中で新しく手にいれるか。
とりあえず、行くにしても朝の準備する時間くらいは欲しい。
川に近寄り、口に含んでうがいをしていく。
歯も磨きがたい所だが、何も用意していない。
適当な枝でも取って用意するべきだろう。
そうすると、磨き粉代わりに塩なども欲しいところだ……。
一応水分補給も済ませ、顔も洗っていく。
水を見ているとふと思い出す。
自分の顔を確認しておこうと、川を見てみるも流れがありわからない……。
刃物で見るかと考えるも、顔が映るほど磨かれている刃物はない。
さて、どうするべきかと考えてる時に彼女の能力を思い出す。
「悪いんだけど、フライパン貸してもらえないか?」
「はい、どうぞー」
彼女に近寄り、フライパンを出してもらう。
また川に戻り、水をフライパンに掬い地面に置くと水面が落ち着くまで待ってみる。
フライパンの中の水が落ち着いたようだ。
水面に顔を映すとそこには、少し眼付きの悪い青年と言うべき顔が写っていた。
年齢にすると20代前後だろうか?はっきりとはわからない。
黒髪、黒目の為恐らく日本人だろう。
たとえハーフだとしても、どこの国とのハーフかなど確認のしようもないのだが。
これからは日本人、20歳ということにするか。
身長は、少女との比較で恐らくは180センチ前後だろう。
体重はわからないが、体を見る感じ肉付きは悪くない。
自分の情報を埋めていく。
こうなったら、名前も決めてしまおう。
何か参考になるものはないかと、考えを巡らす。
やはり、『刃物』から取るべきだろうか。
記憶にある限り、自分で一番最初に決めた内容だ。
自分を表すには最適だろう。
刃物…、やいば…、ジン。
『ジン』にしよう。
考えも纏まり、フライパンを持って少女の傍に近寄る。
「フライパンありがとう。君もまだ自分の顔を確認していないなら、見てみるといいよ。」
と言い、彼女にフライパンを渡してしまう。
彼女も確認していなかったのだろう、渡されたフライパンを地面に置き確認をしていた。
その間に、今日何を行うべきかの確認をしてしまう。
まずは食料だろう。
桃モドキ以外にも何か見つかればいいとは思う。
次に寝床の調整。
流石に固い地面の上で寝るのは、あまりしたくない。
葉っぱでも集めればいいかと思う。
昨日は平気だったが、排泄場所なども作るべきだろう。
流石に垂れ流しなどはしたくない。
細かいところでは、歯ブラシなどの生活雑貨だろうか。
まぁ、これの重要度は低いだろう。
そして最後に、この島(?)の確認だろうか。
そもそも、本当に島なのかも分かっていないのだ。
地続きの土地の、端っこかもしれない。
一度全容を知る為に、高い場所にでも行くべきだろう。
上流に目を向ける。
ずっと向こう側は、山なりになっている。
流石に1日で行ける距離ではなさそうだが、一度は登らないと行けないだろう。
さて、少女の方はと見ればもう確認が終わっていたようだ。
俺を待っていたらしい。
「お兄さん、準備終わりましたか?」
どうやら気を使わせたらしい。
「待たせて悪いな、もう大丈夫だ。
あとお兄さんじゃなく、これからは、ジンと呼ぶといい」
「え、あ、はい……?
あぁ、もうお名前決めたんですか?」
「あぁ。アンケートで答えた『刃物』から取って、ジンと名乗ることにした」
「アンケート結果からですか……。
私も『調理器具一式』から取るべきですかね?」
少女はまだ名前を決めていなかったらしい。
こちらに話を振られたが、『調理器具一式』から女性らしい名前が思い浮かばない。
「いや、別に取る必要はないんじゃないか?
ただ自分を現せられればいいだけだし。」
「何故か、ますます取らないとイケナイ気がしてきましたー……。
……そうですね、私はこれから『ちより』です!」
どうやら決まったらしい。
恐らく『調理』から取ったのだろう。
「あぁ、これからよろしく、ちより」
「はい、よろしくお願いします!ジンさん!」
こうして俺たちは、自分の名前を手に入れた。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回話もよろしくお願いします。




