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影の正体 <3/4>

「えぇー、そんなに私の事が知りたいんですか?」

 頬を赤く染め、左手を頬に添えて此方を見てくる。


 ……何か齟齬があったようだが恐らくスルーした方がいいだろう。

「あー、そうだね。どうやって俺がいるところまで来たのかとか、何か情報があるかなと思ってね。」

「……それだけですか?」

 少し不機嫌になってしまったようだ。


 一応フォローしておく。

「いやいや、勿論君の名前とか詳しいことも知りたいかな。」


「えぇ、そうですよね!

 まずは私のプロフィールからですよね!」

 と続けてきた。

 考えてみれば、彼女の名前を聞いていないので丁度良かった。


「私の名前は、……あれ?

 え?

 何でッ!?」

 何か様子がおかしい。

 焦った様子で、明らかに顔色が悪くなっていく。

 まさか、さっきの油か!?


「おい、どうした?

 顔色が悪いが大丈夫か!?」

「……名前が思い出せないんです。いや、名前どころか自分の事が何も出てこないんです。」

 声が震えている。

 よほど怖いのだろう。


 俺は正直、油が理由じゃなくてホッとしている。

 流石に共倒れはしたくない。


 そんなことを考えているとは、顔に出さず問いただす。

「本当に覚えてる事はないか?

 例えばここに来ることになった前後とかはどうだ?」


 彼女は自分の記憶を反芻しているのだろう。

 頭を押さえて俯き考えている。

 思い出したのだろうか、頭を上げ此方に視線を向けた。

 目尻には、ほんのりと涙が浮かんでいた。

「覚えているのは、アンケートが私のスマホに出てきた所からです。

 それ以前に関しては何も分からないです……。

 家族構成なども思いだそうとしたんですが何も出てきません……。」


 恐らく記憶喪失なのだろう。始めて見たわ。

 不謹慎な事を考えていたが、話は続いていたようだ。

「……お兄さんは、自分の記憶あるんですか?」

 その言葉に、当たり前だろと口には出さずに嘯く。



 無かった。

 不謹慎な事を考えていたが、まさか自分も記憶を無くしているとは思ってもいなかった。


 まず自分の情報が出てこない。

 鏡という存在を知っているのに、自分の顔はどんな造詣をしていたかも分からない。

「俺も記憶無いみたいだわ」



 場には、バチバチと火が爆ぜる音だけが支配する。



 静寂を破ったのは俺だった。

「まぁ、いいんじゃない?」

 心から思って出た一言なのだが、まるで他人事の様な台詞だ。


「何を言ってるんですかっ!?

 自分の記憶ですよ!

 自分が誰かも分からないのに、それのどこがいいって言うんですか!」

 初めて合ったとき、泣いてた子と同一人物とは思えないほど、怒っている。


「いや、知識とかは残ってるみたいだしさ。

 記憶に関してはこれから作ればいいだろうし。

 自分が誰かなんてのは、自分で決めていけばいいだろ。

 自分の名前が分からないなら、名付ければいいし。

 顔が分からないなら、鏡を見ればいい。

 それだけだよ」


 彼女は俺の言葉を聞いて、呆けている。

 何か考えているようだ。


 また少しの時間沈黙が続くが、それを破ったのは彼女だ。

「正直納得出来ないのですが、記憶が戻るか分からないですしね。

 とりあえずは、私もお兄さんの意見に乗っておきます。」

 まだ迷っているようだが、表情は今日一番の笑顔を見せてくれた。



お読みいただきましてありがとうございます。

次回話もよろしくお願いします。


(2014/11/22) タイトル修正

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